八話 冒険者組合
ロイのノリで冒険カードを貰いに冒険者組合という建物の前に来ている。ちなみにクレアは買い物に行っている。女性の買い物は長いのでロイも行きたくなかったのだろう。
大きさは元の世界に小中学校ぐらいの大きさだ。
「着いたぞ。舐められないようにするんだぞあいつ等は子供には少し厳しいからな」
予想だが、子供に危険な仕事をさせたくないから、ちょっかいを掛けているのだろう。金を要求するクズはいないと信じたい。
俺は子供でちょっかいを掛けられそうなので、顔をフードで隠しているが、何故かロイもフードを被っている。更に庶民的な普通な服を着ているので、外から見たら、怪しい平民の親子に見えるだろう。
ロイが冒険者組合に入って行く。俺も後をついて入っていく。中にはむさ苦しい男どもがイスに座っていたり、受付の人と喋ったりしていた。
俺たちの所に一人の男が来た。もしかして、あのテンプレが起こるのか。楽しみだ。
「おい。子供はまだここに来る場所じゃないんだよ。親父について来たといってもただ見学か冒険カードを作るだけで、終わると思うがな、まあ、帰って強くなるんだな」
この人、絶対優しい方の人だ。正直、どうしようもないクズが来て教育してやるとかほざいて金を取ろうとする奴が来ても面白かったが、面倒臭いので優しい人が来てくれて良かった。
「ご忠告。ありがとうございます。今回は冒険カードを作ろうと思っています」
「おう、忠告って訳ではないんだが、まあ、変な奴が多いここではそんな真面目な喋り方じゃなくてもいいんだぞ。後、困ったことがあったらお前の親父に聞いておけ」
周りの冒険者たちが「俺は普通だ」や「坊主。こいつの言葉を信じるなよ」と言ってきた。もしかして、この、建物にいる奴は優しい人が多いのか。
アットホームな職場です。が本当にあったことに動揺しているとロイが優しく俺の背中を叩いてきた。
「さあ、受付に行こうか。リュウ。お前が好きな受付嬢の所に行け」
受付を見てみる。正直、どの子でもいいので、一番空いている所を探した。丁度人が並んでいない人の所へ行った。受付嬢の見た目は緑髪で眼鏡を掛けた。真面目系の少女だ。
近づいていくほどカウンターのせいで少女が見えなくなった。
「今日はどのようなご用件ですか」
言葉しか聞こえないが見た目通りで真面目そうだ。この賑やかな冒険者ならあまり付き合いたくないなと思うだろう。でも、俺は真面目な奴は嫌いじゃない。
「俺の息子の冒険カードを作ってくれないか」
俺のことを言ってくれていると思ったので見えやすい様にカウンターに手を掛けて乗りあがった。
「僕のことです」
背が小さいと不便だ。六年で成長したとはいえ、高校生の背の高さに比べたら違和感がある。
「この子のカードですか。分かりました。……ねえ、僕。この紙に名前とか書いて貰ってもいいかな」
受付の人が紙を出してきた。紙には名前とスキルと精霊数を書く欄がある。それとこの受付嬢、子供に対して甘い気がする。ここは子供というメリットを生かそう。
「お姉さん。スキルって全部書くのでしょうか」
スキルを全部書くと他人に自分の手札を晒すことになる。それは嫌だ。
「いいですよ。でもね、その場合はパーティーを組みにくいよ」
確かにどんなスキルを使えるか分からない人とはどんな作戦を立てようか決められないので、俺も組みたくないな。
「分かったよ。ありがとうお姉さん」
俺は紙に名前とスキルの【剣術】と【鑑定】を書いた。他のスキルは少し特殊な気がするので書かないでおいた。精霊数の所は一体のみだと舐められそうなので書かなかった。
「それでは、確認します。名前はリュウ。スキルは【剣術】と【鑑定】。精霊数は無表示でいいですか」
「はい。大丈夫です」
名前にローゼンを付けていないのは冒険者の中では貴族は関係ないという風潮があるので、別に付けなくていいかと思ったからだ。
「作ってくるので待っていてください」
受付嬢が奥の方に行った。俺はカウンターに乗りかかる必要はないから降りた。
「これで、今日からお前も冒険者だな」
こんなにあっさり冒険者になれるとは思わなかった。後は貴族にならなければ最高だ。まだ領地は無いとは言え国に縛られるのは嫌だ。
大体、十分が経った頃に受付嬢がカードを持って戻ってきた。
「これがリュウ様のカードになります。簡単な説明は要りますか」
「お願いします」
本を読んで多少は知っているがそこまで詳しいことは知らない。
「はい。分かりました。それではまず、仕事について説明します。冒険者はダンジョンに潜ってダンジョン中にある。魔道具を回収するのが主な仕事です。他にも傭兵の代わりに町までの護衛があります」
ダンジョンに入ることは知っているが、護衛も仕事にあるのか。
「護衛は他の町にあるダンジョンに行きたい冒険者と安全に安く他の町に行きたい商人やその他の人の目的が同じで、自然と出てきた仕事です」
仕事と言ってもやりたい人だけがやる仕事ぽいな。護衛の仕事があるということはこの時代にも盗賊がいるのか。
「次は冒険ランクについて説明します。ランクはダンジョンで入手したドロップアイテムや魔道具の換金額がポイントとなって上がって行きます。上からS、A、B、C、Dの五段階になっています」
換金額でランクが変わるということは店とかで買ってから、冒険者組合に売ればランク上げ放題じゃないだろうか?
