四三話 塩送り
魔王城で暴れた後、家に転移した。
「すいません。寝てもいいですか?」
昼にあんなに寝たのにまだ寝るのか?
いや、【龍化】という新しい力を使ったんだ。想像以上の体力を消費したのだろう。
「今日はありがとう」
ユミナが敷いてあった布団に倒れ込み、吐息を立てて寝た。
まあ、仕方がない。
「俺はやることをやるか」
まだ、俺にはやることは残っている。
『門の前まで頼む』
『え、今からですか?』
『ああ、頼む』
『分かりました《短距離転移》』
――――――
夜の竜人の里の門の前に着いた。暗すぎて、何も見えない。
十秒間、目を瞑った。先生から教えて頂いた目を慣らす方法だ。
目を開けると門が薄っすら見える位に目が慣れた。
今から、罠を張る。
魔族に脅しをかけたが、絶対に来ない訳ではない。
兵士を何人か送り込む可能性もある。警戒した方がいいだろう。
罠といっても、殺傷性のあるもの駄目だ。
殺したことがきっかけで、本格的な戦争になったら面倒臭い。それに兵士であっても、クズじゃない限りは殺したくないしな。
結局、魔法を使う。本当に便利だ。
「《作成土兵》」
この魔法は土から、指定した命令を実行する兵を作る魔法だ。
兵といっても、人型である必要は無い。イメージさえあれば、どんな形にでも変えれる。
今回イメージしたのは蛇だ。
ただの蛇では無い。勇者の時に戦ったモンスター。蛇モグラのゴーレムだ。
こいつは名前の通り、地中を泳ぐように進む。大きさは大人に巻き付いてもまだ余裕がある位。
それ以外にも特徴があるが、今、説明することでは無い。
ゴーレムを七千体作り、地面に放った。
まだ、作ろうと思えば作れが命令を複雑にしたせいで、魔力をそこそこ使った。
クウに家に転移してもらい、すぐに寝た。俺も意外に疲れていた。
――――――
朝の日差しで目が覚める。
自作の罠を仕掛けた安心感があるお陰でしっかり眠れたな。
今日の予定を頭の中で確認しながら、行動を開始した。
朝は何も無い。昼からは子供たちと[龍の巣]を探索する。シンプルな予定だ。
ごはんは今日もおにぎりだ。この里は、おにぎりが相当好きなんだな。
今更だが、おにぎりには当然の如く、塩が振ってある。ドクの家は特に多かった。
公爵家である、ローゼン家でもスープに塩があまり入っていない。
つまり、塩は人族の間では高級品の塩が、この竜人の里では普通に手に入るのだろうか?
「この里塩って高いのか?」
「いいえ。無料ですよ」
無料か。どんな仕組みだろうか。
「人間界では海が近くに無く、技術も無いので高いですが、この里は違います。五百年前にお父さんが技術を持って帰って広めたんですよ」
「そ、そうなのか」
「海水を汲んで直接、炎で水分を蒸発させる。いい方法ですよね」
まさか、ジョンの奴、旅の途中に遊びで海水を沸騰させる効率悪いのを伝えたのか。
「火の鱗を持つ竜人が訓練がてらやっているので、相当な量がこの里にはあるんですよ」
「だから、こんなにあるのか」
「里の倉庫にある分をいくらでも取っていいことになっています」
「盗まれてもばれそうにないな」
そんなにあるなら、少し位持ち出してもばれないだろう。
よし、俺が魔族から、この里を守る対価に塩を頂こう。
おにぎりを食べながら、塩がある倉庫の場所を訊いた。
――――――
朝の内に他の建物と同じ位の大きさの倉庫に一人で出向き、適当においてあった塩を袋に詰めて、【アイテムボックス】の中に入れた。
十袋入れた所で、止めておいた。
まだまだ、塩は盛ってあるが袋に詰めるのが面倒臭くなった。
『屋敷に送るか。クウ頼む』
『分かりました。リュウの部屋に《長距離転移》』
――――――
久しぶりに自分の部屋に戻った。
いつも通り、高級ベッドや、やけに白い机。白いクローゼット。
たった、一週間しか経っていないのに異様に懐かしく感じる。
ベッドの下に塩を隠した。
まるで、親に見せられないある物を隠している思春期の男みたいだ。
のんびり隠していると声が聞こえてきた。
「誰かー! 助けてくれ!」
この声は、弟のシュウの声だ。
頭で考えを整理する前に声のした方に俺の体は、走り始めていた。
とっさに【魔力感知】を発動させた。
庭の方に反応があった。
しかし、何なんだ。この数は、ざっと千個はあるぞ。
この魔力の質はモンスターだ。
一種族のみの構成で一体が統制している。キングがいるな。
分析をしていると外の景色が見える場所についた。
なんだ。雑魚の塊か。
森と道にぎっしりと緑色のゴブリンがいた。
「あれ、リュウにい。なぜ、ここに? いや、そんな事より助けて下さい」
「状況説明を頼む」
妹のシーが慌てながら状況を説明してくれた。
「急に……攻めてきて、今みんなで隠れているんです。お父様もお母様も今日はいなくて」
親がいないのか。まあ、剣聖がいればこんな奴ら、事件にすらならないだろう。
「今はシュウが応戦してます」
窓から戦況を覗いた。




