side 元勇者の弟 二
「これで大丈夫ですよ」
赤髪の男なのにメイドさん達が着ている服を着てるルーミスさんに服を直してもらった。
魔剣を腰に差すとぴったりと入る。
「ありがとう」
「そういえば、闘技場で面白そうなことやっているみたいですよ」
兄さんと戦ったあの場所かな?
別にやる事も無いから行こう。
「暇だから、行ってみることにするよ」
魔剣は消えろと念じると消える性質がある。
王城を歩くときに武器を持っていると怪しまれる気がするから、魔剣は消しておこう。
闘技場に着くとさっきまで誰もいなかった観客席に大勢の人がいた。
真ん中で戦っている人を遠くから見た。
「あれは兄さんかな?」
僕と同じぐらいの身長の男の子が剣を構えて、兄さんと向き合っていた。
試合にしては兄さんが剣を持っていないのは変だよな。
兄さんが男の子に切りかかられた。
魔剣を持ってから分かる。あの剣はかなり強い。
たぶん、ある程度の固さを無視して切ることが出来る。
そんな剣が兄さんに当たる。
悲惨な光景を想像して目を瞑ってしまった。
ゆっくり目を開けると、兄さんの腕と剣がぶつかり合っていた。
明らかに人間が出来る範囲を超えているよ。兄さん。
この後の試合は一方的で兄さんが相手を弄んでいると言っても過言では無かった。
――――――
兄さんが闘技場で男の子を倒した。
相手の子の強さはよく分からなかったけど、剣の強さは分かる。
僕が兄さんみたいな戦い方をしていたら、腕がすぐに切り落とされていた。
「僕は兄さんの下位互換なのかな」
歓声の大きさに僕の声はかき消された。
貴族のパーティーになんて出ている暇は無い。
少しでも兄さんに追いつかないと。
城を飛び出し、ただひたすらに走った。
自分でも何をしているか分からない。
「坊ちゃん。こんな所で危ないねえ。おじさんみたいな悪い人に連れ去られるから」
兄さんの言うクズだ。
「【魔剣召喚】」
心臓を一突きした。
初めて人を殺したが、心は何故か痛まなかった。
『ヴェリトラ。僕は可笑しいかな』
体の中にいる精霊に問いかける。
『悪く無いとは思わないよ。少なくも私はマスターの選択に肯定するよ』
『ありがとう』
死体を放置すると処分をする人が大変だ。
「燃えろ」
剣から火が発生し、体を包む。
炎が消えた後には真っ黒い灰しか残らなかった。人間の弱さを感じる。
「ふう。少し外に出るか」
歩けば、結構時間が掛かってしまう。
だけど、走ればすぐに門に行ける。
「正直、僕も人間離れしているよね」
外壁に足を食い込ませ、昇って行く。
頂上に着いた。
月が綺麗に見える。
「あの月が兄さんなら、僕はまだ、外壁の上」
『いや、あの人間は太陽ほどの高さがあるよ』
「分かってる」
とりあえず、王都を一周しよう。
いつか、努力をして太陽を追い越してやる。
――――――
「はあ、はあ」
三十分かけて一周した。
軽く吐きそう。
「ふう」
夜空を見ながら息を整えるために散歩をする。
門付近を歩いていると一人の少女に出会った。
「これは、公爵家のシュウ様。初めまして」
僕と同じ位の年齢の子がなんでこんな時間に外にいるんだ?
