四四話 弟
窓から、シュウがゴブリン達を倒していく様子を観察した。
刃が付いていない、模擬剣でモンスター共を叩き切っている。
あんなザコに手間取る様では剣聖を継ぐことはできない。
観察していて、思ったがシュウの奴ペース配分を考えてないな。
一体一体を全力で叩いている。
あと、ただのゴブリンを七百体を相手にしたら、限界だろう。
王まで持たない。
今すぐ助けに行ってもいいが、弟には強くあってほしい。
すぐに手を出さずに傍観する。
――――――
数時間が経過した。シュウが肩で息をしているが、残りは王一体だ。
「はあ、はあ。あとはこいつ……だけ。でも、なんなんだ」
シュウが驚くのも分かる。今までのゴブリンが、緑色で子供位の体系だったが。
こいつは全身青色で身長はざっと二メートルはある。
しかも、バットみたいなこん棒まで持っている。
「ワレノホウガ、ウエダ」
喋るモンスターは久しぶりに見た。
ある程度、知能を持っているモンスターは喋ることが出来る。
たまに友好的な奴もいるが、こいつは違うな。
「クッシレバオマエノ、イノチダケハトラナイ」
「ふざけるなよ! 俺は兄を超えて次の剣聖になる男だ」
「ナラシネ」
いい意気込みだ。
限界を迎える、いや、超えるまでは手を出さない方向性でいこう。
――――――
どちらも有効打を打ててないないがシュウが圧倒的に劣勢だ。
体格差や残り体力の差のせいで、シュウの動きは遅く、既に何回か攻撃をくらっている。
だが、俺はまだ手を出さない。
「俺は絶対に負けない!」
いいぞ。この状態なら、スキル【限界突破】を習得できる。
【限界突破】――限界を超える。使用時、全ステータス上昇。使用後には激痛が体を襲う。
俺も勇者時代によく使ったスキルだ。
「限界を超える……【限界とっぱ……」
「ナンダコノチカラハ」
シュウが倒れた。
よくやった。一瞬だが、スキルが発動していた。
「ミセカケガ。コロシテヤル」
残念だったな。ここからは俺が相手してやる。
「スキル【龍纏】」
スキルを発動させ、窓から飛び降りた。
「……」
「あれ、何も喋らないのか? クソ野郎!」
何も喋らくなった。力の上下が分かっているのだろうか?
どうでもいい。
「オレノホウガツヨイ」
「馬鹿かてめーは」
弟を傷つけたんだ。こいつはクズだ。
「《聖光矢》」
左手から、魔法を放った。
「ハ――ハッタリカ」
「三、二、一。死ね」
上空から、光の柱が現れゴブリンを包んだ。
跡形もなく消したと思ったが、煙を体から出していた。まだ、生きてやがる。
「ワレガサイキョウ。マンブツノチョウテンニ」
「傲慢だな。愚かな最後だ《闇玉》」
生き物を崩壊させる闇がゴブリンを満たした。
一発では消滅しそうにないので、更に五発出した。
「あとは」
「化け物になんて、絶対に負けない負け……な……い」
シュウが一瞬目覚めて、また気絶した。
ゴブリン負けたのにまだ、諦めない根性を大切にして欲しい。
状況を説明するのは時間が掛かって、面倒臭い。
ダンジョンに行く約束もあるので、さっさと竜人の里に戻った方がいい。
クウに頼み、家に戻った。
――――――
屋敷であった出来事をユミナに報告した。
「ゴブリンの大群ですか? 誰かが嗾かけたのでしょうかね」
「可能性があるな」
剣聖が居ないときに現れるなんて、都合が良すぎる。
「考えても分からないな。とにかく、俺が屋敷にいたほうが安全だな」
「ということは」
「すまないが、この里とはお別れだ」
残念だが、俺はモンスターを操った奴がまた、何かをしたら俺の中の何かが壊れそうだ。
この里は楽しかったが、今は家の方が大切だ。
「明日、会議があるので明日の夜に帰るでよろしいですか?」
「そうしよう。今からダンジョンに行くから、あと頼んだ」
「分かりました」
そろそろ、子供たちが集まっている時間だ。
――――――
ダンジョンの前の滝に着いた。
「リュウ。遅いじゃないか」
「みんな。待ってたんだよー」
「まあ、いいんだけどな」
「ドクが心配してたよ」
「え、ジカ。それは言わないで」
既に子供たちは待機していた。
ダンジョンが楽しみな気持ちは俺も分かる。
「みんな来たから、行こうか」
子供たちと探索をするのは今日で最後だ。
滝に打たれながら、ダンジョンに向かった。
万が一にも誰も殺させやしない。




