side 元魔王の転生 一
今回視点が違います。
この話を飛ばすと次の話が厳しくなります。
すべては計画通りに進んだ。
立体式巨大魔法陣魔王城を制作し、勇者の聖剣によって殺される。
それにより、数々の魔法が発動された。
そのうちの一つ。勇者の居た世界への転生がある。
私は洗脳系の魔法を得意としており、勇者の記憶を覗いた。
様々な書物。画面が動く板。すべてに興味を持った。
ただ転生すると神などの存在に邪魔される可能性がある。
だから時間軸を滅茶苦茶にする能力も魔法陣の中に入れた。
――――――
目が開く。
存在を確認するために手を見る。
丸く小さい手が視界に映った。
よし、転生完了だ。
「魔黒。いきてる?」
四歳児の少女が私を見下ろして来た。
名前らしきものを言った所から私の姉と推測する。
「ここは何処だ」
「しゃ、喋ったー!。ママ。パパ。魔黒が喋ったよ」
失敗した。
赤ん坊は喋れないのだった。
それより、魔法陣の効果の一つ、勇者の持つ【言語理解】のスキルをコピーするは発動していたことを実感した。
誤魔化しを始めるか。
得意な魔法《洗脳》を使う。
すべては勘違い。そうだよな姉上。あなたは何も聞いていない。
「あれ、私は何を言って」
成功した。
私は戦闘を求めない。ただ、娯楽を楽しむためにこの世界に来たのだ。
一般的に《洗脳》は一人にか掛けられない。そのせいで矛盾が生まれ、すぐに見破られる。
しかし、私の魔法は格が違う。
世界そのものも《洗脳》し、改変することが可能だ。
例えば、あの勇者リュウの腕を一本無かったと《洗脳》すれば、その腕は再生すら許さずに無くなる。
まあ、あの化け物ならそれでも腕っぽい何かを生やすだろうが。
私はもう自由なのだ。
魔王という名に縛られることも、仲間の裏切りに怯えることも無い。
喜びと共に眠った。
――――――
六年の年月が過ぎた。
今世の名前は真部 魔黒。よく、マクと呼ばれていた。
今年から小学生になる訳だが、この世界もなかなか小難しい。
玩具を一人占めしていた子を説得しようと話かけると急に殴られ、同じ力で殴り返したら相手が泣き、何故か私だけが叱られた。
この時は強さが正義だった、あの世界の方が楽に感じてしまった。
一年生では授業の内容は特に面白くない。
既に知っている知識の往復。いや、それ以上に教師が悪い。
ただ、教科書を読んでそれだけを教える。
私にとってはどうでもいいが、寝ている生徒が何人かいるのは問題だ。
何より、理不尽の権化だった。
この学校には毎日、日記を提出する宿題がある。
名無 龍之介という私の友がその日記に小学生一年生らしくないと何度も書き直しを命じられていた。
「マク。お前はこれどう思うか?」
「これは……」
ある日、龍之介が書き直す前の日記を見させて貰った。
「何も変な所は無いぞ」
サッカーをやったことを書いていた。
最後に『ルールをりかいしていないとただ走りまわるだけのあそびだとおもいました』と少し批判的な文があったが何処がいけないのか悩む。
――――――
三年が経ち、小学四年生になった。
この頃、変ないじめをする集団が現れた。
私は《洗脳》で何もされていない。
だが、友である龍之介がいじめの対象になった。
奴らは放課後、体育館裏で一人を殴っている。
「叫べよ」
彼らに何をされようと龍之介は一切喋らない。
殴られることが別にどうでもいいかのように見える。
「そういえばお前には二年に妹がいたな」
「何をする気だ?」
眺めている側である私にすら、恐怖を与える声が広がった。
これは殺気。子供が発せるレベルじゃない。
「殴ったらさぞかし……」
「もういい」
龍之介がいじめの主犯格である人間の顔を殴る。
更に髪を掴み体育館の壁に叩きつけた。
明らかにパワーが違う。
「やべえ。先生に言いに行こう」
二人を置いて、いじめっ子たちが逃げていく。
それでも龍之介は攻撃するのを止めなかった。
「てめえらがいくら俺を蹴ってもどうでもいい。だがな。大切な物に手を出したら痛い目に合って貰う。当然だよな」
