四七話 会議
今は屋敷に来ている。軍服の試着のためだ。
この世界だと鏡は高級品で竜人の里では見かける事すらない。
残念ながら、サイズがぴったりの服は無かった。仕方がないので一番小さいのを着た。
緩い袖を引っ張り、クローゼットの鏡を見る。
クールだな。あくまで男の感想だが。女性が見たらどう見えるのだろうか?
何着もあるし、この服を普段着にしよう。
――――――
すぐにユミナの待っている家に転移した。
「ただいま」
「おかえりなさいませ。今日は遅かったですね」
前、夜遅く帰った時みたいに悲しんだ声色ではない。むしろ、楽しそうだ。
「何か、いいことがあったのか」
「いえ、リュウ様が可愛い姿をしていらっしゃるので」
この服が可愛い……だと。
どっから見てもかっこいいだろ。
でも、ファッション能力皆無の俺が反論できるものではない。
「そうか? 魔王軍の軍服を取って来たんだが」
「魔王軍! どうしたんですか?」
「ああ、今日魔族が来て。捕らえて、アーツ王国に亡命させた。この服はその報酬だ」
「流石、リュウ様です」
驚くかと思ったが、あっさり現実を受け止めている。派手な事をして力を信頼をして貰えているのだろう。
「その服をサイズ調整しますか」
「頼んでいいか」
「いいですよ。服を脱いで下さい。その間、晩ごはんを持ってきます」
着たまま【アイテムボックス】に服を入れ、いつもの服を着た状態で出す。
コツが必要になるが、俺にとっては造作もない着替え方だ。
ユミナがすぐに戻ってきた。やけに早いな。
「見れなかっ……。着替えるの早いですね」
「スキルのお陰だな。それより、今日の飯はなんだ?」
聞こえてはいけない言葉が一瞬出た気がするが気のせいだろう。
「今日は、白米と鍋です」
「鍋。ああ、ドクの家であった奴と似ているな」
鍋が机に置かれた。
野菜と魚を土鍋モドキに突っ込んで、塩水で茹でるだけ実にシンプルな料理だ。
「よく、分かりましたね。あと、ドクって誰ですか?」
「隣の家に住んでいる、同い年の子だよ」
詳しい説明は省き、他の五人の友達を教えた。
「そうなんですね。リュウ様は本当にこの里に馴染みましたね」
「そうだな。でも、これも明日までだ」
それにしても無性にお腹が空いた。
【龍纏】の代償だな。
「「いただきます」」
ユミナから聞いたが鍋を食べるときに特にルールは無いらしい。
完全にドク達に利用された訳だ。
友達の俺を顎で使うとはなかなか、やってくれるじゃないか。
白米と魚を飲み込み、明日の予定を訊いた。
「明日は会議が朝からありますけど、リュウ様どうしますか?」
「朝はやる事もないし、会議について行こう」
議題の時は居られなかったが、少なくとも関係者なので議論の時は参加してもいいだろう。
それに里で嫌われている長老に会ってみたい。
「本来は大人しか入れないのですが、私が話をつけます」
「ありがとう」
喋るのはここまでにして、ご飯を食べた。
「「ごちそうさま」」
眠たくなってきた。
食器を片付けるのを手伝い、布団を出した。
「すまない。もう眠らせてもらう」
「どうぞ。おやすみなさい」
「おやすみ」
――――――
いつも通り、朝の日差しで目が覚める。
「おはよう」
「おはようございます。これをどうぞ」
昨日、調整を依頼した服がもう出来ていた。流石、仕事意識が高いだけはある。
「早いな。早速着替えるか」
「はい。着替えましょう!」
やけにテンション高いな。
別にみられても減る物では無い。普通の服を脱ぎ、そして黒い服を着る。
「ありがとうございます! 朝ごはん取ってきます」
ユミナが部屋を急いで出た。一体何なんだろう?
