五話 元仲間との再会
転生して六年が経った。今俺は家にある子供部屋にいる。
明日はステータスカードの入手と精霊と契約するための儀式を教会でやる予定だ。
「リュウにい様。明日は大切な日ですね」
妹のシーだ。白髪を腰まで伸ばしている。
普通の三歳児が敬語を使うかは知らないが礼儀正しい。
「兄さんのステータスは気になるな」
弟のシュウ。黒髪で元の世界の人間に見える。シュウは俺と父親のロイとの模擬戦を何回も見て「僕の兄さんは人間を辞めている」とよく言う。
シュウはどこの人間を基準としているのだろうか?
転生者かなと思い聞いてみた。
「シュウ。お前転生者か?」
「兄さん転生者って何?」
実はこのやり取りは何回かやった。
しかし、毎回知らないという。
この世界では転生者は本にも書いてありかなり有名なのに。
なぜなら、この国アーツ王国の初代国王は『私は勇者がいる世界の知識を持った転生者だ』と公言しており、国の歴史書には必ずと言っても書いてあるのに知らないは可笑しい。
「歴史の本に書いてあった勇者様がいらっしゃる世界の知識を持った者のことですよ。前読んだ本にあったじゃありませんか」
「そうだっけ」
シュウが相当馬鹿だったら違うが転生者説は濃厚だな。
俺たちが明日について話しているとドアが開いた。
「リュウ様。ロイ様がお呼びです」
ユミナだ。情報伝達や俺の部屋の掃除などの世話をしてくれている。
「行こうか」
俺は部屋を出て広い屋敷をユミナと共に歩く。ロイが何の用があって俺を呼んだのかが分からない。
明日については前々から教えられているからその話ではないだろう。
考えているうちにロイが使っている部屋に着いた。ユミナがドアにノックをする。
「ユミナです。リュウ様をお連れしました」
「入れ」
ロイの声がしたと思ったら、ユミナがドアを開け俺に部屋に入るように促してきた。
俺は一人でロイの居る部屋に入り、イスに座っているロイを机を隔てて対面した。
「お父様今日はどのようなご用件ですか」
「まあ、そんなに慌てるな。こっちに座りながら話そう」
俺は部屋の端っこにあるイスをロイの向かい側に置き座る。
「それでなにが……」
「リュウ。強い奴と戦いたくないか?」
俺の言葉を遮ってロイが言ってきた。強い奴? この時代では、剣聖であるロイがかなり強いはずだか
「実はな、俺を剣のみで完封出来る方がいるんだよ!」
剣聖であるロイを剣で圧倒する。なら剣聖はその人じゃないかと思うが今は、まあいい。
「そいつは表舞台に立ちたがらない方だから、俺が剣聖と名乗れる訳だ」
そういうことか、裏や闇の世界の人とかなら表に立てないな。
「裏の世界の奴かと思ったか? 違うな。奴は自分を単なる隠居と言っていた」
俺は仙人みたいな、白い爺さんを思い浮かべた。
「会ってみるか?」
「はい、会ってみたいです」
どちらにせよこの世界の地形を本では知っているが実際に見てみたい。その仙人みたいなやつも気になるこの時代の真の最高峰の力を知っておきたい。
「よし、家を出る準備をして来い」
「はい」
俺はイスを片付け自分の部屋に向かうためにドアを勢いよく引き部屋から出ていく。ユミナが俺が急に出てきてびっくりしている。
「ユミナ外に行く準備をするから先に戻るね」
俺は《身体能力強化》を発動させ、自分の部屋に走って行った。
――――――
子ども部屋に戻った。普通に歩くと二分ぐらい掛かったが《身体能力強化》を使って走ると床が壊れないように丁寧に走っても三十秒でついた。ドアを開け、弟と妹を見た。
「シュウ。シー。俺は強い奴に会いに行ってくるぜ」
すぐにドアを閉め自分の部屋に行った。
――――――
さっきのはあまり意味はないがあるゲームでこんなセリフがあったなと思ったから行ってみた。
