四二話 奇襲と脅し
今日はダンジョンを攻略し、新たな力を手にした。後は昼ご飯を恵んで貰った以外は、いつもと同じで友達と遊んだ。
しかし、まだ、一日は終わっていない。
「今日やるんですか?」
「ああ、あくまで脅すのが目的で戦う訳でもないしな」
まだ、日が沈み切っていない時間帯にある作戦を決行を提案した。
本当は今日やらなくても良かったが、不安分子を早めに取り除いて、残りの滞在期間を楽しく過ごしたい。
「分かりました。では、行きましょう」
「すまない。疲れている中」
ユミナには悪いが、今回は俺の事情を優先させてもらう。
「その前に、今日残った、おにぎりがあるんですけど、食べます?」
「そうだな。少し、食べてから、移動しよう」
今、思い出したが、朝食べた魚が入っていたおにぎりが残っていた。あれ、俺、ドクの家に行く必要が無かった気がする。
今更、気にしても遅いな。
俺にとって丁度いい位の塩加減のおにぎりを食べながら、やることを確認した。
外に出ると、寒くも暖かくも無い、風が吹いて来た。そういえば、元の世界で言うと今は秋だな。
「じゃあ、変わります。スキル発動【龍化】」
体が【竜化】の時よりも強く光リ、ユミナが、龍の形を作った。
大きさは変わっていないが、透明度がかなり上がっている。よく目を凝らさないと見えないレベルだ。
『どうで、しょうか?』
『透明度が上がっているぞ。今から、乗るからなー』
近所迷惑になってはいけないので【念話】で会話をする。
ジャンプで、大体背中あたりに飛び乗った。
『行きます』
『帰りはクウに任せれば大丈夫だから、ゆっくりでいいぞ』
翼は見えないが、風の音で、羽ばたいているのが分かる。もし、第三者が俺たちを見ていたら、きっと、俺一人が浮いているように見えるのだろうか?
上昇を体で感じながら、【アイテムボックス】にしまっておいた、おにぎりを一口で食べる。
『目的地はちゃんと覚えているか?』
『はい、勿論です』
『じゃあ、行くか』
『『魔王城へ』』
――――――
目的地に着くまでに、魔族の住んでいる街を通ったが、特に警戒されるような事も無く、観察した。魔族と人間の暮らしは特に違いは無い。
夜なのに、外で普通に笑ったり買い物をしたり、路地裏で男たちがカツアゲみたいな事もやっており。
あの魔王が求めていた平和ってこんな感じだったのだろうか? 本人に訊かないと分からないし、今は気にすることでは無い。
後。な、何故か、カツアゲをしていた奴らが、気絶をしていた。犯人は俺だがな。
町を通り過ぎ、魔王城を見てみたが、城自体は、五百年前から全く不自然といっていいほど変わっていなかった。
『よし、作戦の決行だ』
『分かりました』
城の上空百メートル位から、飛び降りた。紐? 何それオイシイノ?
「スキル発動【龍纏】」
体が変化するのを感じた。そして、腕を見て、左右の腕に白と黒の鱗が付いているのを確認した。
この状態なら、百メートルの落下を耐えるのは余裕だろう。
地面に着地する瞬間に、体に一瞬、力を込めた。すると、何故かは知らないが、空中で一回跳んで、地面に着地した。
俺が降り立ったのは城の目の前だ。十秒を頭で数えたら、扉から、兵士たちが出て来た。
警備システムも五百年前と変わっていないな。
「貴様! 何者だ!」
質問に答える前に【アイテムボックス】から、ある石を取り出し、魔力を石に入れた。
『俺たちは龍人だ。要件があって来た! そちらも分かっていると思うが、里に来た魔族を呼んでくれ』
この石は、〈念話拡声器〉ドクとダンジョンに潜った時に手に入れた魔道具だ。
効果は込めた魔力の分だけ、広範囲に【念話】を飛ばすことが出来るというものだ。
声では無く【念話】という所がいい。相手は俺がどこの範囲まで、飛ばしているか分からないからな。
兵士がざわめき出した。盗み聞きしてみると「あのガキは敵なのか?」や「竜人って、あのお方が担当をしていたよな」等、悩んでいる。
まだ、話が通じそうな奴が多くて良かった。
「ああー。何だ。こんな時間によ。もしかして、クリスタルドラゴンの子孫を渡す気になったのかぁ?」
一人の魔族がやって来た。何だこいつは、魔族の特徴である角が頭に生えていない。今は気にしてはいけない。作戦を遂行するのだ。
『竜人の里は魔族との一切の交渉をするつもりは今の所、無い。ちなみに、里に手を出す気なら、こうなる』
俺が発言を終えた瞬間。城の頂上あたりの塔が、大きな音を立てて落ちた。
『今は城だったが、次は何処になるだろうか? 言わなくても分かるよな』
「ガキ一人の癖に小賢しい」
『ガキ一人? いや違うぜ。俺たちって言っただろ。君たちの目には透明な上位の龍が見えないか? こっちは本気を出せば、簡単に潰せんだよ』
だんだん、悪党みたいな言葉遣いになっているが、これでいい。
「けっ! どうせ、ハッタリだ。あのガキを人質にすれば、あの少数種族なら、あっさり、落ちんだろ。兵士ども、やれ!」
『残念だ。本当は戦いたくなかったが、龍の逆鱗に触れたんだ。徹底的にやってやるよ』
ざっと兵士の数は百人ほど、槍やら剣やら杖やら他にもいろんな武器を持った奴がいる。
ここは、もう戦場だ。どんな手を使ってでも、勝てばいい。
俺は黒い鱗がある左手を敵の方向へ突き出した。
『《火球》《水球》《土球》《風球》』
四つのバレーボール程の大きさの球が俺の周りに現れた。
どの球も、普通は初級の魔法。しかし、何かが違う。
「何をするかと思ったら、小さいブレスじゃないか。全く拍子抜けすることをやってくれやがる」
『……行け』
兵士たちの方へ球を飛ばした。向きを調整し、前に立っている男には当たらない様にした。
「なんだ。あの速さは」
火が落ちた所は、大きな爆発を起こし、水は弾け、水の針がまき散らされ、風は刃となり、兵士の体を切り刻み、土は一瞬で、大きくなり、兵士を飲み込んだ。
痛みで、悶える声が聞こえてくる。別に面白くない。
殺すまでには至らなかったが、確実に重傷を与えた。
『城の兵士が、これでは、次の魔王様も心配なさるでしょうね』
「クソ。絶対にお返しをして」
『そうそう。これは、本気じゃないんだよね。もし、これより、大きい攻撃を町に仕掛けたら、魔族は何人死ぬかな? そんな時に人族とかが、攻めたら、面倒臭くなるでしょうね』
役になりきるのはなかなか難しい。
『竜人の里に今後一切、関わらない。これさえ、守ってくれれば、俺は魔族に手を出す気は無い。ここで、即決というのも、難しいと思うけど、あんた一人で、竜人の里に来てくれれば、まだ、話す余地がある』
「調子に乗りやがって」
伝えたいことも伝えたので、もう帰ろう。
『俺たちはもう、帰らせて貰う。約束を破ったら、分かっているだろうな』
最後に見せつけ程度に左腕を空に向けて、《火球》を五十発放った。
夜の黒い空に真っ赤な花火と大きな爆発音が響いた。
――――――
帰りはユミナの背中に乗って、ある程度離れた所で転移をした。
作戦は成功だろう。




