四五話 捨て駒
ダンジョン[龍の巣]を子供たちと探索している。
「これで、終わりだ」
トシが素手で一層目のリザードマンを倒した。
固い鱗を殴って倒す。俺が言うのもなんだが、本当に七歳児か?
ドロップ品を拾っていると新しいリザードマンが現れた。
次は俺の番だ。勿論、素手で戦う。
【龍纏】は使うまでも無いな。
魔力も使わずに純粋な力で殴ろう。
そういえば、今のレベルってどれぐらいだ? ステータスカードのレベルの部分を確認した。
≪レベル≫ 四三
前回見た時より、三レベル上がっている。
あのゴブリンの王を倒しただけでこんなに上がるとは。
レベルも確認したので改めて、リザードマンを見る。
力任せな攻撃なんて避けるのは簡単だ。
一発殴り、更に一発。何発も殴る。
何だろう。その……やりすぎた。
今までは《身体能力強化》や【龍纏】で体を強化してから殴って、生身はそこまで強くないと思っていた。
言い訳はここまでにして、何が起きたかというとモザイク必須の光景になった。
「流石、リュウだね」
トシが称賛をしてくれた。
もし、トシが【憤怒】みたいな、自動発動型のスキルを持っていたら、面倒臭い事になった。
――――――
順番で戦ったが、面白い戦い方をしていた。
青い鱗のケイとジカは水圧のブレスによって、リザードマンを壁に叩きつけて倒していた。
黄色の鱗のキクは土を弾丸のように飛ばして攻撃をしていた。
いろんな攻撃方法を使い、魔物を圧倒していた。
しかし、特に次の階層を探すことは無い。
トシに行かない事情を訊いた。
「安全第一だからね。次の階層はみんなが≪レベル≫二十になったら、次の階層に行くんだ」
自分の能力に見合った階層にいることは悪いことでは無い。
しかし、このダンジョンに関しては五層目まではどんどん進んだ方がいい。
言ってもいいが、説明が面倒臭い。
「今日はここまでにしよう」
こんな感じで何も問題が起こることなく、ダンジョン探索が終わり、帰路に就いた。
――――――
昨日、作った、ゴーレム蛇モグラに反応があった。
ゴーレムに設定した行動をするか、壊された時に使用者に伝わる仕組みにしている。
反応があった所に急いだ。
そこでは、魔族の男が一体のゴーレムと戦っていた。
「なんだよ。うざいなこのモンスター」
剣を振り回しているが、蛇型のゴーレムに当たっていない。
五百年前に限りなく近い生態、行動にしたので力任せでは簡単に壊せない。
男は今は一体のみを相手しているが、時間経過によって七千体が徐々に集まる様にしている。
丁度、二体目が現れた。
「竜人の里にこんな強いモンスターいたか?」
本来、この蛇モグラを倒すには《土操作》等の魔法によって地面から、引きずり出してから倒す。
魔導でも同じような事をすれば楽なのにな。
地面に潜っているゴーレムに嫌気が差している。動きが荒い。
「これでも、食らえ—―水の精霊よ。我が魔力を代償に万物を流せ! 《水流し》」
男を中心に水が出現し、流れた。
あれが魔導か、魔法なら初級レベルだな。
その程度の攻撃では俺の作ったゴーレムを破壊なんて到底出来ない。
「流石にここで本気を出す気は無かったが、仕方がないな」
二体のゴーレムで本気を出すとは情けないな。
村人ですら害獣を自分たちで倒していた。五百年前の話だが。
「水の精霊よ。我が魔力を代償にし、我が敵を潰せ……」
一分以上の詠唱を男が呟いた。面白そうなので命令をして、ゴーレムが攻撃を止めさせた。
「《激流》」
さっきよりはるかに多い量の水が流れた。人間なら流される程の威力だ。
長い詠唱を呟いていたが、その代償にしてはあまりにも弱い。
