四十話 狩り
[龍の巣]十層。ダンジョンボスの居るドアの目の前に俺は立っていた。
一度は倒したボスを倒すのには理由がある。試練を乗り越えるためだ。
ユミナが攻略した時に俺もダンジョンコアに触れても良かったが、ダンジョンを作った誰かに負ける気がした。あくまで、勘だが。
「よし、戦うか」
扉を開けてダンジョンボスである龍の居る部屋に入った。
――――――
さっきぶりの龍だが、今回は一人で来てるので、気が楽だ。いくら魔法を暴発させても、ここならある程度は耐えてくれるだろう。
今まで俺は魔法を失敗して暴発させた事は無い。何故なら被害が大きいし、失敗を笑われるのは精神的に辛い。
例えば、毛虫を無きものにするために使った《死を与える聖なる矢》を暴発させると、全く関係ない所に分裂をしながら、飛んで行く。
単体を倒すために使う魔法が、周りを巻き込む。しかも、生物ならほぼ確実に殺す魔法だ。
とにかく、暴発させると面倒臭くなる。
「グガー!」
試す魔法を悩んでいたら、龍が咆哮を上げた。咆哮と言っても、耳は痛くならないし、威圧を感じない。
「とりあえず、飛ばれると戦いずらいから、落ちろ《加重力》」
この戦いは試練と思っているが、殺し合いで相手の優位に立たせる気は無い。
魔法を使い、龍に掛かっている重力を追加し、地面に落とした。
「次、行くか《火龍の息吹》」
威力を弱めずに放った。
灼熱の炎が迫った龍は急に増えた重力に対応できず、直撃した。
「やったか?」
はい。完全な一人芝居です。どうせ、一撃では殺せないだろう。
俺の予想で通りに龍は所々焦げならなも、生きていた。
龍の行動によって、分かった事がある。こいつ、相当弱い。
確かにここに来るまでにいた。ドラゴン系の魔物と比べるまでも無く強い。流石、龍と言ってもいいだろう。しかし、龍にしては弱い。
龍人だった元仲間のジョンなら、魔法に耐えるだけでは無く、すぐに反撃をするはずだ。なのにこの龍は耐える事だけで精一杯だったみたいだ。
元の世界で例えるなら、全国屈指の進学校に入学しても、下の方の人の様だ。
この龍は通過点に過ぎないという訳だな。
「これで最後だ」
《身体能力強化》を使い龍の体に触れ、魔力を流した。
魔力を過剰に与えることによって、龍の体が破裂し始めた。
戦う前は本気で魔法を使えると思っていたが、そうでもなかった。
地面に溶ける龍を見届け、階段を降りた。
また、ダンジョンコアのある部屋にやって来た。今回は豆電球の様に光るダンジョンコアを触った。
頭に無機質な声のアナウンスが流れて来た。
『[龍の巣]攻略。種族が人族のため、スキル【龍化】を習得不可。……スキル【全スキル習得可能】を確認しました。スキル【龍化】を習得させます』
体が温かくなった。これでスキルを習得出来たのだろうか?
ステータスカードを見るためにダンジョンコアから、手を放そうとした時。新たにアナウンスが流れた
『ダンジョンボスを人族がソロで討伐を確認。スキル【龍化】の習得を中止。スキル【龍纏】を習得させます』
また、体が温かく……いや、熱くなってきた。火に焼かれるのとはまた違った感覚。体の中心を焼かれている感じだ。
勿論、楽なものでは無い。しかし、まだ耐えることが出来る。
ダンジョンコアから手を放さずに待っているとアナウンスが流れた。
『スキル【龍纏】を取得しました』
ステータスカードを見るとちゃんとスキルがあった。初めて見るスキルなので、【鑑定】一を使った。
【龍纏】――人の状態で龍の力を使うことが出来る。発動中はどの種族であっても、竜人の様に鱗が出てくる。
今、鑑定したお陰で【鑑定】二になった。今はそんな事よりも、入手したスキルだ。
説明を見る限りでは、【龍化】は見た目も龍になるが、【龍纏】は人のままで龍の力を出せるらしい。
効果も分かったので、早速使ってみよう。ここなら、気絶しても安全だろう。
スキルの発動を意識した。
龍になる。龍になる。
結果、何も起きなかった。それもそうだ。本来、スキルは自分の力で手に入れるもの。
今回、俺はダンジョンコアから、スキルを貰った。すなわち、自分の力では無い。
普通なら剣を振っていても、魔法を使えるようにはならないが、このダンジョンという存在は可能にしている。
結論を言うと、スキル名を言わないといけない。
「スキル発動【龍纏】」
《身体強化》を使った時とは違う感覚だ。体そのものを変えられている気分だ。圧倒的な力が体を巡った。
「本当に鱗が生えているな」
腕を見ると所々に鱗が付いていた。右腕には白い鱗。左腕は黒い鱗だった。
白と黒は何の属性かは分からないが、試す価値はあるだろう。
『ダンジョンボスの前まで頼む』
『分かりました』
今度は試練も何も関係無い。ただの実験だ。
――――――
午前中に三回目の出会いになるが、翼の生えた、龍が飛んでいた。
さっきは魔法ばかりを使っていたが、今回は素手で相手をしてやる。この力があれば、あの程度の魔物は余裕な気がする。
飛んでいる龍にジャンプで近づこうとしたが、魔物も甘くは無く、更に上に上昇した。
「もう、一歩!」
無駄だと分かっていながらも、空気を足で踏んだ。
足には何の手応えが無かったが、何故か……上昇した。しかも、少しでは無く龍の上昇速度よりも早い。
龍よりも高い地点に着いた所で、上昇が止まった。
左腕を振りかぶり、龍の頭を本気で殴った。
俺のイメージでは龍が地面に叩きつける位の威力だと思っていた。しかし、その予想は完全に外れた。
なんと。腕が、龍の頭を貫通した。
「これが、スキル【龍纏】の力か。はぁ。とんでもない力を手に入れてしまった」
落ちていく中、考えた。「これはチートに入るのか」と。地面に着地するまでに結論が出た。
このスキルはチートでは無い。俺がダンジョンを攻略するという努力をして入手したスキルだ。
勇者の時みたいな努力をせずに与えられた奴では無いので、セーフだ。
かなり高い所から、落ちたが、大してダメージを受けていない。本当に手にしてもいいスキルを手に入れたのだろうか?
新しくスキルも手に入ったので、久しぶりにステータスを確認した
≪名前≫ リュウ・ローゼン
≪種族≫ 人族?
≪レベル≫ 四〇
≪体力≫ 七〇〇〇
≪魔力≫ 三〇〇〇〇
≪スキル≫
【魔力感知】十 【魔呼吸】八 【鑑定】二 【剣術】八 【体術】九 【毒耐性】五 【龍纏ドラゴンオーラ)】 【アイテムボックス】 【全スキル習得可能】 【全魔法習得可能】
一週間前は十九だったレベルが、四〇になり、スキルは軒並みスキルレベルが上がっていた。
誰だよ。この馬鹿げたステータスは……俺の物か。
最終的には種族を疑われた。でも、確かに人族でありながら、龍の力を使うって、人族では無いな。
昔、読んだライトノベルの様に強さが人間を止めた時につく、?では無いだろう。そうであって欲しい。
考えても分かる気がしないので、ユミナが寝ている家へと転移した。




