八一話 インフレ
少女たちを鍛え始めて、一週間が経った。
結論から言おう。
……こんな、化け物になるとは思っていませんでした。
だって、一人ひとりがレベルワンを付けた俺と互角近くで戦闘してくる。
一週間でこれだと、数年の内に本気の俺を殺せるまで強くなるだろう。
消滅と創造の力を使うことを想定しない場合に限るが。
あの二つの能力は明らかに強すぎる。
今はデンの武器のお披露目会をしている。
場所はクウと時間の精霊とやらが作った真っ白い空間。
「どんな兵器なんっすか?」
「兵器じゃなくて! 発明品! 分かった!」
「声大きいっすよ。耳に響くっす」
後輩口調なインが、デンに話しかけた。
どっかの工房に居そうな親方みたいなデンの怒鳴り声にインが頭にある耳を丸めた。
この一週間で交友関係も大体しっかりしてきた。
コンが俺に尻尾を絡み付けるように近寄ってきた。
「師匠。今回はどんな『でたらめ』兵器が出されると思いますか?」
「そうだな。昨日は火炎放射だったから、今回は冷凍光線じゃないか?」
「デンの作る物は凄いですね」
「ああ」
黒い尻尾を首や頭の殺しやすい所に置くのは悪意を感じてしまうが、何も抵抗しない。
右方向を見ると、デンと同じドワーフのエネがガイゼルの服の袖を引っ張っていた。
あの二人は結構仲がいい。
「愛してる……」
「今回の兵器はアイシーテルって名前なのか」
「もう」
仲がいい。
それにしても、難聴すぎないか?
次に左側を見る。
こっちはかなり特殊でエルフのシザが四つん這いになって、レイのイスになっている。
見た目的には少女が少女に座る。まだ、罰ゲームかなと思える。
「お姉様。もっと体重をどうぞ」
「きもいのじゃ」
「ありがとうございます! はあ、はあ」
いい関係なんじゃないか?
あまり、見てはいけない気がする。
「本題! 注目ー!」
デンの方向を向く。
さて、どんなぶっ壊れ兵器が出来たのだろうか?
「ネン。星一つ」
「はいよー。《星制作・金星》」
白髪のネンが魔法で星を作り出した。
本物よりはかなり小さく、ギリギリ視界の中に入り切っている。
それでも、圧倒的な魔力から作られる星は大きい。
ちなみに星については俺が教えた。
中学生レベルの説明でここまで再現できるとは、思ってもいなかった。
「今回の発明品はこれ! 星壊滅級のミサイル!」
デンが手に持ったのは手のひらサイズのミサイルだった。
「これを持った状態で目的の場所を強く念じる」
ミサイルが作られた金星に向かって、発射された。
身の危険を感じた。
魔法の障壁を張るのは面倒臭いので何もしない。
ミサイルが金星に当たった瞬間、無音になった。
「《星制作・ブラックホール」
ネンの毛が逆立ったと同時に真っ黒い霧状の何かが、金星と俺たちの狭間で発生した。
爆音も無く、一つの星が消えた。
破片が俺達に向かって飛んでくるが、黒い霧に触れるたびに粉々になっていく。
これが、ブラックホールの力だ。
俺でもブラックホールに触れたら一瞬で粉々になる。
この強さがあれば、戦闘面に関してはもう教えることが無いと感じる。
変則的な回転をして、ブラックホールを避けた破片が降ってきた。
コンが俺の体に巻き付けていた尻尾を解いた。
そして、無言で当たりそうな瓦礫を尻尾で砕いた。
コンの尻尾には、【最硬化 十】相当が使われている。
普段はふわふわ柔らかいが、戦闘時にはオリハルコンより硬くなる。
この尻尾を使った戦闘スタイルは俺でも苦戦する。
「邪魔。消えて」
一方、ガイゼル達の方は、エネが短剣を持った。
そして、エネに当たりかけた所で岩が粉々に砕けた。
圧倒的な速さで剣を振るったため、動いていない様に見える。
これが、エネの戦闘スタイル。
俺でもあの速さで剣を振るうのは不可能だ。
『あの、盛り上がっている所すいません。時間の精霊がモンスターを連れてきたのですが……』
クウからの連絡を受けて、周りを警戒して観察した。
一週間前に出会った獣が五体ほどこっちに向かって走っていた。
「獣如きが姉様に近づくな」
シザの影から、四体の分身が現れた。
赤、青、黄、緑とそれぞれが、違う髪色だった。
四人がモンスターに高速で近づいて殴った。
あるモンスターは蒸発し、あるモンスターは液状化した。
再生が不可能なレベルまでの攻撃がなされた。
しかし、時間の精霊が連れてきたモンスターには時間を戻すことによる再生がある。
次第にモンスターが体を戻し始めた。
「喰らえ」
シザの分身がモンスターを食べ始めた。
分身だからこそ、出来る芸当なのだろう。
モンスターは抵抗したが、一瞬にしてシザの分身に完食された。
分身の体内は髪の色に応じた地獄が形成されている。
例えば、赤髪のシザは獄炎の地獄である。
異次元と思えるほど広い溶岩のプール中で暴れる。
俺も一回あれを味わったから分かる。
あのモンスター程度では脱出は出来ない。
時間を戻したところですぐに死ぬレベルのダメージを負い続ける。
想像しただけでも体が震える。
残り一体が残った。
「もう一つ。発明品紹介」
いつの間にかデンが槍を持っていた。
「これの能力は存在不可能。親方から貰った消滅の力を搭載した槍!」
ちなみに親方は俺の事だ。
元の世界の知識をなんとなくで教えたら、デンが過激に再現する。
今、デンの手にある槍は俺の消滅の力を纏っている。
まさか、消滅をコントロールする武器を作るとは思わなかった。
「ちょっと、ネン! これ!」
「しょうがないなー。《逆・重力》」
ネンの魔法によって、落ちるようにして、槍が横に移動を始めた。
モンスターは迫る槍を躱す。
速さが足りなかった。
しかし、槍は軌道を変え、再びモンスターに向かって落ちる。
「逃げても無駄なのにー」
モンスターは何度も槍を避けた。
槍は等加速度直線運動を続けるように加速する。
とうとう、躱しきれなくなりモンスターに槍が掠った。
「掠っても全部消せない。改善点」
デンがメモを取り始めた。
掠ったら消える武器なんか作れるはずはない。
槍がモンスターに刺さった。
次第にモンスターが消え始めた。
槍に纏われている消滅の力は俺の物なので、代償を払うのは俺だ。
消滅の代償は何かを創造すること。
逆の時よりは悲惨な事にはならないので、対処は簡単だ。
槍はシザの分身の腹も貫いた。
「ネン。借りた」
四つん這い状態のシザがネンの魔法に干渉していた。
シザはネンのような膨大な魔力がある訳では無い。
魔力操作の巧みさがシザの売りだ。
黒い尻尾に首を触られながら、次の教育を考えた。