勿論、俺の作ったゴーレムはこの程度では壊れない。
「魔導が効かないモンスターか」
変な考察をしているが魔導も少しは効いている。
魔導無効なんて事は無い。
「剣を使って倒すか」
剣を抜いているがもう、飽きた。ゴーレムに直接命令し、百体ほどで襲わせた。
一体で手間取っていた奴が百体に勝てる訳が無く。
一瞬にして蛇モグラに拘束された。
「ははは、こんな数がいるなんてな。もうだめだな」
「さあ、情報を履いて貰おうか」
「変なのが来やがったな」
【魔力感知】を発動させた所、こいつ以外には魔族はいない。
ゆっくり、質問ができる。
「まあ、気にするな《土操作》」
地面に穴を作り、拘束された男を放り込み俺も入った。
蓋を掛ければ、見つかりにくいだろう。
――――――
地下の中、《光》によって俺と拘束された魔族が照らされている。
「まずは名前を教えて貰おうか」
「嫌だね」
「そうか、なら何のために来た?」
「……」
下手に拷問して、状況を悪化させるのは良くない。
せめて、友好なのかだけは聞かないとな。
「竜人の里を襲いに来たのか?」
「……」
駄目だな。別の手を打たないとな。
【アイテムボックス】からある物を取り出した。
「おにぎり。食うか?」
刑事ドラマを真似たがあまり期待はしていない。
「すまない。食わしてくれ」
意外に興味を示している。食べさしてもいいだろう。
寝っ転がっている男におにぎりを押し付ける。
男は器用に食べた。
「いい味だ」
「質問に答えてくれるか?」
「ああ、いいぜ」
かつ丼以外でも効果があるんだな。
「名前は?」
「ラマ。五番隊の隊長をしている」
「目的は?」
「俺の得意な水魔導で里を壊滅させることが目的だ」
素直に回答した。軍人として大丈夫か?
相手の心配をしても仕方が無いな。
五番隊。勇者の時に対峙したが、そこまで強くない奴らだった。
ゴーレムすら倒せない奴が、隊長。捨てられる可能性が高いな。
「襲う気はあるか?」
「もう、無理だろうな。お前に捕まっているし」
「あんたを逃がしたらどうする?」
「このまま、帰ったらお偉いさんに殺されるだろうな」
ラマはまだクズでは無い。無暗に殺されると俺の心が痛む。
「竜人の里を襲う計画はラマが襲う以外にあるか?」
「無いと思うな。襲撃でかなり怯えていたみたいだし、どうせ俺は国から捨てられるだろうよ」
面白くないな、単独犯にして責任を逃れるのは。
「まあ、襲う理由が魔王城にいたエリート共に重傷を負わされただけで、俺が恨みを持ってる訳では無いからな。亡命をしたいが魔族が亡命できる国なんて……」
「あるぞ。知ってる限り一つは」
「そうなのか!」
実力次第では魔族ですら受け入れる国。
「アーツ王国。そこなら、魔族も受け入れるはずだ」
「ああ。あの国か胡散臭いが行くしかないな」
王都を散歩している時に他種族に会わなかったが、やはり胡散臭い国だと思ったのか。
「じゃあ、俺が国の近くまで送ってやる」
「もう一ついいか」
「ああ、いいぞ」
「五番隊の奴らもアーツ王国に連れて行ってくれないか?」
理由によっては送ってやってもいいだろう。
「俺だけがこの任務から逃げると、五番隊が罰を受けてしまう。五番隊は全員、身寄りがない。お前さえ良ければ」
「分かった。全員送ってやる」
五番隊の奴が何か事件を起こそうとしても、私服兵によって拘束もしくは殺されるだろう。
何より、自分の事だけでは無く仲間の事も考えたラマに対しての敬意だ。
「すまない」
「気にするな。敵以外なら手を貸すさ」
さて、何人いるか分からないが全員アーツ王国に送ってやる。




