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八四話 親子喧嘩

 今、俺の前には親であるロイ・ローゼンが座っていた。


「んで、お前は急に現れたと思ったら、使用人を寄越せ。……か」

「ああ、そうだ」


 この男と話しているとイライラしてくる。

 これが反抗期なのだと頭の中で理解しているが、心の中では納得しない。


 実は反抗期を初めて体験したが、かなり厄介だな。


「ほんの一週間でいい」

「お前。どの口でそんな事を言っているんだ?」


 金を机の上に出す。


 すぐに手を出してしまいそうになる。

 このモヤモヤを早く無くしたい。


「これで、いいだろ」

「お前がやっていることを分かりやすく教えてやる」


 何を言い出すかと思えば、説教か。

 金は万国共通の便利な物のはずだ。


 文句を言われる筋合いはない。


「傲慢な。ブタ貴族共と同じだ」

「ふざけるな! 俺はあんな奴らと同じじゃない!」


 傲慢とブタ貴族の例えはおかしい。


 どっちも俺の心に深く響いた。

 俺より弱いくせに正義を語りやがって、ムカつく。


 頭を掻きむしりながら、考える。

 目の前の男を黙らせる方法を。


「同じだ。現にお前は一切頭を下げていない」

「死ね! ()()()()!」


 あれ? 俺ってこんなに短気だったけ?

 上手く頭が回らない。


 いつもなら、一番最初に頭を下げれていたのに……

 頭では分かっているのに、行動したくないもどかしさ。


「分かった。お前の好きにしろ。ただし……」


 空気が変った。

 今まで味わったことの無いような、息のしずらさだ。


 殴り合ったら、俺の方が確実に強いはずなのに。


「ローゼンの名を使うな」

「言われなくても使うか! そんな、名前」

「侮辱したな!」


 一発殴られた。

 全く痛くは無いはずなのに、確実に心が抉られた。


「何しやがる」

「ローゼンの名前は、五百年以上の歴史がある。それをお前は侮辱した」

「何が歴史だ。【魔剣召喚】以外に何の取り柄も無いような歴史じゃないか」


 俺は何を言っているのだろうか?

 自分で自分の本心が分からない。


 本当はローゼンの名前を(けな)す気なんてないのに。

 大切な仲間の名前なのに。


「分かった。そこまで言うなら、絶対に剣聖の座をお前に譲らない」

「こっちから願い下げだ。剣聖より賢者の方が剣で強い。そんな、落ちぶれた称号いるか!」

「お前。剣聖も侮辱したな」


 自然と握られていた拳が、震え始めた。


「ああ、剣聖もローゼンの名前も俺には要らない。こんな家じゃなくて、その辺の村の平民に生まれた方が楽しかっただろうな!」

「……」


 クソ親父(ロイ)が黙った。


「何が貴族だ! 豪華な食事も無ければ、領地も無い。おまけに何もかもが白い。俺は黒い落ち着いた色が大好きなんだ」


 今までの不満をぶつけていく。


「生まれてから数日の俺を適当に持ち上げて、あと一歩で殺そうとした母親。俺に追いつくと言って、全然()()()()()()。無駄に知識を持って()()()()()()()


 心から何かかが溢れ出す。


「父親だって、剣聖って持ち上げられているくせに賢者に剣で負ける。ガイゼルが見たら一族の停滞を泣くだろうな」

「……」


 何か言い返せよ。


「転生できたと思ったら、この惨状だ。張り合う相手もいない。俺が甘えられる人間なんて、何処にも存在しない。俺に甘えるしかできない。そんな奴らばっかりだ」

「リュウ」

「後な、俺は転生する前はこの世界の勇者だ。この世界の為に何年かを無駄にして頑張ったんだぞ!」


 運が悪すぎる。


「なのに。……なんだよ! この世界は俺に何の楽しみも用意してくれない。分かるか? 忠義を誓っていない神に玩具として遊ばれて、終わったら放置だぜ。ふざけるな」


 全く関係のないようなことまで、口走っている。

 頭では分かっているが、止まれない。


「最近、種族差別を撤回するためにハーフ系の奴隷を買った」


 ロイの表情が微かに引きつった。


 アーツ王国は種族差別をしないと公言しているが、ハーフだけは未だに差別をしている。

 どうして、こんな世界になった?


「そもそも、俺と魔王は世界の平和の為に命を犠牲にした。それなのに、この世界はなんだ? 結局、俺たちは無駄死にだったのか?」


 目の前がぼやけてきた。


「種族差別は意地でも解決する。例え、世界を敵に回しても。薄っぺらい世界なんて、もう御免だ。俺は自由を無くしてくれる鎖を見つける」


 クソ! 一体何を言いたいんだ? 


「少し、頭を冷やしてくる」


 どこでもいいから、今は誰もいないような場所に行きたい。

 クウが俺の意志を汲み取って、転移をした。


 ――――――


 今、俺はどこかの丘で三角座りをしている。


 地面のみを見つめる。

 自然と心が落ち着く。


「俺は最悪な男だ」


 冷静になれば、ほとんどが自分が悪いことは分かっている。

 特に家族の悪口は言うべきじゃなかった。


 全く馬鹿なことをしてしまった。


「どうすれば、いいんだろうか?」


 地面に話しかけているだけでも、心が落ち着く。


「何をすればいいんだ?」


 やってしまった分は償いをしないといけない。

 言葉のナイフは現実のナイフよりも強いと聞いた事がある。


「あー!」


 思いっきり叫んでみた。


「煩い。ちょっとは黙れないの?」

「す、すいません」


 急に声を掛けられて、唐突に謝ってしまった。

 顔を上げて、話しかけた人をみた。


「その、角は」

「人間がなんでここに」

「魔族。ここは魔族の町の近くか」


 魔族の少女が話しかけていたみたいだ。

 年齢は俺より、一、二歳位上。


 黒髪で正直、美少女とは言えないほどの容姿だった。

 比べるなら、俺の弟子たちやユミナの方が二枚位上ぐらい。


 魔族が他種族に嫌われている以上。人族の町が近くにあるとは考えにくい。


「あそこが、魔王城なのだけど」


 少女の指さした方向を見る。


「確かに魔王城だな」


 見覚えのある城が建っていた。


「もう少し、ここにいたら去る」

「しょうがないわね。私が聞いてあげる」


 隣に少女が座ってきた。

 いつもの俺なら、何もしないだろうが少し話をする。


「俺はな、剣聖の息子なんだ」

「ふーん。剣聖。剣聖!?」

「ああ、世界で有名な剣聖だ」


 少女が驚くのも分かる。

 適当に座っていた少年が世界最強クラスの人族の息子だったら誰でも驚く。


「俺は人生で初めて、反抗期になってしまったんだ」


 少女が一切反応しない。

 話すだけでも楽になれると思い話を続けた。


「家族の悪口を言ってしまったんだ」

「なんだ。そんな事ね」

「そんな事。……だと」


 こっちは真剣に悩んでいるのに『そんな事』と一蹴された。


「だって、そうじゃない。こんな所で煩くされた私の方が深刻よ」

「お前に何が分かる」


 隣に座っている少女を睨む。


「全く、男って馬鹿ね。そうやって、怒る事でしか出来ないの?」

「うっ」


 何も言い返せない。

 現状、俺が怒っていたせいでこの事態が起こった。


「私は不満を聞いて相槌だけをうつだけの女に見えた。剣聖さん」


 少女の無駄に棘のある言葉が突き刺さった。



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