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六十話 目標

 部屋の中に入ると誰もいなかった。


 白いベットに身を預け目を瞑る。

 ……なんか不安だ。


 途方もない虚無感がある。


 俺はこの人生で何をしたいんだ?

 ハーレムを組織する? 豊かな国を作る? 種族差別をなくす? 魔王を倒す?


 ――違う。

 女性に囲まれて楽しめるはずがない。王になっても胃が痛いだけ。差別については面倒臭い。魔王? 勇者の仕事だな。


 今までは死なないために強くなるという一時的な目標があった。

 それに向かって走っているだけでそれなりに楽しんだ。


 しかし、俺は強くなってしまった。武器も含め勇者時代の時の強さまでもう一歩となり超えるのも時間の問題だ。

 己を問い詰める。


「お前は何がしたいんだ?」


 ――楽しい事。でも面倒臭いことじゃないことが望ましい。


「へえ。結局何だ?」

 

 ――平穏な生活を歩むあと、旅あたりをのんびりしたい


 のんびり旅をする。

 それが俺の最終目標だ。


 目標を設定したことにより、さっきまであった虚無感が消えた。


 ――――――


 太陽の眩しい光が俺の睡眠を妨害する。

 もう朝か。


 人間、五日も寝てないと流石に体が堪えていたせいか夕方から朝まで寝るもんだな。

 そういえば、朝はドクに稽古をつけてやる時間だ。


『クウ。起きてるか』

『起きてます。竜人の里までですよね?』

『ああ、頼む』


 あくびをしている間に家までの転移が完了していた。

 やっぱりクウの能力は便利だな。


 ドアを開けて家を出るとすでにドクが待機していた。


 さて、二日の間来なかった理由をどう説明しようか?


「おはよう。この二日の間で竜人の里に大雨が降って大変だったよ」

「へえ。雨が降ったのか」

「昨日の昼頃に止んで太陽が出たから地面は乾いているけどかなり降ってたよ」


 これなら、俺が来れなかったのではなく来なくても良かったことになる。

 適当に誤魔化す必要も無いな。


「じゃあ、行くか」

「うん」


 ドクの手を掴みグランドに転移した。


「今日は何をするの? 師匠」


 今日もただ走るだけでもいいがそれじゃあ朝ごはんまでに間に合わない。

 ……いいことを思いついた。


「模擬戦をする。そうだな。時間は十分ぐらいでどんな手を使っても俺を一歩でも動かすことが出来ればドクの勝ち。どうだ?」

「分かった」


 当たり前だが俺はレベルワンをつける事と魔法と魔剣を使わないハンデ付だ。

 そうでもしないと指を動かしただけで勝てる俺にとって意味のない試合になる。


 一定の距離を開けて向かい合う。


「始め」


 戦いの宣言と同時に突進してきた。


 一歩でも動かせば勝ち。

 別に殴るだけではなく、体を使って押し出すのも悪くは無い。ただし


 ――相手が攻撃をする事を考えろ。


「ぐはぁ!」


 がら空きの胴体を殴る。

 肋骨を二、三本折った感触が俺の腕を伝う。


 ドクが転がり血を吐いた。

 立ち上がることなく(うずくま)っている。相当痛いのだろう。


「がは。がは」

「どうした。諦めるのか? まだ九分も残っているぞ」


 修行で幼い少女だからといって手加減は一切する気はない。

 これで諦めるようなら、俺の修行についていくのは不可能だ。


「……ない」


 俺にも聞こえない声で何かを言った。


「諦めない!」


 今度ははっきり聞こえた。

 自然と口角が吊り上がる。


「それなら、何度も掛かってこい!」


 ふらつきながらもドクは立ち上がった。

 そして、腕を振りかぶり俺の胴体を殴った。


 拳の威力は対して強くなかった。


「それでいい」


 痛みは想像を絶しているはず。

 それにも関わらず諦めず俺に殴りかかった。


 別に諦めても俺には大した損失にはならない。

 だが、諦めなかった弟子を失うのは相当な損失。


 これからは本気で鍛える。


 地面で気絶しているドクを《回復ヒール》で治す。

 レベルワンを外してドクを優しく起こした。


 ドクが目を開けて初めに涙を流した。


「痛かった」

「そりゃそうだろう」


 骨が折れて痛くないという人間はそうそう居ないだろう。


「それにしても私負けちゃったんだね」

「当たり前だ」


 立ち上がり思いっきり拳を空に動かした。

 

「これが俺の力だからだ」


 空に広がっていた雲が一気に散っていく。

 ……ちょっとやりすぎた。


「まあ、ここまで強くなれよ」


 唖然としているドクの手を掴み竜人の里に帰した。


 ――――――


 家で朝飯を食べ、庭に出る。

 シュウが素振りをしている所を見ながら、俺は胡坐をかく。


『エリエリ。デリデリ。今日から頼む』

『分かってるよ。創造の力の練習だね』

『消滅……楽しい……よ』


 今日から消滅と創造の力をマスターして己の力にする為の訓練をする。


『まずは二つの力を理解しよう』

『これが意外と……大事』


 二人の神からの指導を受けられるのはこの世界で俺しかいない。


 ――――――


 朝はドクの修行。昼は創造と消滅の力を操る練習をした。

 夜には—―


「ダンジョンの数で言えばこのサジ共和国の二十五個が一番多いですね。そして、未攻略の数は……」

「ここ。えーと。ダンジョン都市ダースの九個だね」


 ユミナとアルレと共に地図を広げてダンジョンについて会議した。

 目標がダンジョンを攻略する旅ことだ。なら、ダンジョンの場所を知っていた方がいい。


 こんな日々を続けた。


 ダンジョンから家に戻って三週間後に帝国との間で会合が行われたらしくその時の反応からゴブリンの襲撃について完全に白という結果が出たらしい。

 俺は収集ネズミ(スパイモルモット)によって結論を知っていた事だが。


 国から来た兵士が帰っていった。

 勿論、アルレも例外ではない。


 特に特別な事をする訳でも無くあっさり居なくなった。


 一人が居なくなっても俺の生活は何一つ変わらない。

 日常を続ける事三年。


 俺の年齢は十歳。弟と妹は六歳になり、身長も高くなった。

 

 ある日の昼ご飯の時にロイが家族に告げた。


「変な手紙が来てな、何やら一週間後にある貴族のパーティーに出ないといけないらしい」


 貴族の集まりに出ることになった。

 正直、貴族のいざこざの中に入るのは面倒臭いが公爵という位があれば楽勝だろう。



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