四八話 別れと継続
会議が終わってもまだ帰れない。
「君のスキルを見せてくれ」
「断ります」
今ので同じやり取りを五回もやった。
何度頼まれても、仲間以外には自分の手を見せるつもりはない。
こんな面倒臭いやり取りより、子供たちと話したい。
「すいません。帰宅してもいいですか?」
「もう、よい。どんな龍か確かめたかったんだがの」
「それでは」
興味はあるが、ここで聞かなくても【龍纏】の龍は長く生きている賢者あたりに聞けば、龍の種類位、すぐに分かるはずだ。
逃げる様に退室した。
――――――
帰りに子供たちと初めて会った、田んぼに寄り道をする。
いつでも、来れるが子供たちと堂々と遊べるのは今日が最後になる。
ゆっくり歩いていると、五人の少年少女がやって来た。
「おはよう」
「おはよう」
「リュウ。遅かったね」
「もしかして、大人たちの会議に参加していたの?」
「そうかもね。リュウの事だし」
「今日何するの?」
「ダンジョン行こう。ダンジョン」
一気に賑やかになった。
静かなのもいいが、友達に囲まれるのも悪くは無い。
急に消えて心配をかける訳にはいかないな。
「みんなに話があるんだ」
五人が一瞬で静かになる。
「今日で僕はこの里を出るんだ」
「え……」
誰かが、驚きを隠せず声を漏らした。
「疑問に思うかもしれないけど、決まった事なんだ」
「そうなのか」
「ずっとここにいるんじゃないの?」とか聞かれると予想していたが、案外すんなり受け入れるんだな。
「今日でリュウとお別れかー。悲しいなー」
ドクの奴。やけに棒読みにだな。
「僕も悲しいよ。一回分かれるなんてでも、またいつか会えるよ」
トシが言葉を強調している。怪しい。
……分かった。こいつら俺の精霊と能力を知っているな。
俺が教えたのはドクだけだ、情報源はすぐ分かる。
ここでも、俺を嵌めるか。絶対にお返しをしてやる。
「ドクには後でちょっと話があるから、帰りに来て。重要な話だから」
「え、なんでかな?」
「いいから、いいから」
母親譲りの黒い笑顔を作る。
いや、今の俺なら、イケメンスマイルになっていたりして、――妄想はやめよう。虚しいし恥ずかしい。
「もしかして。……ヒューヒュー」
「からかわないでよ!」
ささやかな復讐にはなっただろう。しかし、これはまだ序の口だ。
「じゃあ、今からは何をする?」
「鬼ごっこのリベンジをしたいな。ね! ドク」
「う、うん」
笑顔のまま、話を振った。
「今日は鬼ごっこをしよう。時間は昼ごはんの時間になるまで。でいいかな?」
「いい。そうしよう」
百秒を数え始める。
前回より奴らの逃げ足が速くなっている。ダンジョンでレベルを上げた影響だろう。
「今回こそは勝つぞ!」
「……私に話って何かな?」
せっかちだな。疑問に持ったまま、戦いには行けない。
今は簡潔に済まそう。
「精霊の能力。転移の事をばらしたな」
「ごめんなさい」
素直に謝ったか。醜い言い訳をされるよりは断然いい。
相手は子供だし許してやるか。
「まあ、秘密なんて大体が漏れるんだ。今度から気をつけろよ」
「分かった!」
「切り替えて、行くぞ!」
「うん!」
早速、【魔力感知】を範囲を広げ発動させる。
頭が痛いが我慢だ。今回は絶対に勝つ。
「反応が三つ。行こう」
「何の事か分からないけどついて行くよ」
頭痛のせいで、スキルの事を説明する暇は無い。
手加減をしながら、走る。
ドクと何週もトラックを走ったのでドクの限界は大体分かる。
目的地に到着し、スキルを解除する。
「やはり、そう簡単にはいかないな」
予想はしていたが、田んぼのど真ん中に反応がある。
今回は待つなんて生温い方法は使わない。
水に手を入れる。
「《ライトニング》」
この魔法は電気を放つものだ。
五百年前だと電気の概念があやふやで使えるものが少なかった。雷魔法の一つ。
三十秒の間放電をしたが、誰も浮き上がらなかった。
もしかして、水中にいないのか?
