七二話 失敗
魔力が集まる場所に来てみれば、筋肉ムキムキの男が少女に土下座していた。
「大変失礼しました!」
土下座しているのは確かこの国の王で、少女はレイ。
もしかして、問題が起きたか?
「いい。この国のお陰で待ち人に会えたから」
「ありがとうございます」
「それなら、いい」
「一体、何があったんだ?」
周りの奴があいつ死んだなみたいな顔をしているが状態が分からないが、俺の大切な仲間に何かしたなら容赦する気はない。
「あ、リュウやっと来た」
「それで、何があったんだ?」
腕を組まれた。
「賢者レイ・マーティンはこのリュウとその仲間しか認めていない。他は等しく価値が無い。求婚するなら実力を示せ」
風魔法で音を広げて言っているが、意味が分からない。
「バトンタッチでいいか?」
「それでいいのじゃ」
耳打ちする必要はないだろうにのじゃを付けるためだけに面倒臭いことがするな。
「じゃあ、今日はありがとな」
「また、後日来て」
「おう。じゃあな。それとその服いいと思うぞ」
高校の制服感があるが、似合っている。
いつもの黒い魔女的な服も結構好きだが、明るい感じが出て俺は好きだ。
部屋を出た時に殺気を感じた。
「危ないな」
急に矢が俺をめがけて飛んで来ていた。
すぐに犯人を捜す。
「チッ! 逃げたか」
狭い部屋の中にいるせいで誰が誰だか分からない。
本気を出せば、見つける事は簡単だろうが、弓を撃った相手が俺だけなら本気を出すまでも無いな。
「馬鹿な事を考える奴もいるもんだな」
矢を折り、クレアの真似をする。
黒い、恐怖のオーラ的な霧を出す。
犯人を炙り出すのが目的ではない。ただの警告だ。
『人質でも使ったら、死ぬまでやるぞ』と。
正直、面倒臭いだけだ。
「あ、戦闘が無理な人は避難した方がいいですよ」
スマイルを作って、緊張感を無くし、避難を指示した。
まあ、次になにが起きるかは大体予想がついている。
「に、逃げろー!」
一人が大声で叫び、辺りは騒然となった。
五月蠅いな。
一番安全な場所は俺の近くなのに。
教えてやる義務なんてない。
「シー。いるか」
「はい。ここに」
「これも、ゲームの内容にあるか?」
「あります」
どうしようか。
この事件の真相をシーに聞く事も出来るがやる気がないな。
「シュウの所に戻るぞ」
「分かりました」
今、身内の中で人質にされる可能性があるのはシュウのみ。
最悪の事態を避けれればそれでいい。
人ごみを避けながら、シュウの寝ている部屋に戻った。
「に、兄さんお帰り」
シュウが挙動不審な行動をとっている。
魔剣の事だな。
「暗殺者が来て、パーティーは中止だろうな」
「だ、大丈夫なの。兄さん」
反応が面白い。
布団の中に少女がいる事は知っている。
少し、遊ぶか。
「俺達は大丈夫だ。目撃情報だと少女の姿をしていて、寝込みを襲うらしいぞ」
「え。そうなの」
嘘は嫌いだが、からかう分はいいだろう。
「綺麗な少女だと思っていたら、簡単に殺されるらしい」
「まさか」
シュウが布団を捲った。
そこには少女では無く、魔剣が置いてあるだけだった。
「どうした?」
「おかしいな、さっきまでここにいたのに」
やばい。つい、面白過ぎて噴き出してしまいそうだ。
やっている事は結構幼稚だが。
「シュウはもう、女の子をお持ち帰りしたのか。兄として羨ましいよ。でも、ここでやるなよ」
「あのリュウにい。やるって何ですか」
「やるって。シュウ分かるよな」
「知らないよ兄さん」
調子に乗りすぎた。
二人は下ネタはが通じる年齢じゃない。
「まあ、そんな事は置いといて――」
「逃げないで下さい」
シーの奴がにやついている。
ゲームの事知っている時点で転生者もしくはそれなみの知能を持つ奴だということは分かっていたはず。
警戒を怠っていた。
「待て。大人になったら、すぐに分かる」
「教えてよ! 兄さん」
「いや、ちょっとな」
打開策を探す。
……この手があるか。
「精霊王さん。あなた達の契約主が教育上よろしくない事を聞くので、注意をお願いします」
主にシーの精霊王、男二人組に対して呼びかけた。
「主様! なりません。そもそも、主様に似合う男などこの世にいないのです」
「そうです。知らなくてもいいのです」
「え、二人とも」
シュウの精霊は出てこなかったが、執事男が二人出てきた。
「さて、本題に入るがこれが、シュウの義手と義眼の材料だ」
白と黒の神鉱石を出す。
「これは神鉱石。これの更に強い物を入手できるから、サンプルとして持っておけ」
お手玉ができる位の量を渡す。
「聞いた事も無い金属だけど、本当にいいの?」
「気にするな。それに……」
俺が阻止することも可能だった事態を意図的に無視した。
償いの意味も込めてやっている。
そんな弱気な言い訳を兄の口から言えるわけがない。
「俺は暗殺犯を探して来るから、おとなしく待ってろよ」
「うん」
シュウの背中を叩きながら、《結界》を纏わせた。
これで、槍の雨が降ってきても余裕で守れる。
部屋を出た。
誰もいない廊下を歩く。
犯人が俺狙いなら何か仕掛けてくはずだ。
!?。
「自由って言うのは時に鎖になる。精々、同じ道を辿るな」
誰もいないのに男の声が聞こえた。
頭に直接入る【念話】とは違う。
新しい魔法か、それとも俺が見る事すらできない程速く動けるのか。
どちらにせよ。厄介な事になった。
「世界最強を自負していたのにな」
下手をしたら、勇者の時の俺より三倍は強い。
異世界のステータスにあるレベルはあるレベルを境に上がりにくくなる。
五百年前は一〇〇が境界線だが、今は五〇が境になっている。
賢者ですら、二〇〇に達していない。
だから、四〇〇近い俺は最強と名乗っても悪くはない。
どんな手を使っても勝てる未来を想像できない相手がいた。
それにしても、相手の発言を考える。
自由。鎖。同じ道。
なんのことを言っているか分からない。
いや、知りたくないだけだ。
「もしかして、俺の事。未来の事なのか」
特殊な暗号の可能性もある。
深く考えたくないのに考えてしまう。
「自由が鎖か」
なら、理解をしてやる。
自由は旅の事だろう。
ダンジョンを攻略する旅をしている自分を想い浮かべる。
各地で仲間を作って……。そんな事は無い。
ただの足でまといを仲間にする必要は皆無。
ダンジョンの秘密を……もう、大体知っている。
「旅をする目的が少なすぎる」
よくよく考えれば、意味のない旅をする必要はないな。
でも、他に何をすればいいのだろうか?
悩みながら歩いていると外に出ていた。
月は綺麗だな。
次の瞬間、真っ赤な炎が体を包んだ。




