三五話 魔道具
今、俺を先頭にして、ドクとダンジョンを探索? をしている。いや、正しくは彷徨っていると言った方が正しい。
竜が通るためなのか、この階層の通路は広い。
そのせいで、少ししか歩いていないのに、長い距離を歩いた気分になる。
ユミナが居てくれれば、次の階層へ最短で進んでいるのを知れるから、精神的に楽だ。
「次の獲物はどいつかな」
ドクは俺とは正反対に足取りが軽い。初めて戦う魔物。そして、久しぶりのダンジョン。興奮する気持ちは分かる。
しかし、そろそろ地上では日が沈む頃だ。あと一体ぐらいが限度だろう。
彷徨っていると、通路よりも幅が狭い道を見つけた。気になるな。
特に行かないといけない道がある訳ではない。
勝手な行動だが、一瞬に帰る能力があるのはクウだけだ。すなわち、俺に主導権がある。
狭いと言っても、両手を広げても余裕のある位の道を歩いていると、開けた場所に着いた。
キューブ型をした空間で、真ん中に木箱が置いてあった。
「ここが宝箱がある部屋ですね。初めて来ました」
「そうらしいね。私も初めて来たよ」
そう、ここは宝箱が設置されている場所だ。確か、ダンジョンについて書かれている本には、罠がある可能性について書かれていた。
ほとんどの罠が、宝箱を開けた瞬間、大量の魔物が発生する魔物部屋らしい。
俺としては魔物が出てきてくれるのはありがたい。
「僕が開けるから、なるべく近くにいてね」
「うん。分かった」
ドクが俺の片手を掴んだ。
そういえば、転移させる系の罠もあったけな。でも、俺ならすぐに戻れてしまう。警戒する必要のない罠だ。
宝箱を開けた瞬間。部屋が一瞬暗くなった。
どうやら、魔物部屋みたいだ。
「ドク。遠慮せずに出せ」
「うん。分かった」
部屋が明るくなり、周りに貧弱竜以外にも、一層から三層目にいた、リザードマンも発生していた。
なかなかの数だ。ざっと、五十体はいやがる。
このまま、ドクを守っていれば、いずれ決着がつくだろう。
でも、俺たちはそんなに暇ではない。俺もドクもまだ子供だ。なら、心配する大人が居る。
すぐに終わらせるために魔法をイメージする。
殺すのではなく、出血をさせる程度の風を大量にまき散らす。
魔法の名は《切り裂き嵐》中級魔法だ。
風を凝縮して飛ばすため、大気中に漂っている毒も合わさり、毒の刃となる。
「グギャー! ガアー!」
魔物が悲鳴を上げる。魔物と言っても、あの四足野郎だけだ。他の魔物はドラゴン系の名に恥じていない。
傷口から、更に毒が入る。
どんどん。魔物が倒れていく。
その中で、一体だけがブレスを放って来た。検討違いな方向な所に飛んで行ったが。
敵の努力に免じて、俺が直接手を下してやろう。光栄に思えよ。
本気で走り、対象の魔物に近づいた。魔物は俺に気付いているのか、足から崩れ落ちそうになりながらも、俺を睨んだ。
最後まで足掻く奴は、嫌いではない。
剣を出し、首を撥ねた。
地面に鱗がドロップした。誰が倒しても同じドロップだが、作業とは違う楽しさがあった。
周りを見渡した。どうやら、魔物は全滅したみたいだ。
意外にすぐ倒せたな。
ドクの所に戻った。
「良かった。無傷だね」
「うん。一瞬びっくりしたけど、何とかなったよ」
会話をしながら、開いた宝箱を見た。
「これは、石なのかな」
「そうだね。でも、ただの石じゃないね」
宝箱の中にはその辺にありそうな拳位の石が置いてあった。
この石には少し魔力を感じる。多分、魔道具だろう。
「これ、貰っていいよね」
「いいよ、いいよ。私は今回、毒を出していただけだし」
遠慮なく貰う。
今後、役に立つ気がする。
「じゃあ、帰ろうか」
「え、どうやって?」
俺が、転移させたことを覚えていないのだろうか? まあ、いいか、早く帰ろう。転移をするためにドクの手を掴む。
『クウ。田んぼの道に飛んでくれ、ミスをするなよ』
『分かりました。……行きます《短距離転移》』
――――――
いつもの感覚と共に転移をした。空は後、少しで沈み切る所にあって、暗くなり始めている。
「え、ここって」
「田んぼだよ」
説明が面倒臭いが、隠すのは悪手だな。
「これはね。クウ出てきて」
『はい。今、出ます』
白い球体。クウを出して、ドクに説明した。
「すごいね。便利の塊だね」
「でもね、その分、面倒事があるんだ」
力を持つということはその分、責任や義務を背負う時が、いや――負わされる。
「このことは秘密にしてくれないかな?」
「いいけど。どうして?」
ただし、力を知られた場合だけだ。やっと、勇者の義務を終えたんだ。もう、他人の為に命を懸けて、働きたくない。
俺は自分の力で、楽しく生きるんだ。
こんな本音をこんな純粋で勇者好きな少女に言うのは少し酷だ。
「転移って、かなり魔力を使うんだ。みんなに自慢すると、後で辛いんだ」
「そうなんだ。うーん。もっと聞きたいことがあるけど。時間が時間だからね。帰ろう」
何を聞きたいのだろうか? なんか、面倒な事にまた巻き込まれるのは御免だ。
クウを体に戻し、ドクを家まで送った。
魔族が誘拐を企てているかもしれないからな。
別に何処に家があるか、気になったわけでは無い。
街灯が無い里は、暗いと思ったが、意外に家が密集していて、比較的に明るかった。
「今日はありがとう。私の家はここだから」
ドクが指さした家を見た。家は何も変哲もないが、場所が少し、気になった。
俺が今住んでいるユミナの家の隣だった。
隣人だったのか。