「なんか、バチバチってしたけど何をしたの?」
「電気ってものを使ったんだ」
「それ、知ってるよ」
「すごいな。……知っているだと!?」
ユミナから、勉学の指導を受けているが、電気については一切やってない。一般常識では無いはずだ。
ドクが天才児だったり。想像できない。
「私の妹。ワットがね。電気を使えるんだ。時々、暴走するけど」
「そうなのか。誰に教えて貰ったんだ?」
「長老たち」
電気を操る竜。聞いた事が無い。
「私と同じで突然変異って奴らしいよ」
「意外と詳しんだな。長老たち」
「勇者様を馬鹿にしなければ、賢くていい人なんだけどね」
勇者を馬鹿にするだけで嫌われるのは少し可哀そうだな。
「電気について、俺からもいいことを教えよう」
簡単に元の世界にいた時にインターネットで調べた電気と作物の育成の関係について教えた。
理科は役に立つからと元の世界でいろいろ調べていた。
「これなら、ワットもみんなの為に働けるね」
「じゃあ、鬼ごっこの続きしよう」
話しながら、周りを観察して気づいた。所々に小さい穴がある。
隠蔽されていたが、まだ甘い。
「《土操作》」
地面に穴を作り、田んぼの中心に地中からつなげる。
「うわー。見つかった」
「今回こそは勝てたと思ったのに」
「リュウ強すぎだって」
まさか。田んぼの下に埋まっているとはな。
共同で隠れ場所を作成するなんて、確実に成長している。
「あとはトシだけだな」
「うん。前みたいに戻っているかも」
「それは無い」
【魔力感知】を使っても、スタート地点には無い。
こうなれば最終手段だ。
「《作成土兵》」
蛇モグラをざっと、千体作り放った。
流石のトシもこれだけの兵がいれば見つかるはずだ。
――――――
時間が経ち諦めた。千体もいたのをどうやって掻い潜ったのか?
混乱しそうだ。
「まさか、同じ手に引っかかるなんてね」
トシはスタート地点に戻っていた。
【魔力感知】が反応しなかったのに何故ここにいる。
もしかして、魔力が無いのか?
この世界で魔力を持っていないという事は、魔法や魔導が使えない。昔はそれだけで差別される奴がいたのに今はそうでは無いのか?
いや、ダンジョンで追いかけた時に確かにトシの魔力を感知した。
別のスキルが関わっているのだろう。
「本気を出して負けるなんて」
「蛇? も出してたもんね」
「次やる時に勝てるといいね」
話していると誰かのお腹が鳴った。
「そろそろ、帰ろうか」
「うん」
各々の道を通り帰っていく。
ドクとは隣の家なので、途中道は同じだ。
「実は、まだ話があるんだ」
「何の話かな? 家に住みたいならいつでもいいよ」
変な話にすり替えられそうな気がしたが、言いたいことを思い出す。
「修行の話だ」
「ああ、あれね」
「毎朝、迎えに行くから」
「え!」
ドクが顔を赤くしているが、勘違いをしていないだろうか?
「継続は力なりって言うからな」
「うん。そうだね」
何故か名前と顔は思い出せないが、恩師のよく仰っていた言葉の一つだ。
「みんなには内緒に」
「分かった。これから毎日会えるんだね」
「そうだな。詳しく予定を決めようか」
家に着くまでに待ち合わせ場所と大体の時間を決めた。
「じゃあね。また明日」
「また明日」
空を見上げると日は真上にある。
腹時計でも知っていたがもうこんな時間か。
ドアを開ける。
「ただいま」
「おかえりなさいませ」
飯をさっさと食い、家を出る支度をする。
「今日でここも最後ですね」
「まあ、いつでも来れるけどな」
「そうですね。帰りはどうやって帰りますか? 私に乗ってもいいですよ」
「行きとは違う道で頼む」
門を通り、正式に里を出る。
今、考えるといろんな事を思い出す。
初めは観光気分で来たのに、ダンジョンを攻略の攻略や魔族に喧嘩を売ったり、報復に来た奴を亡命させたりした。
何より、同い年の友達が五人も出来たことが一番の収穫だ。
【龍化】したユミナに乗り、空を飛んだ。




