side 堕天使 傲慢 三
魔界に来てから、数週間が経った。
ずっとサターとだけいてもつまらない。
「他の悪魔に会いたい。ザコは無しだ」
「なら、邪神……いい。会いに行こう」
「邪神? 神に会う気はない」
「私も邪神」
驚きだな。今まで悪魔程度にしか思っていなかった奴が邪神。
なら、俺と互角に戦った奴は全員邪神だな。
元から悪魔如きに俺が引き分けるはずがない。
「じゃあ、行って見るか」
「分かった」
黒い草原を軽く走る事十分。町が見えてきた。
悪魔どもが人間の真似事か。
先生のだったら、この時どんな対応をするか。
限りなく楽な方へ、面倒臭いことにならないように。
「一番大きい建造物に侵入するぞ」
「うん」
悪魔には見えないスピードで動き、城っぽい建物に入る。
奥へ奥へ進み、豪華に装飾された扉を探す。
重要人物。すなわち邪神は一番いい場所にいると考えた行動だ。
馬鹿みたいに宝石が飾られた扉を発見した。
部屋の中には玉座に座った中性的な顔をした奴が座っていた。
こいつとも一度戦った記憶がある。
「お前が邪神だな」
「ふふ、我こそは強欲の邪神マー」
「マー君。お久しぶり」
サターの奴、俺に対する話し方よりもかなりスムーズに喋るんだな。
二人が楽しそうに話しているが、つまらない。
「おい! 強欲の邪神!」
「なんだい?」
「人間ごっこは楽しいか?」
「急になんだと思えば、そんな事か」
今の俺なら邪神とやらと殴り合っても負けることは無い。
戦うことは楽しい事であり面倒ではない。
「楽しい。かな」
「邪神としてのプライドが泣くな」
言い争う理由? 俺を無視したことだ。
「君は傲慢だね。でも、面白い」
「何だ?」
「傲慢の邪神に君を推薦しよう」
「馬鹿か? お前は。俺はこんな猿の真似事しかできない邪神に推薦されるなんて御免だ」
別に邪神になるつもりはない。
魔界で面白いことが出来れば俺は十分。
「やるかい? この僕と」
「前みたいになると思うなよ」
睨み合う。
威圧のみで城が亀裂を作り、壊れていく。
「きゅん」
急に強欲の邪神が変な声と共に倒れた。
姑息な手に騙されたりはしない。
手のひらサイズの石を掴み、強欲にぶん投げる。
「あふん」
「気色悪いな」
頭を鷲掴みする。
徐々に力を上げる。
「あああ!」
「だめだこりゃ」
変態を適当に投げる。
「容赦……ない」
「流石にあれは俺では無理だ」
「あんな声……初めて聞いた」
強欲の邪神が居なくなったので次の邪神だ。
――――――
次に色欲の邪神に会ったが服の際どさが俺の中の拒絶反応レベルだった。
一瞬見られたが、背筋が凍る思いを味わった。
次は嫉妬の邪神に会った。
「これは憤怒の邪神サターじゃないですか」
「お久しぶり」
「そこの男性は?」
「私と同じ位の力を持った堕天使」
この嫉妬の女、素を隠しているな。
目を見れば簡単に見破れる。先生の技だが。
「始めまして」
こいつに対しては攻撃的になってはいけない。
本能がそう語り掛けた。
「君が次の傲慢の候補だね」
「そのようです」
「特に問題はなさそうだから、私からも推薦させて頂きます」
サターの家に戻り、二年間過ごした。
不思議な事に嫉妬以外の邪神が何回も俺に会いに来た。
ちなみに色欲の邪神は全力で避けた。
ほぼ裸のような服で近寄る姿は美しくてもただの変態だ。
三年が経とうとしたある日、サターに変な事を言われた。
「消滅龍さんの所に七罪の邪神として認めて貰いに行こう」
消滅龍? 聞いた事が無いがどんな奴なのだろうか。
気になる。
「何処に行けばいい?」
「ちょっと待って。ふう。《転移》」
サターがひと息整えてから、移動した。
目の前には全てを飲み込むほど真っ黒い鱗をした龍が寝ていた。
「分かっていると思うけど」
「ああ、こいつは手を出したらダメな奴だ」
神界に例えると創造神クラスに匹敵する何かをこの龍は持っている。
「……これ、どうやったら起きるんだ?」
しばらく待ったが動く気配がない。
一発蹴りを入れる。
もぬけの殻だったら、時間の無駄になってしまう。
「誰だ! 私の楽しみを邪魔するのは!」
!?。
俺の半身の感覚が一瞬で消えた。
あれ、なんで俺は地面に寝てるんだ?
