三六話 心配と変化
ドクを家まで送った後、十歩程、ジャンプしながら、歩いたら、家に着いた。
まさか、ドクが隣人だとは思っていなかった。
もう、太陽は沈み、周りは真っ暗だ。こんな状態で家に帰ると、怒られる気がする。
考えているだけ無駄なので、ドアを開けた。
「お帰りなさい。リュウ様」
ドアの近くにユミナが立っていた。その近さが異常だった。
俺が後一歩、いや半歩前に出ると、ユミナのお腹に当たる程に近い。
「何時から、そこに立っていたんだ?」
「二時間……位ですかね」
俺に関わった女性は待つことをする羽目になるのだろうか? もしかして、ドクも待つ羽目になるのだろうか? 考えても、何も分からないな。
そろそろ、家の中に入りたいが、ユミナが退いてくれない。
十分程、耐久した。
すると、ユミナが手を広げた。初めは何をしたいか分からなかったが、今分かった。
一歩前に出た。もちろん、ユミナのお腹に顔がくっついた。
締め付けられる感覚がする。攻撃では無く、包み込むような感じだ。
「心配しました」
普通の子供や男なら、迷惑をかけたと思うだろう。しかし、俺にとっては、まだ強さを認めて貰えていない証だ。
つくづく傲慢な気がするが、それが俺の感情だ。
「明日のダンジョンでは少し本気を出すから」
本気を見せるつもりは無かったが、元とは言え勇者を見誤った事を後悔させてやる……。いや。違う。
なんで、こんな傲慢な事ばかり考えてしまうのだろうか?
注意しないと俺もクズになってしまう。自分勝手な奴になるのは御免だ。
「心配させて、ごめんね」
「いいえ、私が勝手に心配しただけです」
包まれる感覚が無くなった。
「時間もいい頃ですし、ご飯を食べましょう」
「ありがとう」
今日の飯は何だろうな。
――――――
今日の飯は魚を丸ごと煮たものに塩を振ったシンプルな奴と白米だ。これがこの里では普通に食べられている料理だ。
元の世界だったら、見劣りする内容だろうが、この世界だったら、かなりいい飯と言える。
邪魔な骨を取りながら、食べた。塩の効いた魚は米によく合っていた。
「ご馳走様」
飯を食べ、そのあとは着替えて寝るだけだ。
風呂は普通の人は、一週間に一回入る位らしい。別に毎日入らないと死ぬわけではないので、我慢できる。
服を着替えた後、昨日と同じ様に布団の中に入った。
――――――
朝の日差しによって、目を覚ました。何か、変な夢を見た気がする。まあ、気にする事でもないだろう。所詮、夢だしな。
なんか、寝たお陰か心がスッキリした気がする。
「リュウ様。起きましたね。いつもより、遅いですね。ご飯はもう出来ています」
遅いのかよく分からないが、久しぶりにあと数分寝させてと言いたい気分だ。
「分かった。着替えてから、行くよ」
あやふやな、視界の中で服を脱ぎ、自分の体を見てみた。
七歳児か怪しくなるほど、筋肉がついてしまっている。
特別、筋トレをした訳ではないが、きっと《身体能力強化》のせいで強くなったのだろう。
あの魔法の原理は筋肉の強制的な強化によるものだ。自分の能力にあった強化なら、何ともないが、強く発動させると、筋肉繊維が切れる。
回復をする時に切れた筋肉が更に強くなるって感じだ。
背が伸びる時期に筋肉をつけすぎると背が伸びなくなる。鉄棒にぶら下がって、体を伸ばす必要があるな。
確か、このことは、……誰に教えて貰ったんだろうか? 思い出せない。大切な人から聞いた気がするけど、顔と名前が思い出せない。
こんな歳に老化かなと思いつつ。服を着て、そのまま、部屋を後にした。
今日の朝ごはんはおにぎりだ。角が無い三角形型のものだ。のりが無いのは残念だが、しょうがない。
「いただきます」
一口食べた。塩と白米の味がした後、それ以外の味がした。
おにぎりを見たら、魚が入っていた。昔、よく鮭が入った奴を食べていたなと思い出させる味だ。
「魚を入れてみたのですが、どうですか」
「おいしいよ」
レポーターでもないので、詳しい感想は無いが、とりあえず、美味しかった。
結局、五個ほど食べた。
「ご馳走様でした」
今日もダンジョンに潜る予定だ。あの時の俺は可笑しかったとはいえ嘘を吐くのは嫌いだ。
約束通り全力を見せよう。
――――――
ダンジョンの四層目に着いた。ちゃんと、昨日のことは話したので、四層に直接転移した。
【最適ルート】のお陰で、すぐに次の階層へ進んだ。
五層目にいたのは、爪が少し長く伸び以外は四層目の奴と同じだった。
この竜は更に貧弱だった。まず、近づいてこない。
ブレスを吐くかと思ったが、そんな様子は無かった。待っていても何も起きないので、俺たちの方から近づいて行った。
すると、爪の射程に入った瞬間、腕を振り下ろして来た。
なかなかの早さだったが、簡単に躱せるレベルのスピードだ。爪が地面にめり込む程度の威力だ。
追撃をされる可能性があったので、少し離れた。
しかし、いつまで待っても竜は動かなかった。爪を地面にめり込ませたまま。
まさか、抜けないということは無いと思うが、まさかな。
俺たちの油断を誘う作戦なのだろうか? よし、その作戦、乗ってやる。
いつでも、魔法が使える様に意識を集中させておきながら、近づいた。
めり込んでいる腕を軽く蹴った。しかし、俺のことはあまり気にした様子はない。脅威では無いと思われているのだろうか。
こうなったら、俺も本気を出すための糧になって貰おう。
魔法の中で、派手に出来るのは火魔法だが、洞窟で本気の物を出すと酸欠を起こす可能性があるので、我慢しよう。
今回使うのは対策が出来ない技だ。
ただ、魔力を相手につぎ込む。ただそれだけ。
約五千ほどの魔力を動かない竜に強引に流した。瞬間、竜の一部が破裂していき、ぐったりと倒れた。
どんな、生物にも魔力のタンクある。俺みたいに少しずつ強くしていくのは、別に命に関わらない。しかし、一気に許容量以上の魔力を入れられると、体が異常を来す。
そんな、症状が倒れている竜で起きたのだ。
一番といっていいほど、効率が悪い技だが、全力を出して倒すには丁度いい。
「今のはどうやったのですか?」
やっと、質問をしてくれた。ただの魔法と思われては面白くない。
俺はユミナに技の原理を教えた。
「すごいですね。少しでも、魔力が足りないと相手を回復させただけになりますからね」
ユミナは俺を褒めてくれた。褒められるのは嬉しいと久しぶりに思った。
この後もこの階層の竜は爪が地面にめり込んだら、動かない。
階層ごとに弱くなりすぎだ。と感じた。
この様子だと次の階層から、もっと弱くなるのだろうか?




