三八話 師匠
ジャイロという爺さんを道場で倒し、去ろうとしたら、ドクに話掛けられた。
「リュウは何処まで多彩なの?」
いや、訂正しよう。質問攻めされている。
「戦闘位しか、出来ないよ」
「なんで、道場を神聖視しているの? 戦場って何?」
そろそろ、答えるのが面倒臭くなって来た。所々、誤魔化しを入れているので、回答を考えなくてはいけないせいだ。
「勇者に憧れているからね。あと、戦場についてはユミナお姉ちゃんから、教えて貰ったんだ」
なんの嘘もついていない。こんな道場の技術を伝えた勇者に憧れているし、戦争については、屋敷にいた時にユミナに教えて貰った。
一切の嘘が無い。ただ、一部しか、回答していないだけだ。
「そろそろ、質問はいいかな。声が大きくて、周りの人たちがびっくりしているよ」
壁に寄り掛かっていた爺さん達がざわつき始めている。会話の内容は分からないが、きっと、ドクが女の子らしい高い声に反応しているのだろう。
「あの人たちは私じゃなくて、リュウがジャイロさんに勝ったことを驚いているんだよ」
わざと、聞こえない様にしていたが、耳を傾けてみると。
「おい。あのジャイロが負けたぞ」
「不意打ちまでして、惨敗するなんて」
「まだ、子供なのにすごいな」
こんな、会話をしている。救いとしては、誰も敵討ちをしようとしていない所だ。道場に来て、恨まれることにはなりたくない。
「ジャイロって、どの位強いの?」
「道場にいつもいるメンバーでは一番って聞いた事があるよ」
やばい。やってしまった。不意打ちを仕掛けてくるから下っ端の方かと思って、普通に倒して、しまった。そんな事をすれば、当然、他の爺さん達は。
「あの坊主と試合をしたら、儂は五秒で、負けるじゃろうな」
「ああ、俺でも一分が限界だ」
「挑むのはやめとこう」
これ以上は試合は出来ないだろう。ちょっと不完全燃焼だが、俺の判断ミスだし、諦めるしか無いな。
「これ以上は試合は出来ないかもな」
「なら、良かった。私に教えてよ、師匠!」
ドクが俺の手を掴んで、頼んで来た。師匠か……いい響きだ。
どうせ、試合をする相手がいないんだ。
教える事で、俺も忘れかけの技を復習出来るし、ドクが【憤怒】の能力を周りに被害を出さない様に扱えるようにしてやりたい。
俺にとってもドクにとっても、師弟関係を築くことは悪くない。
「分かった。僕の知っている技術は全部教えよう。厳しい訓練になるけど、ついて来れるかな」
「頑張るよ。どんな事でもやる」
人に技を教えるなんて、滅多にない。しかし、根拠はないが、何とかなる気がする。
「まずはストレッチをして、体を柔らかくしよう」
怪我をしないためにも、柔軟は動く前になるべくした方がいい。
覚えているストレッチをドクにもやらした。
「次はランニングだな」
「え、技は?」
決して、出し惜しみをしている訳では無い。強くなるためには基礎体力が一番と言ってもいい位に大切だ。小手先の技は後でもいい。
ドクと道場から出てた。
走ると言ってみたが、グラウンドやトラックが無いので、何処を走ろうか悩んだ。
クウに転移して欲しい所を伝え、ドクの手を握った。
――――――
魔力をかなり消費した感覚がする。確か、移動距離に応じて、必要魔力が増えるんだっけ。大体、二千位魔力を使った。
到着した所は、木で出来た家と神秘的な池のある、森の中。しかし、竜人の里にある森ではない。
「え、ここは何処なの?」
「賢者の住む森だ」
ここは、実家の屋敷裏にある森、そして、この家には五百年前に一緒に戦った、賢者レイが住んでいる家だ。森の名前は知らない。
ちなみに口調は師匠ということなので、いつも通りに戻している。
「け、賢者様!? なんで、そんなすごい所に転移をしたの?」
「まあ、今は秘密だ。まずは挨拶をしないとな」
家に近づいて、ノックをした。すると、すぐにドアが開いて、少女が抱きついて来た。この様子だと、出待ちをしていたのだろう。
「リュウー! なんで来なかったのじゃ! くんくん」
なんか、怒っている気もするが、その期に乗じて、俺を嗅ぐのはやめて欲しい。
美少女に嗅がれても不快な気持ちにはならない。しかし、小学生にも満たない位の見た目の少女だと、精神年齢が罪悪感が訴えてくる。
「それにしても、今更、どうしたのじゃ? 要件がある様な顔に見えるのじゃ」
レイ相手だとある程度の説明が省けるので楽だ。
「この子の特訓の為にこの森にグラウンドを作りたいんだ」
「勿論いいのじゃ。儂が近くを軽く更地にしておくのじゃ。リュウはその子に儂がリュウの何か教えてやった方がいいのじゃ」
