side 魔族の化け物
読まなくても本編は分かるようになっていますが、読んで下さるとありがたいです。
私たち五番隊総勢十五人は現在、長い道を歩いています。
「隊長! 本当にこの道であってるんですか?」
「分からん」
一人の隊員がラマ隊長に質問をしていますけど、正直、私にはどうでもいいこと。
ここは私をいじめる魔族はいない。それだけで私は幸せです。
のんびり歩いていると、大きな壁が見えてきました。
「なんだ。あの綺麗な外壁は!」
誰かが呟いたとき私も同じことを思いました。
魔族の外壁は土で固めたもので非常に見た目も強度も悪い。
しかし、あれは固そうな石で出来ている。
私の能力は何個かあります。
そのうちの一つ人から出ているオーラを見て強さを判断するという力です。
外壁には薄っすらとオーラが出ていました。
これは魔道具によくみられる物で強い効果を持つほど大量に見えます。
「よし。行くぞ」
隊長の一声で覚悟を決めます。
長い列の後ろに並びましたが、私たちを見ると揃いに揃って、頬をつねり始めました。
「夢じゃねえ。魔族がこの町にやって来たぞ!」
商人ぽいっ人族の男が叫びだしました。
もしかして、この国は魔族を受け入れてくれないのか。
兵士の方が走ってやってきました。
「これは魔族の入国者ですね。――お連れしろ」
数十人の兵士に囲まれ、連れて行かれました。
そして、何故か城みたいな所に入っていきました。
更に城の奥に進み、豪華な扉の前に着きました。
「ここから、アーツ王国の国王様がいるので、態度はともかく暗殺はさけて下さい」
「分かった」
いきなり、王様と謁見する事になったみたいです。
扉を開けると赤いカーペットその先には大きなイスには筋肉がすごい量ある男が座っていました。
流石、一つの国の王。オーラの桁がその辺にいた兵士達よりありますね。
「礼儀はいいから。なぜ、来たか教えてくれるか?」
「亡命です」
ラマ隊長に受け答えを任せます。
「よし。アーツ王国へようこそ。魔族の方々。我が国では犯罪さえ起こさなければ種族差別はない。好きに生きてくれ」
……随分、歓迎ムードですね。
結局、私以外はダンジョンを探索する冒険者になりました。
私は—―
「今日からここで働くことになりました。アルレです。よろしくお願いします」
兵士になる事にしました。
――――――
この国には私服兵が大量にいます。
初代国王が考えた警備方法で犯罪の抑制をしているそうです。
まあ、私はまだ信用が足りず、門兵をやっています。
兵士用の服がありますが、私が頼んだら、あっさり五番隊の服を着ても良いと言われました。
「新入り。今日は別任務が入った」
先輩兵士が話かけてきました。別任務? まさか、クビでは無いですよね?
「あそこの森の整備された一本道を進むと家がある。そこが危険な状態にあるらしいから、ちょっと走って、先に行った他の兵士の援護に行ってこい」
「はい。分かりました」
言われた通りに森に行くと見覚えがある道がありました。
私たちが謎の子供に眠らされて、起きた所だ。
先輩から、走って行けと言われたので、全力で行きました。
走っていると急に土の柱が出現しました。
相当遠くにありますが、まさか、あそこにあるのが危険な状態の家なのでしょうか?
あそこまでは二時間は確実にかかりますね。
――――――
柱のある所に着くと、結界が締り掛かっていました。
「おーい! ちょっと待って下さい」
オーラから見るにかなり強力な結界。私では破れない。
更に速度を上げて、結界の中に入りました。
ずっと走って、息が上がっていましたが、目の前にいたのは七歳ほどの少年。
「はあはあ。あれ? 君どうしたの?」
黒髪に可愛さのある顔。そして—―
五番隊によく似た黒い服を着ています。
「僕はあそこの家の住人です」
彼は五番隊ではないようです。
それに、家の住人なら護衛対象になります。
「そうなの。この辺は危ないって聞いたから、私と一緒に行きましょうね」
子供に手を差し出しました。
私の頭に生えている角に一切怯える事無く、手を握ってくれました。
!?。この子、手が異常なまでに固い。
こんな年から剣を振っているのでしょうか?