「夜深くに外にいると危険だよ。一緒に戻ろう」
貴族の事はシーに読んで貰った書物の中でしか知らないけど、相当ストレスが溜まるらしい。
でも、死んだら終わり。
さっきの男みたいな奴に遭遇したら、あの子は捕まって想像を絶することをされる可能性がある。
「ありがとうございます」
「気にしないで。僕もそろそろ、帰ろうと思っていたんだ」
笑顔を意識しながら話す。
兄さんが教えてくれた友好的な話し方の一つ。
門に向かって二人で歩く。
突然、風切り音を感じた。
本能が告げる。彼女を庇えと。
「危ない!」
少女を押す。
同時に僕の左腕が宙を舞った。
痛みすら感じない。
兄さんが言うにはアドレナリンという特殊な状態なのだろう。
「来い」
右手で魔剣を召喚する。
敵の存在すら分からないが、戦わないといけない。
「ヴェリトラ! 腕を焼け!」
『!?。 分かったよ。《火玉》』
血が流れるのを止めるために傷口を焼く。
痛いはずなのに何も感じなかった。
敵に集中する。
姿を見る事は今の僕では不可能だろう。
――なら、空気の振動を感じ取って、動くまで。
「そこだ!」
火花が散る。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
顔の右側が焼けるように痛み出した。
心の声を洩らさないように耐える。
「君は伏せてて!」
こんな時は自分の事では無く他人の為に動けば、不思議と心が安らぐ。
魔剣で体を守る。
一撃一撃が肉を抉り、血を噴出させる。
特に意味は無いけど、兄さんと今回の敵を比べる。
兄さんは技術でもパワーでも僕を圧倒する。攻撃が全く読めない。
大して、敵は技術もパワーを大して無い。
でも、僕に勝ち目はない。
速すぎる。
「これでどうだ!」
地面を蹴り、土煙を巻き上げる。
「切れろ!」
剣に想いを全力で伝える。
敵が速さだけが取り柄なら、攻めてくる可能性が高い。
両手で剣を握り、一気に振った。
斬撃が地面を切る。
煙が晴れた所には一体の鷲が地面に血を流しながら、倒れていた。
「はあ」
安堵のため息を吐きながら地面に膝を付ける。
鷲の大きさは僕の体の三倍以上。鋭い爪で肉を抉っていたみたいだ。
勝ったと思うと痛みが襲ってきた。
でも、少女の前で弱音を吐くわけにはいかない。
「早く帰ろう」
「分かりました」
「おっと」
立った時に少しふらついてしまった。
血が少ない。
あれ、視界が歪んで。
なんで地面がこんなに近くにあるのかな。
死体と一緒に寝るのは嫌だな。
!?。逆再生をするように鷲の傷が治っていく。
「ふざけるな!」
剣を持ち、何度もモンスターを切り刻む。
さっきまでの動く事すら不可能だったのに体が動く。
不思議な感覚。
「もっと速く」
ああ、楽しいんだ。
原型が無くなるまで、切り続ける。
「それでも、復活するのか」
肉がみるみる内に戻っていく。
治るでは無く、直る。
無限に続けるのは血の残量的に厳しい。
どうすれば、いいんだ。
「地下深くに封印するのがいいと思います!」
「その手があった」
地面に魔剣を突きさす。
こいつの能力はなんとなく分かる。
地面と対象を剣で繋げる。
「永遠に来るな」
剣を捻る。
すると、剣を中心に渦が発生した。
肉のみが地面に吸い込まれ、消えていく。
今度こそ倒せた。
次の瞬間。目の前が真っ暗になった。
――――――
「シュウ……深刻……。剣は……」
兄さんの声が聞こえる。
「起きたみたいだな」
頭がボーとする。
まだ、血が足りないみたいだ。
「一応。処置はした。皮膚の抉りは大体治したが、左腕と右目が欠損している」
「何言っているの兄さん?」
左腕もあるし、いつも通り兄さんの顔が見える。
痛みもないし……
「それは仮に作った腕と目だ。一日もせずに腐り落ちる」
「仮の……体」
「そうだ。そこで、義手と義眼を作ろうと思う」
兄さんが言うからには正しいのだろう。
「義手の素材を持っているから、決めてくれ」
ベットの上に輝いている鉱石が三つ置かれた。
「これは、ミスリル。魔力との親和性が高いから、魔法を出す時に杖代わりになる」
青色の鉱石はミスリル。
かなり貴重な金属のはずなのになんで持っているの?
「次がオリハルコン。世界最硬度の金属」
白色のオリハルコンで作られた武器は国宝になる位、貴重なのに。
「次はアダマンタイト。硬さも魔力との親和性もそこそこ」
紫色の鉱物はアダマンタイト。
剣聖と並ぶ世界最強の人の装備に使われている貴金属。
「一週間待ってくれば、新しい奴を持ってこれる」
僕は兄さんみたいに優しくて、強い男になりたい。
硬く決意した。