変なことを考えていると俺の部屋に付いた。クローゼットを開き動きやすい服を出して着た。
そいえばクローゼットには鏡が付いている。そういえば、俺は転生してから自分の顔を見ていないな、少し見てみよう。まだ、イケメンになっているが分からないが髪の色ぐらいは知っておきたい。
鏡を見た。黒髪でかわいらしい顔をしている少年が写し出されされている。こっからイケメンになれるか? 顔が良ければ女の子に好かれやすい。何処の世界でも多分、常識のはずだ。
俺はなんとなく窓から外に出てみた。俺の居る部屋は2階にある。高低差約6メートルといった所かこのぐらいなら《身体能力強化》を使わなくてもいい。
地面に足が付いた。このままだと足の骨を折りはしないがダメージを負ってしまう。俺は膝を折り曲げて前へ前転することにより衝撃を分散させる。そして、前転の勢いを使い立ち上がる。
これでも、かなりの衝撃だが、普段から鍛えているとあまり、痛くは無い。
俺は今、家の玄関にロイといる。
「お父様。どこに行かれるのですか?」
場所が分からないのは少し不安だ。
「ああ、家の裏の森だ」
この家はとある理由で森にある。
その代わり、玄関の前には馬車が三台は通れる整備された道がある。その道を進んでいくとアーツ王国の王都に行ける。
裏には広い庭もとい訓練場があり、柵を隔てて森がある。今日は森に行くらしい。
――――――
今、俺とロイは森を走っている。木々が邪魔だがすんなりと進めている。ロイがスピードを上げる。
俺は《身体能力強化》を使って追いかける。ロイの奴、俺を試しているのか。レベルの差はあるが魔法有りと無しの差によってどうにかロイに付いていける。
しばらく走っていると湖と一軒の木で出来た家がある。なんでだろうか? 見たことがある景色な気がする。
「リュウ。あの家にあの方は住んでいる」
ロイがしゃがみ、俺の背中を優しく叩いた。そして、木の家に人差し指を向けた。
「どんな人かな」
この景色を見たことがある気がするが家に行ってみよう。
「誰かいらしゃいますか」
俺が家のドアにノックをする。三秒が経った頃だろうか。家から人が走って来るのか足音が聞こえてきた。音の感覚が狭いので慌てているみたいだ。
家のドアが生き良いよく開く。
「リュウ!」
家から一人の十三歳ぐらいの黒髪の少女が叫びながら出てきた。なんでこの少女は俺の名前を知っているのか?
「え、リュウは、あのノックの音とリズムは確実にリュウだったのじゃ」
少女は俺たちのことが見えていないのか周りを探している。
「お、剣聖かっこ笑いじゃないか今日はどんなご用件で」
かっこを自分でいうやつは初めて見た。それにしてもこの少女は喋っている間に驚きのことをしている。魔法を使っているのだ。俺が見た限りだと感知系の魔法だ。
勇者だったころレベルの魔力を今の俺は持っている。この少女にばれたら面倒臭いので魔力をイメージをして隠す。
「マーティン様。リュウとは誰のことでしょうか?」
ロイが俺のことを言わずに話かける。マーティン様? 聞いたことがある。確か。
「お主に言う必要はないが、まあ儂の仲間みたいな男だ」
もしかして、俺が勇者をやっていた時の仲間の賢者。レイ。レイ・マーティンじゃないか。でも、あいつは小学二、三年ぐらいの幼女と呼べる身長で基本的に会話では〈のじゃ〉を付けていた気がする。
魔法を使った時は、人違いの可能性も考えたが感知系の魔法を使っている。この魔法をよく見てみてみると、俺と賢者の合作の魔法だと気付いた。魔力だけではなく体温も感知出来る。五百年前にも使えてのは俺と賢者だけだった。
「ノックしたのは誰なのじゃ」
たまにのじゃが入ってきている。個人的にはのじゃが付いていてもいいけどな。
一応、質問に答えた。子供らしく。