この子の事を知りたい。
「君の名前は? あ。私はアルレ。魔族だよ」
「僕はリュウっていいます。よろしくお願いしますアルレさん」
「よろしくね」
リュウ君。なんて、礼儀正しい子供なんでしょう。
私が七歳の時は……。気にしない方がいいですね。
「あれ。誰もいないね」
先輩兵から聞いた話では先に五十人ほどが先に行っているって聞きましたが、誰もいません。
「僕が案内しますよ」
リュウ君に手を引っ張られ、扉を開けました。
世界がゆっくりになる。
私の能力の一つ。死の危険が迫った時に世界をゆっくりにする力。
銀髪の若い男性が剣を振る姿が見える。
しかし、今の私でも躱すことが精一杯。この子を守れない。
私はリュウ君を庇うことを選択しました。
変な人生もここで最後ですね。次はいい人生でありますように。
祈りながら、殺されるのを待ちました。
いつまで経っても何も起きません。
静かに目を開けます。
「切られて……いない」
切ろうとしてきた男の後ろ姿が見えます。
奇跡。そう思いました。
「またですね。前は誤解だって分かりますけど、今回はワザとですよね」
「いや。すまんかった。息子の成長が気になっただけで」
「はあ。もういいです。お母様の所に行ってきます」
謝っている男のオーラを見てみました。
はは。私の能力全部使っても勝てる気がしない。
それほどの強者。それにこの子の父親らしい。
実の息子に対して、剣を振る。一種の愛情でしょうかね? 私には分かりませんが。
リュウ君に手を引っ張られたのでついて行きました。
「君の父親凄いね」
話かけてみました。
「なぜですか?」
「私が本気を出しても勝てる気が全然しなかったよ」
「じゃあ。僕はどうですか?」
親より強くありたい。可愛いですね。
オーラを見ればすぐに判別できますが、私のもう一つの能力を使います。
握っている手に意識を集中させます。
オーラは他人の強さを示しますが、それがスキルが強いのか魔導が凄いのかは分かりません。
しかし、触っているとその部分が平均を一〇〇とした数値となって分かります。
例えばラマ隊長の数値は。
《筋力》 一七〇
《魔系》 三〇〇
《スキル》 二〇〇
《才能》 五〇
こんな感じです。
《筋力》は肉体の強さ。《魔系》は魔導と魔力の強さ。《スキル》は数と特殊性。《才能》は私にもよく分かりません。
そして、リュウ君は――
《筋力》 二〇〇〇〇〇
《魔系》 三七〇〇〇〇
《スキル》 測定不能
《才能》 測定不能
笑いしか出てきませんね。
「君は相当努力をしてるね」
お世辞で知りもしないことを評価してから話を始めました。
「でも、なんだろう。私には感じられないほどの大きな力を隠し持っている。私は君みたいな少年にも勝てないのね」
本音を子供に言ってしまいました。
自分の情けなさに俯きます。
「そうですか? でも気にしないで下さい」
慰めをしてくれているしょうかね?
こんな小さな子に気遣われるとは、何だろうこの気持ちは。
「ただ僕は化け物なんで――」
「それは違うよ。君の力は化け物と言われてもおかしくないよ。でも、それはあくまで他人の」
何言っているんだろう私。いや、言わないといけない気がする。
「凡人の評価なの。君は君。それは絶対なんだ。決して化け物じゃない」
「あ、はあ」
微妙な顔をしています。
言い過ぎた気が過ぎます。
「ごめんね。偉そうな事を言って」
「いいですよ」
それからは目立った会話が無く、大きな扉の前に着きました。
私が前に出たら、力でどうにかなる。
かっこ悪い所を見せたままにするのは気に食いません。
特に襲われることなく、部屋の中に入れました。
人の多さに呆然としていると、メイド姿の私と同じ位の金髪の少女にリュウ君を盗られました。
取り返そうと手を出そうとしたら、急にメイドがリュウ君を抱きしめました。
確実に私の方を向いていますね。眩しい位の笑顔が見えます。
あれ? なんで私、嫉妬しているんだろう?
少しの間、考えましたが答えが出ませんでした。
しかし、心のどこかがムズムズします。あのメイドからリュウ君を離さないと。
「子供に抱きつくメイドなんて聞いた事ないですね」
一言文句を言い、奪うようにしてメイドから取り戻しました。
周りの兵士たちが何かを喋っていますが、気にしません。
今はあのメイドが相手です。
睨んでいると、リュウ君が急に震え出しました。
「リュウくーん」
黒髪の美人さんが綺麗な笑顔でリュウ君呼びました。
震えが大きくなりました。
あの女性が怖いのでしょうか?
「その魔族の子と仲良くなったのかな?」
「イエス! マイ マザー」
マザー? は何か分からないですが、なんとなく、目の前の女性はリュウ君の母親なんでしょう。
ほんの数秒の間、静粛が場を支配しました。
私はリュウ君の震えを感じられて、楽しい時間は一瞬でした。
「なら良かった。あなた。リュウ君の専属護衛をお願いね」
「私ですか?」
「はい」
専属護衛。いい響きですね。
それより、私がこの子を守る必要性ってありますかね?
