五三話 魔剣召喚
何をやっても無駄だ。
そう思っていた。
どの世界で何をしても死んだら何もなくなる。
死んでから有名になった芸術家はいい例だ。
いくら、絵に金を払って貰っても教科書に載っても生きていないから、本人は何も分からない。
俺は死んだら無くなるそれらを嫌った。
いや、拒絶した。もし、成功しても何にもならない。
本気で努力なんてしても面倒臭いだけだ。
……これは小学生の思い出。
しかし、中学生の時にほとんどが変わった。
――死んでも効力があるもの。
それは……。
――――――
「がは。はあはあ」
意識がはっきりとある。
息をしている。全身が痛む。
どうやら、まだ生きているみたいだ。
「《自己解析》。毒が消えている」
下を見ると少し窪んだ所に水が入っている。
「この水に助けられたのか?」
液体の能力は分からないが、最低でも消毒の能力がある。
「後は強い魔物を食べれば完全だろな」
元の世界で読んだライトノベルでそんなストーリーがあった。
「遅く帰ると心配させるし、クウ!」
俺の叫びは虚しくも真っ暗な空間の空気を少し振動させるのみ。
【念話】を使う。
『クウ。いるなら返事をしてくれ』
なんの反応も無し。
……はあ。誠に面倒臭い。
「クソが! 《大地操作》」
土を操ってさっさと脱出してやる。
魔力を流しても地面は一切動かない。
ダンジョンは操れないみたいだ。
「次だ! 《飛行》」
次は空を跳ぶ作戦だ。
――結果。五百メートルほどで謎のバリアに挟まれた。【魔力感知】で正体を探ったが何も無い。
無暗に攻撃すると危ない。地面に降りる。
「結局は攻略しないといけないのか」
蛇の口のような洞窟の入り口がある。
「俺は最弱でもないしな。さっさと攻略するか」
ここを第一層と名付け、蛇の中に入って行った。
――――――
洞窟のように入り組んだ道を進んでいく。
まだ。魔物に遭遇していないが、相当強いのだろう。
右手を壁に当てる有名な方法を使い、慎重に進んでいくと魔物に出会った。
大きさは軽トラック程。
真っ白い毛皮と鋭い牙から、元の世界で言えばホワイトタイガーに似ている魔物だ。
「死んで貰う」
無詠唱で相手の体と同じ大きさの《火玉》を放つ。
「そんな。上手くはいかねえか」
全くの無傷。
本気ではないとはいえ、ダメージが入っていないのは変だな。
ホワイトタイガーが俺に気付き、物凄いスピードでやって来た。
大きな爪が俺に迫る。
「残念だったな。犬っころ」
俺の手に触れた瞬間。ホワイトタイガーが爆発する。
ステータスにするとざっと三千の魔力を送り込み、魔力過多で爆発させた。
「はあ。意外と強かった」
腕の骨が砕けていた。
すぐに《回復》を使い治す。
「ドロップアイテムは牙。綺麗だな」
ダンジョン石が発する光を反射する程の美しさ。
【アイテムボックス】の中に入れて、探索を再開した。
――――――
そのあと、特に魔物に出会うことは無く。次の階層への階段についた。
階段を数段降りて、腰をつく。
「はあ。今頃みんな俺の心配をしているだろうな」
時間を掛かればこのダンジョンを踏破するのは簡単だろう。
しかし、帰還が遅くなれば、緊張状態の屋敷では帝国に攫われたと考える可能性が高くなる。
「久しぶりに焦っているな俺。クウさえいれば、帰るだけなら楽勝なのに」
他人事のように考えてしまいたい。
すべて、自分以外の奴に責任に押し付けられれば、どんなに楽だろうか?
「さて、進むか」
腰を上げる。
これから先には更に強い魔物がいる可能性が高い。〈龍の巣〉みたいに弱くなることは無いはず。
階段を降りた先は真っ暗。
「うざいな。【魔力感知】からの《ライト》」
明かりを灯すと一本道が続いていた。
進んでいると開けた場所に辿り着く。
【魔力感知】に高速で接近する反応があり、咄嗟に回避行動をとる。
「ちっ! 危ねえな」
さっきまで俺がいた所が地面ごと抉れていた。
「回避をしてなかったら、真っ二つ。初見殺しにもほどがあんだろ」
大きく深呼吸をする。
一撃で死ぬ極限の状況。――いい気分だ。
「かかって来いよ! 絶対に殺してやるからよ!」
背後から魔力が近づいてくる。
最初より何倍も速い。
直前で回避し、相手の正体を見る。
元の世界でいえば、鷲。しかし、大きさが桁違いだ。
第一層のホワイトタイガーが軽自動車クラスの大きさに対して、この鷲は大型トラック二台分の大きさに匹敵する。
「いいねえ。殺しがいがある」
鷲が突っ込んでくる。
しっかりタイミングを見極めて跳ぶ。
「《混色矢雨》」
四つの基本属性と闇と光の矢が魔物に振り注ぐ。
土煙が晴れた後には何もいなかった。
!?。やばい。何だか分からないが今まで戦ってきた経験が警笛を鳴らしている。
空中で体を無理やり捻った。
鷲が上を遠のいて行くのが見える。
途中で軌道を変えて、攻撃を仕掛けてきた。
「死ぬところだったな」
爪の餌食にならずに良かったと安堵した瞬間。
右肩あたりに鋭い痛みが駆け抜ける。
地面に倒れる。
左腕で痛んだ所を確認した。
「まあ。切り裂かれているが妥当だな。ああ、よっこらせ!」
ため息を吐きながら立ち上がる。
痛みが生きることを諦めろと伝えてくる。
俺には元から死への恐怖は無いに等しい。
「ははは。あハハ! やっぱり。戦闘はこうなくちゃあな」
心から笑いが込み上げてくる。
右腕は全く動かないが左腕を上に掲げる。
鷲が飛んでくる風切り音が聞こえ俺の左腕が飛んで行った。
「両腕が使い物に無くなった」
勿論、凄く痛い。
「楽しい……おい! もっと攻撃しろよ!」
こんな言動をしているが俺はマゾヒストではない。
痛いのは嫌だが、楽しい。
また鷲が飛んで来て、俺の腹を蹴った。完全に遊ばれている。
口の中から血が溢れてくる。
「いいぞ。あと……少しだ!」
あばら骨がほとんど砕けた。
次に鷲は俺の腹に爪を貫通させる。
そして、猛スピードで空に連れまわされ、最後に地面に叩きつけられた。
血が抜けて、寒くなる懐かしい感覚。
……そして、スキルを入手した感覚。
「《超回復》」
切り裂かれた右肩と飛ばされた左腕は勿論、折れた骨潰れた内臓が治っていく。
魔力消費は一〇〇〇〇と馬鹿みたいに高く、俺しかこの回復ができないデメリットがある魔法だが、実にありがたい。
「クソ鷲! よく、俺を殺さずに遊んでくれたな。反撃の時間だ。――スキル発動――【魔剣召喚】!」
世界が白く染まったかと思えるほど光を発した後、俺の手には真っ黒の刀身をした一本の日本刀が握ってあった。