「お姉さん。僕がノックをしました」
実に六歳児らしい。答えを出すことが出来たと我ながら思う。
「お姉さんって、儂はそこまで若くないんじゃよ幼児。……それにしても剣聖笑!ここは託児所じゃないよ」
どうやらレイは俺を預けると思っているらしい。
「違います。マーティン様。この子は私の子ですが今日はこのリュウと模擬戦をして欲しいのです」
ロイ。結構怯えているな。息が少し荒れている。確かに自分より圧倒的に格上の相手に「ガキと戦ってくれ」と言っている様なものだ。
「いいじゃろう。その代わりその子供に対して一方的な攻撃をしても止めるなよ、偶然とはいえ儂の仲間の名前を使った子じゃからの」
俺と奴ではレベルの差が圧倒的にある。確か俺が知っている限りだと【レベル】百二十ぐらいだったはずだ。
もちろん俺は魔物やモンスターを倒していないので≪レベル≫一 だ。もちろん勝てない。身体能力がまるで違う。
例えるなら、生まれ間無い普通の子供と人を素手で簡単に普通の大人を殺せる人ぐらいの差がある。
「レベルの差なら儂が開発した。訓練用魔道具〈レベルワン〉によって儂のレベルを一にする。そうしないと、優しくビンタしただけで子供が死んでしまうしの」
レイは腕輪の様な魔道具を手に着けた。
単純な剣術と魔法による戦いに出来る魔道具か。良かったこれでまだ勝てるかもしれない。
「小僧。模擬剣は持っておるか?」
「はい。持っています」
一応、勝負をするかもしれないから持ってきて良かった。
俺とレイは間に約二十メートルを開けた。
「剣聖かっこ笑審判をせい!」
「わ、分かりました」
ロイが俺たちの間に立つ。
お互いが睨み合う。視線を見て、行動を予測しようとするがレイの目は全く動いていない。俺の方を見ている。そう上手くはいかないか。
「始め」
合図と同時に《身体能力強化》を使い。レイの方へ全力で向かった。地面を抉る感触が足を伝う。
そして、小手調べに横なぎをする。
「なんで、小僧は魔法を使えるのじゃ。この時代の人はちんけな魔導しか使えんはずなのじゃ」
言葉を発しながらもレイは後ろに跳び俺の横なぎを躱す。
一瞬体の動きが止まっていた。少しながら動揺している。
「独学です」
一応答えておく。ただ答えるだけではなく一歩前に踏み込み。さらに横なぎで追撃をする。
「儂が模擬戦に勝ったらちゃんと答えてもらうぞ」
レイも《身体能力強化》を使い、俺の剣を受け止め弾いた。俺は衝撃を流すために後ろに跳んだ。
「答えてやるよ。でも、今は戦おうぜ!」
口調が元の状態に戻ってしまっているがいいだろう。《身体能力強化》に使う魔力の量を上げる。
魔力を上げるとその分強化されるが体への負担が多くなる。今の魔力量を使っている状態だと体は持って五分ぐらいだろう。
俺は更に強化された体でレイに突っ込んだ。急な加速に驚いてくれたら隙が出来るだろうと突っ込んでみた。しかし。
「甘い」
レイの魔力の使用量を上げて《身体能力強化》をして、俺に横なぎを放つ。
剣の大きさが違うので相手の方がリーチがある。幼女体型の時だったら同じぐらいのリーチなのに、今は少女体型だし獲物の大きさも違う。少しこちらが不利だ。
このまま、剣で受けてもいいが、俺は【魔力感知】のスキルを意識した。相手の剣に魔力が入っている。剣に何かしらの魔法が掛けられているな。
受けると相手の魔法が発動するしれない。こんな時の対処法は剣聖ガイゼルに教えてもらっている。
俺は剣に魔力を流し強化をする。魔力は本当に万能だ。物に流すと強度を上げてくれる。
「くらえ」
俺は硬くした剣で思い切り相手の剣を切る。相手の剣が折れた瞬間に爆発が起きた。レイは剣に爆発系の魔法を込めていたのだろう。