「ちなみに魔道具は換金するときに記録をする魔道具を通してするので、買った場合にはもう既に記録済みだから大丈夫です」
不正は出来ないようになっているんだな。
今の時代の人は魔道具の自作は不可能なので、記録することはいい対策だと思う。
「ランクの目安として。Bランクまでは頑張ればなることが出来ます。Aランクからは次元が変わります。多くのAランカーには二つ名があります。それぞれの得意とする能力をモチーフとしたものが付けられます。Sランクは化け物専用のようなものなので気にしないでください。ちなみにSランクはこの世界で五人しかいません。例えば、この国では剣聖のロイ様がSランクです」
俺の親父はすごいことは知っていたが、まさか世界の中で五人しかいない人だとは思っていなかった。せめてこの国の中では一番強いぐらいしか考えていなかった。
「説明は以上です。冒険カードを受け取ってください。質問があればどうぞ」
木で作られているカードを渡された。木には俺の名前とスキル。右半分にはDと掘ってあった。
「もしかしてですが、ランクが上がるとカードの材質が変わるのですか」
「はい。ここで、お教えしてもいいですがどうしますか」
「いえ、大丈夫です」
ランクが上がるごとにカードの材質が何かに変わる。ランクを上げる楽しみになる。楽しめたほうがいいので聞かないでおこう。
「あと、もう一つ。換金額以外でランクを上げるために必要な事はありますか?」
「Bランクから、上がるランクの冒険者か魔物に勝利することが条件に入ります。すいません。解説を忘れていました」
「いいですよ」
誰でも失敗はあるものだ。
魔物にもランクがあるんだな。
「今日はありがとうございました」
お礼を言って、受付から離れる。後ろに誰も並んでいないのですぐに冒険者組合の入り口あたりに、戻れた。
「おう、坊主。もう帰るのか、次、来る時はもっと強くなれよ」
入ってきたときに心配してくれた人だ。今、思えば、クズを倒すとか変な注目されてしまうのが、この人のおかげでそこまで注目されずに済んだ。
「はい。ありがとうございました。あなたのお陰で冒険者は怖い人だけじゃないことを知ることが出来ました。次来るときはあなたみたいに強くなりたいです」
「そうか、俺はただ坊主みたいな若い奴にダンジョンを楽しんで欲しいだけだ。だからお礼とかは要らないぞ。後なたまには親父の顔立ててやれよ俺じゃなくて、親父を目指しておけ」
この人が各組合に一人は欲しいと思える。冒険者への好感度が俺の中で上がって行く。
でも、命の危険があるダンジョンを楽しんでと言えるということは相当な実力者だ。
俺達は、冒険者組合を後にした。
「リュウ。入ってすぐに話掛けてきた奴は甘く見るなよ。あの人はAランクでも、一番上ぐらいの人だ。実力はSランクはあるぞ」
やっぱりあの人は強かったのか。まだ、Aランクなのは魔道具を探していないとかで、換金額がそこまで高く無いからだろう。
「今から、ダンジョンに行けるのでしょうか」
「もちろんだ。どうせ、クレアはまだ買い物をしているだろうな」
元々はクレアが買い物に時間が掛るので、その暇つぶしで冒険者組合に行っていた。夫婦で互いの性格を知っているからこそできる方法だ。
そのお陰で今日は楽しい時間を過ごせている。
「じゃあ、ダンジョンに行こうか」
俺たちは組合に一番近いダンジョンに向かった。