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六八話 モンスターの国

貫通骨粉(スルー・ゴフ)

「ブギャー!」


 太ったオークの腹を殴る。

 ()()()()十メートル位しかないモンスター。


「久々に生物に対して使ったが上手く使える」


 貫通粉砕(スルー・ゴフ)は脂肪や筋肉や脂肪を無視して、骨を直接砕く技だ。

 まだ、魔王拳の基本技の範囲である。


 こんなに強い魔王拳だが、十歳以上じゃないと使ってはいけないと言われた。

 理由は分からないが魔王拳を作ったマクロにしか分からない事なんだろうな。


 目の前の死体をどうしたものか。


「後で解体するのは面倒臭いな」


 オークの死体を【アイテムボックス】の中に入れる。

 こいつの肉は美味いので、是非とも入手したい。


 一時間で帰る約束を守るために黒い森を走る。


「走る用の魔王拳があれば、楽なのにな」


 陸上の部活で使えれば、先生の期待に応えることが出来たのに……。


「おい! 止まれ!」


 周りの魔物が見えないほどの速さで走っていたのに話しかけられた。

 鎧を着こんでいるせいで本体の姿が見えない。


 声からして男だろう。


「なんだ? 今急いでいるんだが」

「こっちは正門じゃない。国に入るにはあそこからだ」


 指された場所を見る。


 黒い門に赤色のペンキ? で『ようこそ!』と書かれていた。

 とても、国の門とは思えないほど適当だ。


「すまない」

「分かればいい。じゃあ、入国手続きをするぞ」


 鎧は占いで使いそうな水晶を俺の前に出した。

 時間が掛るなら、逃げるか?