俺は爆発の衝撃で後方に飛ばされてしまう。この状態のままなら倒れるが俺は一回転をして足から着地し地面を滑る。
衝撃の対処法だ。元の世界でトラックに轢かれた時にやろうとした技だが今回は上手くいった。この技もガイゼルに教えてもらったなと思い出す。
爆発の煙が晴れる。普通の人は煙の方を見ると思うが相手が周り込んでいる可能性がある。俺は警戒をしながら周りを見る。
後ろから突っ込んで来た。別に躱してもいいがここは敢えて抜刀で倒してやる。
俺は剣を腰に差すふりをする日本刀みたいな剣なら鞘に入れることもするが西洋の剣だと俺にとってはやり難い。
相手の距離を感じ取る。魔法を使ってもいいが剣の打ち合いの時は風の流れを感じると雰囲気が出る。
相手との距離が大体十メートルになった。剣に手を付け後ろに切る準備をする。一応、今は剣に魔力を送っていない。調整を間違えて殺したくはないからな。
相手との距離が二メートルほどになった。剣を振っているのか空気が伝わる。俺は後ろを振り向くために足を捻った。
一メートル以内に入ってきた。相手の剣が俺の頭に当たり掛けるが、俺は剣を引き。後ろに振りかぶり思いっきり切った。
俺が居合を決め後ろを振り向いた。そこには、レイでは無く俺の親のロイが倒れていた。審判を使うのってありかよ。そう思った瞬間もう既に俺は地面に倒れていた。
――――――
意識までは失ってないが立てる気がしない。だって、模擬剣を首に当てられているからだ。
「降参だ」
手を上げながら。降参の合図をするが審判が気絶しているから終了のコールが掛からない。
「その前に一つ質問に答えて欲しいのじゃ。お主は五百年前の勇者リュウか」
え、もう正体がばれたのか。でも父親は気絶しているから言ってもいいか。
「ああ、そうだ。レイ。久し振りだな」
首にあった剣の感覚が無くなった。その代わり背中に温かい感触がした。少し重たい。
「お帰りなのじゃ。約五百年間待っておったのじゃ」
俺は、運悪く転生してしまったと思っていたが、転生して良かったと今思えた。
「まさか、五百年も待ってくれるとはな」
「もちろんじゃ。儂だけには長い時間があるからの」
俺には理解出来ない何時帰るか分からない。しかも帰ってくる可能性が低い男のために何年も人は待てるのだろうか? 女の気持ちは俺にはよく分からない。
「そろそろ、離れてくれないか。あと少しでロイが目覚める」
あんなに怯えていた相手が自分の子供にのしかかっている。これはもう恐怖ものだろう。後で事情を説明するのは面倒臭い。
「むう、離れたくないのじゃ」
その言葉とは真逆に離れてくれた。俺が面倒なことが嫌いなことをよく理解してくれている。
俺は立ち上がり。背を伸ばした。ちょっと重たかった。女性に対して体重についていうのはかなり危険だ身を持って知っている。
「親父を起こして俺は元の屋敷に帰るとするよ」
俺は起きかけているロイのを支えに行こうと歩いていたら。
「《ショック》」
レイがわざわざ魔法名を言ってから発動させた。《ショック》は相手を気絶させることが出来る魔法だ。
ロイが一瞬痙攣し、また気絶した。
「ざっと二時間ぐらいは起きないはずじゃ。家でのんびり話そうじゃないかの」
まさか、ここまでするとは。でも、俺も気になっていることがあるから丁度いい。ロイを抱えて木の家に入った。モンスターが出たら現代の剣聖とはいえ気絶しているので危ないだろう。
この家で思い出したことがある。俺が勇者だった時に仲間と発見した。綺麗な池と木で出来た家でいつか住んでみたいと思っていた家だ。
俺はレイの後を付いていった。玄関、廊下を通り、リビングの隣にある池を見られるテラスのイスに座った。
本当は魔法や魔導。ダンジョンの歴史について知りたかったが、久しぶりの再会なので、思い出話をレイとした。