私が五千人いても勝てる気がしません。
「とりあえず、帝国との会談が終わるまでね」
「分かりました。命に代えても守ります」
「これで警備についての会議は終わり、みんな解散!」
帝国との会談とはよく分かりませんが、しばらくはリュウ君の近くに居られるみたいです。
久しぶりにこんな嬉しい気持ちになりました。
私が喜んでいると、さっきの金髪メイドが話しかけてきました。
「リュウ様は渡しません」
何を言われているか、よく分かりませんでしたが返す言葉は知っています。
「受けて立ちますよ」
「あなたはまだ、何も知っていないのです」
メイドが扉の所でリュウ君を待ち始めました。
リュウ君は料理長っぽい人と真剣そうに話しているので私も待ちました。
そして、ニ十分ほどでリュウ君は会話を止め、こちらに歩いてきました。
「僕の部屋に行きましょう」
特に会話も無く、リュウ君の部屋に入って二時間ほど経ちました。
「さて、改めて自己紹介をしようか。僕はリュウこの家の息子で人間です」
「私はユミナというものです。リュウ様の専属メイドです」
「私はアルレ。リュウ君の専属護衛で見ての通り魔族だよ」
リュウ君が会話を始めようと話かけてくれましたが、メイド。ユミナさんと牽制しあって、声が出せません。
「もう。夜なんだ」
空を見るともう真っ暗です。
「リュウ様。もう睡眠をとられた方が」
「そうだね。僕はもう寝る事にするよ」
リュウ君が柔らかそうなベットに入りました。
――いいことを思いついた。
「ユミナさん。あなたは何処で寝るんですか?」
「私はいつも与えられた部屋で寝てますけど。どうかしましたか?」
「じゃあ。私はここで寝るので」
「!?。あなた! まさか」
リュウ君のベッドの中に入って行く。
七歳位の子と寝ても全然健全です。
「護衛任務を果たすためには仕方がない事ですから、ユミナさんはご心配なく寝てどうぞ」
更に一言付け加えました。流石のユミナさんもこれで反論できないはず。
「分かりました。アルレさんくれぐれも余計な事はしないで下さいね」
「分かってますよー」
ユミナさんが部屋から出ていきます。
私の勝ちです。完全勝利です。
さて、ここからは二人の時間です。
抱き枕を抱きしめる感覚でリュウ君に触りました。
会話が無いのは悲しいので話題を見つけます。
そうだ! リュウ君が来ているのは五番隊の軍服に似ている。
これなら、どう転んでも会話が続きます。
軽い口調を意識して話ました。
「君さー。五番隊について何か知っているでしょ」
「――ああ。勿論」
え? 知っている。
全く予想していなかったです。
すぐにリュウ君のオーラを見ます。
そして、記憶の中から、ラマ隊長の隣にいた子供のオーラを比較します。
結果は――
全く同じ。同一人物でした。
私をあそこから連れ出してくれたあの子には感謝しています。
その子供がリュウ君。なんという偶然。世間は意外と狭いものです。
「君があの子だと確信して言うけど、そうじゃなかったら、これは一人の魔族の独り言として聞いてね」
「分かりました」
全てを話しました。
生まれから、五番隊に入るまでのすべてを伝えました。
別に私を知って欲しいわけでは無く、礼をしたいのだ。
そして、ラマ隊長が捨てゴマとして使われたことを言いました。
「本当は私の方が隊長よりも強くても私は何も言わずに隊長を任務に行かせてしまった」
あの時の懺悔。いえ、愚痴を吐きました。
こんな小さい子に対して。
でも、なんだか楽な気持ちになります。
「私は自分を救ってくれた人でさえ、信用できなかったんです。こんな、現実を見ておいて、何も出来なかった私を責めるしか」
「やめておこう」
今まで無言だったリュウ君がアドバイスをくれました。
「じゃあ。私は何をすればいいの?」
「……」
しかし、感情が高ぶっているせいで、反論をしてしまいました。
「そんなに現実を見ないでいいなら、私は苦労してないよ。すべてが上手くいくなんてある訳ないんだから……あ」
自分の過ちに今気づきました。
子供に対して愚痴を言っているだけじゃないかと。
「すいません。本当はお礼が言いたかっただけです。ありがとうございます。こんな、暗い女と一緒にいるとリュウ君も暗くなってしまうから。私が死んで――」
「ふざけるな!」
「!?」
急に立ち上がって、怒鳴ってきました。
びっくりしましたが、言葉の意味を考えます。
分かった。死んで詫びる位ならその一生を生きて詫びろ。という訳なのだろう。
「ありがとう」
悲しくも痛くもないのに目から涙が出てきます。
「私、死ぬなんてもう考えないよ」
リュウ君はすぐに寝てしまいましたが、私はすごい満足です。
小さな温度を感じながら、寝ました。
朝。目を覚ますと誰もいませんでした。
リュウ君がどこに行ったかは分からないけど、問題ないでしょう。
「喋り方どうしましょう」
心の中で話している方が私本来の口調ですが、ユミナさんと被ると面白くないですね。
「よし。今日も頑張るかー」
私は服を脱ぎます。
「水の精霊よ我の魔力を代償に纏い、消えたまえ。《水玉》
目の前に私の体位の大きさの水の球が出現しました。
水が私の体を洗浄する。
そして、五秒ほどで霧となり消えます。
「よし、働こう!」
服を着終わると、リュウ君が部屋の端っこで壁の方を向いて三角座りをしてました。
この子を護衛する事が私の任務です。