切断をされてもすぐに再生が開始されるはずなのに何も始まらない。
視界も暗くなって。
――死。
半分しかない脳みそで考えた言葉がそれだった。
「……です! だから……」
サターが黒い物体に対して訴えかけている。
「リュ……ウ。せん……せい」
俺の居場所を作ってくれた邪神が俺の為に泣いているのに、俺はこの場にいない関係の無い人物の事を思うのか。
諦める?
—―馬鹿か? 諦めるも何も。
消えたらまた創ればいい。
邪神どもが来ている時も常に俺はリュウを見てきた。
ボロボロだった服が直った時の映像を頭の中で何度も見返した。
するとあれは、直すでは無く創っていたことを知った。
後は簡単だ。
創造の力を神界の創造神から奪うだけだ。
強欲の邪神の能力は【強欲】。触れた相手の能力を奪える。
強欲の邪神が俺に好意を抱いている事を利用し、世界そのものから溢れる創造の力を奪った。
後は全力で訓練をするだけだ。
運よくリュウと同じ修行をしただけで自分の体を改造するぐらいはできるようになった。
「すみません。お楽しみ中に失礼な事をしました」
体を創りながら、謝る。
負ける戦いを挑むのはただの無謀だ。
「分かればいい」
「ありがとうございます」
「それで、君が新しく邪神になる子だね」
「はい」
良かった。全部を消されたら流石の俺でも死すらなく消える。
「全員の許可もあるから私はいい」
「消滅龍さん。ありがとうございます」
「じゃあ、私はリュウの元に戻らないと」
「先生の元ですか?」
やっちまった。
つい、リュウの名前が出て興奮してしまった。
黒い龍が輝きながら小さくなった。
被るようにぶかぶかの黒いフードを着た幼女に変化した。
「リュウについて知っている事全部教えて?」
幼女が首を傾げた瞬間、俺の腕が消えた。
何が教えて? だ。単なる脅迫じゃないか。
だが、それでもいい。
先生の素晴らしさを一週間をかけて伝えた。
「君とは話が合いそうだ」
「ありがとうございます」
「君には特別に消滅の力を少し与えよう。傲慢の君ならこれだけでも十分な切り札になる」
「すみません。こんなに貰って」
そこそこ、面白い関係になれた。
消滅龍さんはリュウの事を愛している。
狂ったほどの愛を先生なら受け入れられるだろう。
「先生の事。お願いします」
「分かった」
やる事も無くなった。
サターと共に帰ろうと振り向いた。
「ちょっと待って」
「なんだ」
帰ろうとした半ばに声をかけられて、油断してしまった。
「すいません」
「今は口調はどうでもいい。それより、新しく怠惰の邪神が来る」
「怠惰?」
そういえば、まだ怠惰の邪神に会っていなかった。
「先輩ー! あなたの従順な部下のベルフェルです」
黒い翼をもつ少女が俺に飛びついてきた。
「ベルフェルなんでお前がここに」
「先輩の事を考えると夜も眠れなくて。創造龍に頼んで邪神になりました」
「怠惰って、お前一番似合ってないだろ」
「いいじゃないですか」
こいつは俺が天使だった頃の部下。ベルフェル。
仕事熱心でむしろ勤勉な奴が怠惰の邪神になるとは驚きだ。
これから、俺の邪神生活はどうなるのだろうか?
どんな事があろうが先生を観察することは確定事項だ。