「これは階級を調べるものだ。とりあえず手を乗せろ」

「階級?」


 疑問に感じながら水晶に触れる。


「オーバーSSS。これは失礼しました」


 水晶は一切反応していないのに鎧の態度が変わった。

 早くして欲しい。俺は世界樹を探さないといけない。


「通行料の二〇〇〇を」


 今度は花瓶みたいなものを出してきた。


「金は持ってないんだが」

「魔力を下さい」

「分かった」


 通行料が魔力。不思議な国だな。

 花瓶に魔力を入れる。


「ありがとうございます。最後に質問ですが、あなたの種族は?」

「人族だ」


 差別をされても、俺の目的は一時間以内に世界樹を探すことだ。

 強引な手を使う覚悟はある。


「珍しいですね。勇者リュウに森を荒らされた以来の種族です」

「そ、そうか」


 荒らしたつもりは無かったのにな。


「彼のお陰でモンスター達の結束が高まったので、恨みは無いですよ。元から弱肉強食ですから」

「世界樹って何処にあるんだ?」

「この国の真ん中。って言っても分かりませんよね。私が案内します」


 鎧が歩き始めた。

 水晶を触った辺りから、やけに親切だ。


 それにしても、国と言っているがこの門以外には家も人もない。


「歩きながら、この国について説明します」


 丁度いい。


「この先にある世界樹は、中が空洞になっていて住めます。そこで、階級が存在し、人族でいえば冒険者のようにランク分けされています」

「ランクね」

「はい。それで水晶で強さを測定して住む階層を決めます。強いほど上階に弱ければ地下の根の部分に住みます」


 正に弱肉強食。強い事が正義の国なんだな。


「オーバーSSSのあなたは頂上です」

「移住は計画してないんだが」

「心配なさらずに、下の階層ならともかく、頂上クラスの方々は自由に生きて結構です」


 他者の政治に手を出すつもりは毛頭ないが、自由が無いと流石に反乱が発生するはずだが。


 ……のんきに話している暇は無かった。


「世界樹の葉っぱはどうやったら入手できる?」

「現在の王に勝てば、いくらでも採取可能です」

「よし、今すぐ戦う」


 奪う手もあるが、それはただのクズだ。


「ちょっと、待って下さい」


 鎧が止まった。

 空気が変わり、鎧から女性の声が聞こえる。


「お前が挑戦者か。良い。あそこの世界樹の頂上で待っておる」


 指の先には何も見えないが、場所は分かった。

 鎧が崩れ落ちる金属音が響く。


「使い捨ての駒って訳か」


 手に槍を持ち、構えた。

 狙いを定めて普通に投げる。


 空中から煙が上がる。

 確実に何かがあるな。


『クウ』

『はい』


 ――――――


 玉座に一人の黒髪の少女が座っていた。


「どうも、こんにちは。挑戦者ですけど、王はいますか?」


 それっぽい奴はいるが、誤解の可能性があるため確認をする。


「いかにも。私はモンスターの中で一番強い王だ」

「元勇者のリュウ。世界樹の葉っぱを貰いに来た」

「え、あんたはあの」

刺突(シトツ)


 動揺の隙を使い、腹に穴を開ける。

 あと、一四分。


「世界樹の葉っぱくれない?」

「なんなのよ。急に」


 みるみる穴が塞がって行く。

 流石、モンスターの王というべきだ。


 再生能力なら今の俺といい勝負が出来るかもな。


「ふふ、この程度で調子に乗らないで。真の力を見せてあげる」

「へー。頑張れ」


 発光を始めた。

 筋肉の塊になっても、獣みたいな感じになっても面白そうだな。


 光が消えた後には—―


「我の種族の別名は死神。貴様の命を刈り取る」

「それだけ?」


 ――黒いフードと鎌を担いだだけだった。

 がっかりだ。


「その程度の変化でふざけるな! 死恐怖(デス・フィアー)


 首の部分を掴んで殺気を直接送る。

 明確な死をプレゼントだ。


「ギャー!」


 今の姿からは想像も出来ない声が響き渡った。


「降参しますか?」

「はあ、はあ。まだだ」

死恐怖(デス・フィアー)

「ギャー!」


 五月蠅いな。残り九分しかない。

 首を持ったまま。地面に何度も叩きつける。


 肉体のダメージはすぐ再生されるだろう。


「降参してくれません?」

「嫌だ」

「五分以内で決めて下さい」


 丁寧に話掛けているのが悪いのだろうか?

 面倒臭くなってきた。


 首を持ち上げる。


「俺のやっている事って、強盗と何ら違いは無い。それはよく知っている」


 力尽くでは降参は不可能だ。


「自分も同じ立場になったら、相当怒るだろうな。だが、法が無い以上はしょうがないよな。力が無ければ全て奪われる」

「な……に……を」

「はあ」


 ため息を吐く。


「お前のすべてを寄越せとは言わない。しかし、お前の体は好きにしてもいいよな」

「え!」


 掠れた声が部屋にやけに響く。

 手を離し、死神を地面に落とす。


「降参。降参。降参。降参。降参」


 息を整える感覚で降参を連呼してくれた。


「俺の勝ちだな」

「降参! 降参。降参。降参。降参!」

「『貴様! 私に何をした!』 か。答えてやるよ。《洗脳》だよ」

「降参!」


 審判が居ないと勝利が確信できない。

 もういいか。


 《洗脳》を戻す。


「絶対に許さん」

「無駄なんだよ」


 鎌で腕を切り落とされる。

 よく、オリハルコンレベルの硬さの腕をあっさり切れるもんだな。


「貴様。なぜ笑っている!」

「悪いな。あと六分。構ってやる時間は無い」


 落ちた腕が逆再生のように元の場所に戻る。

 仕掛けは魔力の糸を切られた腕から出して、接合した。


 高度の魔力操作と再生能力があれば、簡単に出来る。


「手のひらサイズの世界樹の葉っぱを()()くれ。そうすれば、また再戦をしてやる」


 本当は一枚でもいいが、俺も世界樹の葉っぱが気になる。


 言っている事が完全に悪役だな。

 だが、郷に入っては郷に従うのが基本とすれば、この国で力のある俺は正義なのだ。


「渋っていると一生リベンジが不可能になるぞ。()()

「持ってけ。一週間後絶対に来い!」

「分かった。契約成立だ」


 すべてを飲み込むほどの黒さを持つ葉っぱを渡された。

 一体どんな能力があるのだろうか?


『よし帰るか』

『槍を投げた部屋に行きます』


 残り一分。

 約束通りの時間に終わった。



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