四六話 五番隊
ラマの拘束を解いた。
暴れた所で俺に傷一つ付けられるかすら怪しい。
開放しても大丈夫だ。
「本当に送ってくれるんだな」
「ああ、俺は約束は守る。少し寝る事になるが気にしないでくれ」
軽く《ショック》を使い、気絶させた。仲間以外には能力を知られたくない。
「さて、魔族の町に運ぶか」
――――――
整備された道をラマを担ぎながら歩いている。
この道は魔族の町に繋がっている。
町の目の前に転移すると流石に怪しまれる。だから、道にした。
まあ、ラマを起こす時間を稼ぐためでもあるが。
歩いている途中で面倒臭い事を思い出した。
「どうやって、町に入るか」
門番は絶対にいるだろう。まあ、居なかったら居なかったでそれは驚きだが。
――!?。面白く、効率的な方法を考えついた。
「これは、いいな」
独り言がつい出てしまう程いい作戦だ。
のんびり歩いていると町の城壁が見えて来た。
アーツ王国の王都より何倍も広い。
しかし、城壁の質はアーツ王国の方が上だ。
【魔力感知】を使っても、一切魔力を感じない。ただの石で出来ている城壁だ。
ラマを地面に置く。
城壁を目視したし、作戦を決行しよう。
「【龍纏】そして……」
白い鱗。右手を地面に触れる。
「《作成土兵》」
今回のゴーレムはダンジョンボスの龍だ。
だだの龍ではない。
自動回復と更に自爆機能が付いている。
強さも本物同等にした。
少々、やりすぎかもしれないが魔族は竜人の里をラマを使って攻めようとした。それも、俺の嫌いな冤罪を被せて。
何もして来ない限りは攻撃しないプログラムにしたので、一般人が怪我をして心が痛むことにはならないだろう。
一〇〇〇〇の魔力を作れたのが十体。まずまずの数だ。
「よし、行け!」
かっこよく、号令をしてみた。
ゴーレムたちは勢いよく魔族の町に向かって走った。
これで、門を守るどころでは無くなる。
「う、ここは」
「起きたか。ここは魔族の町だ。五番隊の奴らは何処にいるんだ」
丁度いい。ラマが目を覚ました。
「お前。その姿は……そんな事よりあの龍はどうしたんだ」
「ちょっとした仕返しだ。大丈夫。攻撃をされない限りは襲いはしない」
「そ、そうなのか」
思案顔をしているが、慌てるのもその辺にして欲しい。さっさと目的を達成して家に帰りたい。
「五番隊の場所は?」
「こっちだ。ついて来てくれ」
町に近づいたが随分、賑やかだ。
兵士達がゴーレムに攻撃をしても、武器が折れたりと全く効いていない。
火や水が雨の様に薄い弾幕で飛んでいるがまるで意味が無い。
反対にゴーレムが腕を一振りすると多くの兵士たちが空を舞う。
元の世界なら、死人が出たかもしれないが≪レベル≫のお陰でこの程度では死ぬ事は無いだろう。
門のあたりには誰もいない。計画通りだ。
「ラマ。先頭を頼む」
「分かった」
前を進ませて、俺は《透明化》をした。
これで、見つかる事は無いだろう。
速足で歩くロマの後ろをついて行った。
歩いている時に話す事は無く気まずい状況だったので、ロマの容姿を確認した。
魔族特有の角があり、髪は水色、顔はまあ、イケメンといってもいいだろう。
年齢は人族基準で三十歳位だな。
黒のかっこいい軍服を着用している。
五番隊の軍服があれなら何着か頂こう。国旗的な奴を外せば好みのデザインだ。
あれこれ考えているうちに、一つの建物前で止まった。
「ここが俺たちの本拠地だ」
ボロ小屋だな。まあ、隊長が捨てられるような部隊だから、環境が劣悪なのは当然か。
自分にかけている魔法、スキルを解除する。
魔力を使い過ぎた。しばらくは【魔呼吸】をして回復しなくては。
「入るぞ!」
ラマが家に入って行った。俺も後を追った。
