side 元勇者の弟 一
今回、視点が違います。
僕の名前はシュウ・ローゼン。
剣聖の息子だけど、あまり強くないんだ。
お父さんに負けるのは分かるけど、兄のリュウにも惨敗している。
こんな僕だけど剣は好きだ。
特に兄さんと戦うときは楽しい。いろんな、技や技法、力任せじゃない攻撃の数々。
見ているだけで楽しいのに、受けて学ぶことが出来る。最高の環境だ。
いつか、兄さんもお父さんも超えて、僕が剣聖になることが夢である。
――――――
兄さんがメイドの里帰りに社会勉強の為についていった。
模擬戦が出来ないけど、この間に強くなって少しでも、近づかないと。
毎日、素振りを一日最低、千回やったり、いつも、一日一回しかやっていない、お父さんとの模擬戦を一日三回にしてもらった。
強くなりたい。その気持ちが僕を厳しい修行へと駆り立てた。
勉強をする時も、本を読みながら腕立て伏せをしようとしたら、双子のシーに止められた。
「シュウにいは、剣だけじゃなくて、勉強もしないとリュウにいに何も勝てませんよ。勝ちたいなら、歴史がいいそうですよ」
「でも、強くないと」
「強いのも大切ですが、勉学を疎かにすると学校に入れませんよ」
「そうだな。少しはしないとな」
残念ながら、勉強中の筋トレは禁止されてしまったがこれも学校に行くためだ。
兄さんが言うには『脳筋だと五百年前みたいな剣聖になれない』らしい。
五百年前の剣聖といったら、ガイゼル・ローゼン様。最強の勇者と共に旅をした一人だ。
物語を読んで憧れた人物だ。
のうきん。の意味は分からないけど、とにかく頭が悪いといけない。
シーや専属メイドたちに勉強を教えて貰った。
――――――
お父さんとお母さんがお城に召集され、家から離れた。
お父さんが居なくても訓練は勿論続ける。
いつも通り素振りをしていると、緑色の子供が現れた。見た目からして明らかに人では無い。
「シュウにい。その生き物はモンスターです。名前は……」
「知ってる。ゴブリンだろ」
この森にはモンスターは滅多に現れない。現にこのゴブリンが初めてあうモンスターになる。
刃の無い模擬剣を使って、ゴブリンを殴った。
ゴブリンの頭に剣がめり込み、破裂した。
「うわ。汚い」
体に緑色の液体を被った。べとべとしていて、気持ち悪い。
水を浴びようと周りを見渡すと緑色の奴が木の裏に隠れていた。
一体だけでは無い。十体以上はいる。
「シー隠れてろ。あとメイドも避難させた方がいい」
「分かりました」
シーが走って、屋敷に行った。
「なんて、数いるんだ」
十体位だろうと思っていたが、そんな希望は一瞬にして、打ち砕かれた。
百いや、千体はいる。
一体一体は大した事が無いのに、数がすごい。
「誰か! 助けてくれ!」
一応、救助を頼んだが誰も来ない。そもそも、期待もしていない。
とにかく、ゴブリンを切りまくった。
見つけては切るを繰り返していると、緑色の奴らは全員倒せた。
しかし、変な奴が出てきた。
「はあ、はあ。あとはこいつ……だけ。でも、なんなんだ」
ゴブリン三体分の背があり、筋肉がおかしいほどついてる青色の怪物。
物語にいるオーガっていう化け物に近い。
「ワレノホウガ、ウエダ」
!?。喋った! でも、こいつはモンスターで俺達を襲おうとしている。
少なくとも友好的では無い。
「クッシレバオマエノ、イノチダケハトラナイ」
「ふざけるなよ! 俺は兄を超えて次の剣聖になる男だ」
「ナラシネ」
僕だけ助かっても意味が無い。
この、モンスターは強かった。
持っているこん棒の振りが早すぎて、目視できない。
直撃は食らって無いけど、何回か掠った。
大量のゴブリンを倒すのに体力を使いすぎた。
体はもう限界なのに勝手に動く。
なんだろうこの高ぶる気持ちは
――楽しい。
「俺は絶対に負けない!」
お父さんも兄も倒して、僕が剣聖になるんだ。
そのためには、今の限界を超えないとこいつに勝てない。
「限界を超える……【限界とっぱ……」
「ナンダコノチカラハ」
体に力が漲るのを感じながら、地面に倒れてしまった。
「ミセ――ガ。コロシ――ル」
殺されてしまうことを覚悟しながら、最後の攻撃を待った。
なかなか、攻撃がこないな。
動かない体に鞭を打って、首を動かした。
そこには、化け物と化け物が対峙していた。
悪魔は人型で背中から翼が生えている。お伽話に出てくる通りの姿だ。
「《――矢」
天からの光が降りてきた。今度こそ死んだなと思うと光は化け物に降り注がれた。
仲間割れか?
光を食らってもまだ、モンスターは生きている。
悪魔は更に黒い球を放った。腕を見たが、真っ黒い鱗が付いてた。
黒い球は当たるとモンスターを包み込んだ。
更に悪魔は五発モンスターに黒い球を投げ、消滅させた。
「あとは」
化け物が僕の方を向いた。次は僕を殺すのだろうか?
足掻いても無駄かもしれないが、みんなを守るんだ。
動かない体を無理やり動かす。
「化け物になんて、絶対に負けない負け……な……い」
気合では足りなかったみたいだ。
見の前が真っ暗になり、倒れてしまった。
――――――
「シュ……に……シュウにい! 起きて下さい」
身が覚めた。生きているということはあの悪魔はいなくなったのだろうか?
「化け物は何処にいった?」
「化け物? なんの話ですか?」
良かった。シーが出会う前に帰ったみたいだ。
あんな奴に見つかったら、殺されていたかもしれない。
「良かった」
「それより、リュウにい知りませんか?」
「兄さんがいたの?」
兄さんなら、悪魔も倒せる。僕の兄はそこまで強い。
「さっきまで、窓から観戦してたんですけど急に消えました」
「あの人の事だから、何か考えがあったんだろうな」
「そうでしょうね」
兄さんの事を考えても無駄だ。何を考えているか分からない。
寝たはずなのにまだ体が痛い。いつもの訓練とはまた違った痛みだ。
「すまない。少し静かにしてくれ」
「分かりました。ここに本を置いておきますのでしっかり休んでください」
シーが計算本を置いて部屋から出て行った。
この状態でも勉強をしろ。なんて鬼畜なんだ。
一人でモンスターの大群を相手にしきれなかった。こんなんで、剣聖になれるのか?
とりあえず、あの悪魔を倒すのが当面の目標だ。
決意を抱きながら、目を瞑った。