「すいま――がふ!」
容赦のない攻撃は面白い。
最終的に爪を剥ぐ所までいった所で教師が来た。
一年の時の担任が無残な姿の生徒を見て、目を隠している。
とても、小学生が素手で行える限界を超えていた姿。
私も龍之介の狂気に心を躍らせている。
「先生。あいつがやりました」
「僕たちは見ている事しかできなくて」
いじめていた生徒が嘘の証言をやり始めた。
このままだと、人数的に龍之介が罪を被る。
――それは面白くない。
「違います。すべて、あの人たちがやってました。龍之介君はこの現場を見ただけで濡れ衣を着せられているだけです」
《洗脳》を使う。
私は優秀で嘘を吐かないような優等生。対して彼らは普段から乱暴な不良生徒であなたも手を焼いていますよね。
「分かりました。職員室に来なさい」
いじめていた奴らは連れ去られた。
龍之介の元に向かう。
「大丈夫か」
「マク。助かった」
「お安い御用さ、それにしてもリュウは訓練とかしてるのか?」
「多少はな。強い方がかっこいいだろ」
龍之介の事はリュウと呼んでいる。
あだ名というものだ。
「教室に戻ろうぜ」
「遅く帰ると姉がうるさいがいいか」
「俺は早く帰っても妹に部屋を占領されているから、遅く帰りたいんだよ。何より、マクといると楽しいからな」
私が《洗脳》を使わずに仲良くなれたのはリュウぐらいだ。
勇者も時間と立場が違えば本当の友になれた気がする。
二人の楽しみ、放課後の誰もいない教室で宿題をやる。
先生に見かってはいけないスリルと気の合う友といることが楽しい。
「マクは武術とか知っているか?」
「自己流の奴ならできるぞ」
「ちょっと見せてくれよ」
「分かった。ちょっとここに立ってくれ」
魔王の時に使っていた技なら今でも使える。
リュウを目の前に立たせて構えた。
フェイントや急加速等の初心者には見分けられない技能を混ぜながら、リュウのすれすれを高速で攻撃する。
「すげえ。予想していた場所とは違う場所に拳があって、到達時間も俺の目測と全然違う」
「まさか、全部見破ったか?」
「大体分かったぞ」
なんていう才能。
同じスピードで当時、私の次に強いとされた魔族の一番隊隊長に見せたが何も気づけなかったのに魔法も無い世界の十歳児が分かるとは。
いや、一部のみを見分けていたかも知れないが、全部は見えていないはず。
「私と同じ動きを出来る?」
「やってみるか」
リュウが構えた。
!?。私よりも確実に上手い。
フェイントで何処に拳が行くかを惑わせ、急加速で思考する時間を減らす。
スピードは私ほどではないが技術がありすぎる。
なにより、目つきに見覚えがある。
分かった! 私を殺した勇者リュウ。
あいつだ。
しかし、私が今までに読んだ本には異世界に来てからチート、力を貰えるはず。
なのにリュウは現時点で才能が有りすぎる。
「ふう。こんなもんだな」
「流石だ」
「速さがまだまだ足りないんだよな」
魔王拳。部下にすら教えなかったが、リュウに少し教えてもいいか。
――――――
三年が過ぎ、中学生になった。
勿論、リュウと同じ中学校だ。
初日は出席番号順で私とリュウは隣だった。
「今日から中学生だがマクはどの部に入るか?」
「帰宅部一択。って言いたいが」
「絶対に部活に入らないといけないからな」
「そうだよな」
残念ながらこの学校には帰宅部が無い。
「俺は陸上部に入るよ」
「卓球部が楽そうだから私はそっち行く事にする」
友で合ってもずっと一緒にいるわけでは無い。
友達依存症では無いのだ。
部活に入部して五か月が経ち、十月になった。
寒くなり始めた中、朝練として陸上部は外を駅伝の為に走っている。
リュウは私の隣にいる訳だが。
「朝練行かないのか?」
「神が仰ったんだよ。朝、早く来ることも練習に入るってな」
「顧問の先生を随分信用するな」
「当たり前だ。あの方は俺に希望を与えて下さったからな」
とある人間の先生を信仰し始めた。




