六三話 精霊王
「ほんの少しの傷でいいです」
「承知しました」
ティマトアだっけ、水の精霊王が俺に向かって高圧の水で作られた剣を振って来た。
「その程度じゃ俺に傷を付けれない」
素手で剣を掴む。
俺にダメージを与えるにはオリハルコン以上の硬さの武器が必要だ。
「《冷凍》」
零度を下回る温度が俺を包み凍った。
そこそこ冷たいな。
ティマトアが氷に囚われている俺に容赦なく剣を振る。
精霊王が詠唱すれば契約主は何もしなくていいんだなとしか感じない。
「だから、その程度の固さじゃ傷を付けるのは不可能だって」
「なぬ!」
氷を割る。
「シー。俺は何か悪いことをしたか?」
「いえ。すいません。精霊王の強さを試したかっただけです。ティマトア。ブルヘイム。戻って下さい」
「はい」
二人がシーの元に戻った。
ずっと隣にいるな。シーの体の中に入らないのだろうか?
「ずっと隣に控えておきます」
執事姿なのがまだ救いだが、男が、いや他人がいると絶対に疲れるだろう。
「ヴェリトラ。あの僕の兄さんに向かって軽く攻撃をして貰ってもいい?」
「いいよ。マスター。《火玉》」
今度はシュウか。
俺を飲み込むほどの火が迫って来た。
相殺も考えたが教会に引火すると面倒臭いことになる。
左腕を前に出す。そして、目を瞑って意識を集中させる。
消す消す消す消す消す消す消す消す消す消す消す消す消す消す消す消す消す消す消す消す消す。
「消えろ」
三年間、訓練しても完全に使いこなすのは無理だった。
だが、この程度なら消滅させられる。
火の球が元から無かったかのように消えた。
「家に帰ってから試せよ。婆さん。すいません」
迷惑をかけたので謝っておく。
「いい。いい。儂も面白いもんを見させて貰った」
「はは。そうですか。シュウ。シー帰るぞ」
「はい」
二人と精霊王、三人を連れて教会を出た。
「兄さん。この教会ってなんの神を信仰しているの?」
シュウが質問してきた。
確かに一見して、教会なのに神の銅像がある訳では無く何を信仰しているかは不明だ。
俺も疑問に思ったことがある。
「シーどうなんだ?」
「本に載っている情報でしたら、特定の神を信仰する教会は今は無いです。今の教会は治療とステータスカードの配布、精霊契約の補助が主な仕事になっています」
「そうなんだな」
好きな神を信仰する。セルフ宗教になっている訳だな。
信じることが宗教では最も大切ってあの方も仰っていた。
「そろそろ、親の元に戻る。精霊と手を繋いでから手を掴んでくれ」
触れている状態じゃないと《転移門》を使うことになり、他人に見つかる可能性が高くなる。
シュウとシーが俺と手を繋いだ。
「おい。ティマトア。お前がこっち行けよ」
「いや、私こそが主様のお隣に相応しい」
「リュウにい。少し待って下さい。すいません」
シーの精霊王が喧嘩を始めた。
丁度いい。今のうちに【魔力感知】でローゼン家の居場所を探そう。
城下町には大量の人間がいる。
人がいるということは魔力が大量にあるせいで普通なら個人の特定は無理だ。
しかし、探す相手の魔力が周りより大きく、更に複数人いれば簡単に見つかる。
あの馬車には三人の化け物クラスの魔力の持ち主がいる。
一人はルーミス。真祖の吸血鬼の名は伊達ではないらしい。数値にすると五〇〇はある。
もう一人は母親のクレア。昔は魔導のスペシャリストだったと聞いた。数値にすると六〇〇。
最後の一人は名前を知らない使用人だ。特に話したことは無い。数値は二〇〇〇と二人に比べたら圧倒的だ。誰だよこいつ。
……見つけた。
周りの平均は一〇あるか無いか位のお陰ですぐに発見できる。
「そろそろ行くぞ」
「はい。大丈夫です」
結局、二人がシーの片腕を握っていた。
イケメンがやっているから見た目はそこまで悪くは無いが、少し気持ち悪いな。
『クウ。南東一キロ先だ』
『馬車までですか?』
『ああ。そうだ』
『なら、魔力でマーキングしてますのですぐ行けます』
――――――
ローゼン家の馬車の中に転移した。
全員、驚いている。
「すいません。直接移動しました」
一応、謝罪をする。
いきなり、目の前にさっき居なくなった人間が現れたら俺でもびっくりする。
ここで家族の信用を失いたくない。
ロイが口を開いた。
「急に現れたのは驚いたが別に気にしていない。それよりも……」
「シーちゃん。シュウ君。その方々は誰?」
クレアが黒いオーラを噴出し始めた。
今回は俺が攻撃対象では無いので足は震えない。
それより、狂人の称号は母上が一番、似合っていると思います。
シーは余裕の表情だがシュウは手が震えている。
「お母様。この二人はティマトアとブルヘイム。私の契約精霊です。精霊王という位を持っているのでこの様な形に現在なっています」
「こ、こっちの女性はヴェリトラ。僕の契約精霊でシーと同じで精霊王です」
まだ、黒い霧は出ている。
この霧は魔法か何かか? 魔力を感じる。
「始めまして、私は水の精霊王ティマトアというものです」
「同じく、ブルヘイムです。以後お見知りおきを」
「私はヴェリトラ。火の精霊王だよ」
霧がクレアの隣に集まり始めた。
「良かった。じゃあ、私の友達も紹介するね。出てきてアデス」
「分かりました」
闇の霧が形を作り、真っ黒いフードで顔を隠したフィギアサイズの変な奴が現れた。
宙に浮いていて表現するなら妖精に見える。
「ご紹介に預かりました。闇の精霊王アデスです。お互い精霊王同士。仲良くしましょう」
中性的、クウに似た声だな。
『クウを表に出るか?』
『大丈夫です。それに私は……』
「目的地に到着いたしました」
御者が声をかけてきた。
「よし、降りるぞ」
クウと話している途中だったが仕方なく行動を開始する。
馬車を降りると目の前には屋敷のような大きく豪華な宿があった。
庶民では入れないような高級感が溢れている。
「荷物をここに置く。あとは歩きで王城に向かうぞ」
パーティーの会場は王城らしい。
ここから一キロは先にある。
俺は【アイテムボックス】の中にすべて入れているので何も置くものが無い。
家族を待たないといけないが、何もしないのはつまらない。
「ちょっといいかな」
「はい。何でしょう」
魔力が異常にある男に話しかけながら肩に触れた。
『草原まで頼む』
『屋敷から城下町にあるあの広い場所ですね。行きます』
転移で連れ去った。