「隊長。どうしたんだ。あとその子供は」
「至急、全員集めてくれ。すぐにだ!」
「分かりました」
ラマと同じような軍服を着た青年が奥の方に消えていった。
「すまない。あんな奴らが後、十人いるんだ」
「分かった」
一部隊にしては明らかに少ない。少数精鋭って訳ではなさそうだし、可哀そうな奴らなのだろう。
「連れてきました。隊長」
「よし、みんな並べ」
「「「はい」」」
中学校の集団行動を思い起こすような行動だな。
「今日をもって俺は魔王軍五番隊隊長を辞める。任務に失敗し、このままでは打ち首、最悪五番隊が罰を受ける」
「なら、何処に行くんですか?」
「アーツ王国に行く!」
「正気ですか? あの胡散臭い国に行くなんて」
ここでも、胡散臭いと言われているんだな。
転生者が作った制度のせいもあるな。平和な脳みそで考えた結果が今みたいな不信感に繋がっている。
「大丈夫だ。ここにいるよりは確実にいい」
「そうですね。でも、どうやって行くんですか?」
「それは後で話す。自分の意志でどうしたいか決めてくれ」
「私たちは隊長について行きます!」
他の奴らも「五番隊は不滅です!」や「アーツ王国で俺らの伝説を作ろうぜ!」と活気がある。
なんだろう。この光景を見ていると心が和む。
観察している限り、満場一致で決まったな。
「《ショック》」
それぞれ、違う強さの魔法を加え眠らせた。
『クウ。この人数を運ばせられるか?』
『行けますけど、数的に《転移門》。これがいいでしょう』
真っ黒い円形の何かが現れた。
『この中に放り込めば、転送完了です。場所は王国の道途中でいいですよね』
『ありがとう』
寝ている奴らを入れた後、俺も入った。
――――――
ラマだけが目を覚ました。威力を調節したので当然だ。
「ここは何処だ」
「この先をまっすぐ進めば、王都に着く。犯罪を起こさない様に頑張れよ」
「ここまでして貰って何もお礼ができていない」
「まだ、いい。いつか少しでも返してくれたら十分だ。元気でな」
すぐには転移せずに歩き、五番隊が見えなくなった時に転移した。
――――――
ボロ家に戻った。
戻ったのには理由がある。服を頂くためだ。
どうせ、この建物は壊すんだ。送った代金として貰ってもいいだろう。
適当に部屋を漁る。
クローゼット的なものもあったが、見知らぬ他人が着ていたものを着たくはない。
目的の部屋を見つけた。
黒い布が積まれている。服の保管庫だ。
男性服と女性服を見分けるのが面倒臭いのである分を全部【アイテムボックス】の中に入れる。
後は解体作業だ。
「一体こい!」
別に叫ぶ必要は無かったが、一番近いゴーレムに命令を飛ばした。
数秒後、家が大きく揺れた。どうやら、屋根の上にいるな。
「自爆」
親指を立て、一気に握った。
格好つけだがこれでゴーレムが自爆する様に設定している。
爆発に巻き込まれる必要は無いのでさっさと移動した。
――――――
—―龍の襲撃についての報告。
いつも通り、門で警備をしていると突如十体の龍が現れた。
その場にいた兵士を集め、抗戦を開始。
我々の攻撃は全く効かず、魔導すら効果が無かった。
反撃も食らったが死傷者は居ない。
約一時間の攻防をしていると一体が町の方に入った。
私を含めた一部の兵が追跡した。
五番隊の奴らの基地に止まっているのを確認。
攻撃をしようと近づくと明らかに様子が変だった。
戦っていた龍が全部、爆発し大量の水が出現した。
残りの九体が城壁の外で爆発したのは幸いだ。
五番隊のボロ家が跡形もなくなっていた。これもスラム街にあったお陰で被害が少なかった。
以上。龍による進撃の報告を終わります。
筆記者。二番隊副隊長ゲル・ラットリー。