今日の朝はおにぎりと魚のいつものコンビだった。
そろそろ、肉が食べたい。
さっさと飯を食べ、二日目に行った大きな家に向かった。
――――――
家に着くと、かなりの人数が待機をしていた。
ざっと四十人位。
「大人は基本参加ですからね。今回は特別なのもありますが」
「実害がありますからね」
いつもはどんな会議をしているかは分からないが、今回は他人事ではない。
侵略される可能性もある。
「今回は数が多いので、外でやります!」
ユミナの元執事の爺やが声を張り上げている。
外でやるのか、元の世界である国がやっている直接民主主義の画像を思い出すな。
周りの人たちが座り始めたので俺たちも空気を読んで座った。
のんびり待っていると杖を突いた爺さんが現れた。
「今回の議題は一つ、魔族との関わりについて。勇者なんかに頼らずに考えてくれ」
ああ、この爺さんが長老なのだろう。
何故、分かったかって? 簡単だ。周りの声を聞くと「勇者様を呼び捨てにしやがって、何様だ」や「また始まった。さっさと決めようぜ」と言っている。
こんなに嫌われているということはこの人が噂の長老なのだろう。
「意見がある者は手を挙げよ」
一瞬シーンとした雰囲気になる。
何もせずに時間が立つのは効率的では無い。手を上げた。
「子供は帰って……」
「意見を言わせてもらいます。まず、魔族との関係は切っても大丈夫だ。理由は俺が脅しを掛けたから。証拠はこれだ」
簡潔に言い、【アイテムボックス】から、五番隊の制服を適当に取り出す。
男女気にせず、大体十五着程。
「これはこの里を襲おうとした魔族の制服だ。イラついたから、部隊ごと軍から消した。しかも—―」
長い議論なんて必要ない。
強さを隠す事もしない。明日には居なくなる運命だから。
「土の精霊よ我が魔力を代償とし作れ《作成土兵》」
土モグラ型を百体作り、地表で泳がせた。
詠唱はラマのパクリだ。
「このゴーレム達が里を守る」
一気に話したが、やはりと言うべきか、みんな驚きを隠せない様だ。
「急な話だが、理解して欲しい。もしかしたら、このゴーレムが不安か? それなら、もう一種、作ろう。スキル発動【龍纏】」
今度は無詠唱で魔法を使う。
右手で地面に触れて、自爆機能を抜いた龍を一体、作成する。
「これほどの戦力があれば、魔族にも勝てる。以上です」
言いたい事。やりたい事もできたのでスキルを解除し着座をした。
「異議がある者は手を挙げよ」
誰も手を挙げない。いや、挙げられない。
土モグラで縛っているからだ。
「これで、分かって頂けたと思います。このゴーレムの強さに。誰一人、動けない。すいません。すぐ開放します」
この後、誰一人反対する事も無く。会議が終わった。
――――――
他の人たちが安心した表情で帰って行くのを見送った。
「これで、会議が終わったな」
「そうですね。多分これが、一番早いと思いますよ」
実はかなり反省している。
あまりにも飛躍した方法を使ってしまった。
「お前達。ちょっとこっちに来てくれんかの?」
家に帰ろうと歩こうとした時に長老が俺たちを呼び止めた。
別に急ぎの用事がある訳では無いので、指示に従う。
「はい。何でしょう?」
「ユミナ。儂は子供の方に用があるんじゃ」
「僕ですね」
心の中で面倒事になりませんようにと願う。
「この子を少し、預かってもいいかの」
「大丈夫です」
「リュウがそう言うなら、私は帰ります」
大きな家の中に入り、扉の前に着いた。
「リュウと言ったかの。今から本会議になるが、さっきの事をここでもして欲しい」
「分かりました。その前に少し時間を下さい」
「分かった」
すぐに土モグラをここまで来るように命令した。
一分掛かること無く。やってきた。
土で出来ているが、床に落ちるほど柔らかくは無い。
「準備、完了しました」
「じゃあ、入れ」
扉を通り、部屋に入った。
――――――
今の感想。
戦闘以外で人に囲まれると緊張する。
椅子に座った奴らが俺を囲んでなんか、変なポーズを取っている。
一部を紹介すると両膝を机につけて口元で手を組んでいたり、腕と足を組んでいる奴が居る。
こんな奴が十人。
とりあえず、威圧がすごい。
魔王と対峙した時の十分の一はある。
さっさと、意見を言って帰ろう。
「どうも、人族のリュウというものです。よろしくお願いします」
意味があるかは分からないが、挨拶を一応しておく。
「今回の議題の魔族について、私は抵抗を提案しました。今から、私が置いて行くゴーレムの紹介をします」
全員を拘束するように命令をした。
「この、ゴーレムと。――戻れ。《作成土兵》」
蛇が俺の元に集まり、新たに龍の形を作った。
「この五倍の大きさ、強さを誇るゴーレムが外にいます」
あと、もう一押しだ。
「こいつ等には実績があります。この服は倒した隊の制服です。以上提案を終わります」
何も反応が無いが、どうなのだろうか?
早く帰りたい。
「あんたはこの里を何時出て行く」
やっと質問が来た。
「今日です」
「それではゴーレムは?」
「自立型なので外壁あたりに設置します」
「分かった」
もう、終わりだろうか? 意外にあっさりしているな。
「反論者無し。それではこの会議を終わる」
終わったっぽいので回れ右をして、帰ろうとすると。
「リュウよ。【龍纏】を見せてくれ」
まだ、帰れそうにないみたいだ。




