八三話 暴力
コンが少女の顔を思いっきり殴った。
「いきなり、暴力で訴えるのは止めような」
今回はしょうがないとしても、何年か後に王になったら、簡単に暴力を振るわれたら困る。
「弟分。大丈夫?」
「弟分?」
「そう。この師匠の元で学ぶ同志」
勝手な解釈をされているが、さっさと帰りたい。
「じゃあ、帰るぞ」
手を差し出した。
マクロは首を傾げているが、コンが強制的に俺の手を握らせた。
転移で木の家まで帰った。
紫髪の少女が家の前に立っていた。
「やあ、リュウ。久しぶりだね」
「ドク。二週間ぶりだな」
大体の事を教えて、しばらくは自主練習にしていた。
何故ここにいるのかは不明だ。
「私もユミナさんみたいに上位の龍になったから、勝負をしたいなって」
「私が師匠の代わりにお相手しましょう」
コンのハイライトがいつの間にか無くなっていた。
「まあ、面白そうだからいいと思う」
マクロの手を握り、同性を意識した。
――――――
真っ白い空間に全力で結界を張った空間を作った。
『クウ。あれを頼む』
『分かりました。《断絶空間》』
空間そのものを切り離した。
これで、周りには被害が出ないだろう。
二人が構えた。
「では、勝負始め」
やる気のない声で始めた。
「リュウの弟子は私が最初だよ」
結界の中が一瞬で毒で満たされた。
睡眠性の毒のみを限定的に出せるようになったドクはかなり成長している。
「師匠から、殺さない様に指示されているので半殺しで終わりです」
一切効いていないコンは既に化け物だ。
コンがドクを殴りかけた。
「【憤怒】。舐めないで欲しいね」
三年前は暴走して、俺を殺しかけたスキルを使った。
修行でドクがコントロールが出来るようになったスキルである。
「そろそろ、私も本気を出します」
「残念だけど、それはさせない」
コンが崩れ落ちるようにして、倒れた。
【憤怒】によって強力になった毒が体に回り切ったみたいだ。
コンが動かないのを確認する。
「勝者、ドク」
《結界》と《断絶空間》を解除する。
「これが、私の妹分かー。強かった」
「今回は戦略の勝ちだろうな」
「【憤怒】も使ったからね」
寝ているコンを担ぎ、元の場所に転移した。
――――――
コンをベッドに寝かせた。
「で、今日はどんな用があったんだ?」
ドクに今日来た理由を訊いた。
「そうだった。今日は話があって来たんだった」
「簡潔に頼む」
「大罪スキルを持つ人が世界に宣戦布告することになりました。そこで、リュウたちには一切手を出してほしくないことを伝えに来ました」
あまりに唐突な回答に流石に動揺してしまった。
宣戦布告?
確か、最近は戦争をやっている国は無いはずだ。
「最近、憤怒の邪神って名乗る神から連絡があってね。七人が集まったんだ」
「へえ、面白そうだな」
「それで、邪神を布教しようってなってね。その流れで戦争をしようって」
何故、戦争をしたがるかは分からない。
そもそも、布教は教会でやってどうぞの世界である。
関わりたくない。
「手始めに暴力を使わない世界統一をするから。そして、種族差別を暴力を使わずに達成する」
前言撤回。
血を流さない戦争なら、俺も参戦したい。
「リュウが関わると、すぐに終わっちゃうから。つまらなくなるんだ」
「残念だが、既に参加をしている」
種族の壁を少しでも無くす為に、龍人のジョンを世界に放った。
あの正義感の擬人化をしたような男が有名になれば、確実に壁は薄れるだろう。
最終的には弟子たちが国を建国すればいい。
その時は俺も全力でサポートをする。
「そっか。なら、私たちとどっちが早く目的を達成するか勝負だね」
「ああ」
大罪スキルを持つ者たちは布教という目的がある。
だが、俺の目的は何だろうか?
別に全種族が仲良くなった所で俺に何のメリットがある?
分からない。
でも、自由じゃなければ怖くない。
「私はこの辺で帰るよ」
「じゃあ、俺は新たな弟子を育てているから困ったらいつでも来い」
窓からドクが出ていき、【龍化】を使用した。
毒々しい紫の鱗の生えた龍が空を飛んで帰って行く。
「コン。起きているだろ」
「はい。師匠」
ベッドに寝かせたあたりから、起きていることは知っていた。
「私たちが師匠に育てて貰えて、嬉しいです。しかし、私たちは何をするためにいるのでしょうか?」
予想はしていたが、かなり哲学的な事を聞かれた。
俺の方が訊きたい。なぜ、生きているのかを。
「まあ、教えてもいいか。お前たちには国を作って欲しい」
「じゃあ、早速。作ってきます」
「待て! 国って何か知っているか?」
「え!? あれですよ。ほら、世界を征服するものですよね」
駄目だ。一切、教養が無いせいで謎の解釈になっている。
「よし、そろそろ戦闘訓練を終わりにするか」
力なら、十分すぎるほど弟子たちは手に入れた。
後は正しく振るうための知識が必要になる。
「俺は下準備をしてくるから、しばらくは二人に従ってくれ」
「分かりました」
転移で久しぶりに血の繋がった家族の元に帰った。
――――――
剣を振る風切り音が聞こえる庭に行った。
「兄さん。久しぶり」
シュウが素振りを止めて、俺に気付いた。
右腕の義手はちゃんと機能しているみたいだ。
「腕と目は大丈夫か?」
「そのことで質問があるんだけど」
「分かった」
何か問題があれば、すぐに対応しなければいけない。
「まず、目だけど。今は見えないけど人からモヤモヤしたものが見えるんだ」
「具体的には?」
「例えば、父さんからは赤色で体の三倍はするようなものが出ていて。母さんからは黒色で体の二倍位の大きさのものが出ていたよ」
謎の副作用が起こっているみたいだ。
ある程度、似たようなものは知っている。
魔族の少女。アルレの強さが見えるというオーラだろう。
「それは、力の強さを表す。オーラとでも思ってくれ」
「分かったよ。次に腕だけど、……これは見て貰ったら早いかな」
シュウが右手を木に向けた。
瞬間。シュウの手から真っ黒いビームのようなものが出て木を折った。
「これ、どうしよう」
「コントロールできるか?」
「うん」
「じゃあ、気にするな」
無責任な気もするが、コントロールできるなら気にする必要は無いだろう。
「他に不具合はあるか?」
「いや、もうないよ。これとは関係ないけど一ついい?」
「ああ」
何だろうか?
「最近。向こうの方から強大な力を感じるんだけど、何か知っている?」
「そこは、賢者が住んでいるからな。気にするな」
「そうなんだ」
これ以上は質問は無いみたいだ。
「じゃあ、お父様に会いに行ってくる」
会いたくない気持ちを抑えて、屋敷の中に入っていった。