流石は俺を知り尽くしている賢者だ。もし、ドクについての説明を求められていたら、面倒臭かった。
しかし、何故俺の方に手を回して、小指を上げているんだ。まあ、今はいいか。
「整地は俺も手伝うよ」
「ありがたいのじゃ。一人では厳しいからのう」
「よし、じゃあ、行くか」
「ついてくるのじゃ」
レイに連れられ、森を歩いた。ドクが全然話の内容が理解出来ていなかったように見えたが、事後説明でいいだろう。
「よし、この辺なのじゃ。どうやって、整地しようかの」
「木を燃やして、平地にしよう」
俺が提案した事を実行するために、レイは《結界》を広範囲に張った。
後は、俺が、焼くだけにしてくれた。
レイが張った範囲は大体、冒険者組合位。すなわち、普通の中学校の敷地ほどの広さだ。
【無詠唱】で終わらしてもいいが、ドクもいることだし、魔法名だけは言っておいた方がドクも楽しめるだろう。
「《火龍の息吹》からの《龍の羽ばたき》」
《火龍の息吹》は本来、広範囲を焼き尽くすための魔法だが、威力を調整して、火をつける位に落としている。
そして、《龍の羽ばたき》は広範囲にいる対象を吹き飛ばす魔法だが、こいつも威力を調整して、風の威力を低くした。そして、更に回転を加えた。
これによって、確か、火災旋風という自然でも起きる現象が発生するはず。
火の様子を確認したが、ただ、炎が回転しながら、範囲内の木を燃やしているだけに見える。
実験は失敗だが、まあ、森が焼けているので、いいだろう。
実を言うとあんな、大掛かりな魔法を使う気なんて無かったが、ドクに師匠として、目標点を見せておいた方がいいと思った。
要は格好いいからだ。
「相変わらず、変な事を試しよるの」
こいつにだけは言われたくないが、反論すると面倒臭そうなのでやめておいた。
鎮火するまでに、三十分ほど掛かったが燃やし尽くすことが出来た。
長方形の範囲だけ、黒い灰が散らばっているが、他の所は何も無かったかのように普通に木が生えていた。
「次は平らにするだけだけど、どうやってする?」
「そうじゃの。普通に《土操作》でやるのもいいんじゃが」
「そうだな、折角だし、演出を加えてやりたいな」
灰を地面に埋めて、平らにするだけの作業だが、ドクを驚かせる様な演出を出したい。
「この作業は儂がやるのじゃ。リュウは帰りの魔力を残しておいたほうがいいのじゃ」
そういえば、かなり魔力を使ってしまった。感覚からすると、残り、三千位だな。帰りにも魔力を消費するので、レイに任した方がいいな。
「よく見ておれよ。紫髪の子。リュウの隣に居たいなら、この程度は出来て欲しいの」
レイが地面を踏んだ。すると、灰が散らばっている所の土が、波を打ち始めた。
海のような地面の所々に渦巻きが発生し、黒い灰を吸い込んでいった。
渦巻きが徐々に小さくなり消えた。
「ざっとこんなもんじゃな。後、儂は家に戻るから、あとはご自由に」
五百年前でも、こんな《土操作》をする奴はこいつ以外知らない。それにしても、こんなに実力差を見せ付けられて、ドクは大丈夫なのだろうか?
「ドク。大丈夫だ。この人は賢者と言われている奴だから、そこまで気にしなくてもいいぞ」
「いや、大丈夫。私も頑張って、あの子に追いつく」
俺の心配は意味が無かったみたいだ。しかも、追いつこうとするやる気をだしてくれた。絶対に強くなって貰いたい。
ドクも大丈夫なようなので、整地された所を歩いた。
森の中の一部が、見事に消滅したと表現してもいい位に綺麗に消えていた。後悔はしていない。
「よし、この辺に作るか」
グラウンドの端っこの地面をレイの様に踏んで《土操作》を発動させた。イメージは元の世界にあった鉄棒だ。
土が盛り上がって、鉄棒の形を作った。
正直、走るだけなら、このグラウンドを作る必要は無い。
本当の目的は訓練道具を作ったり、使う場所が欲しかっただけだ。
今回作ったのは土で作った鉄棒。
普通の人は鉄棒をやらないと思うが、鉄棒は体を伸ばすのにかなりいい道具になる。
鉄棒にぶら下がった。
「何やっているの? 師匠」
「背を伸ばしている。ドクもやるといいよ。訓練後にはこれを毎回やるからな」
「やる必要はあるの?」
「筋肉をつけすぎると、背が伸びにくいからな。高すぎても不便だが、小さくても不便だから」
誰かに教えて貰ったことをそのまま、ドクに教えた。
この後、ドクとグラウンドで走り、背を伸ばして、竜人の里に帰った。
注意;今回、主人公が環境破壊をしましたが、異世界なので許されています。




