三二話 劣等なる毒 前編
「いいな。いいな!」
近づくたびにドクの言っている言葉が怖く感じて来た。ダンジョンの魔物とは比べ物にならないレベルの威圧がする。いや、下手したら、魔族の兵士より強い。
足が少し重たい。
いや、これは。
「毒か……」
「すごいね。もう分かったんだ」
毒と言っても、そこまで強いものでは無い。
倦怠感がするだけだ。
「もしかして、これが君の力?」
「そうだよ。私は他の竜人とは違って、毒を扱うことが出来るんだ。今も、なかなか強いのを出しているのによく我慢出来るね」
「なかなか、いい毒だね」
正直、俺にとって大抵の毒はあまり意味がない。魔法を使えば毒を抜くことは容易だ。でも、ここは魔法を使わずに毒を吸っている。この怠さが証拠だ。
森に被害が出ては後が面倒臭いので、魔力の壁《結界》を二人を囲むように展開しておいた。
魔法を使った後にドクが語り始めた。
「この力は私にしか使えない。でも、そんなのは欲しくなかった。他のみんなの同じような竜になりたかった。他の竜人みたいに便利な能力が欲しかった。いつでも使える力が欲しかったの!」
「はぁ。そうですか」
もう、ため息を吐く以外に何も出来ない。欲しい欲しい。傲慢だな。
こんなことを言ったのが、知らない大人だったら、殺している。
まだ、子供だから、まだ変わることが出来る。
俺はワザと膝を地面につける。傲慢だが、ここは仕方がない。
「流石に厳しいね。他の属性は対策出来るけど、毒は想定していな—―」
とっさに後ろに思いっきり跳んだ。
膝を付けた所付近に毛虫がいたからだ。
「本当はそこまで、効いていないんでしょ!」
クソ。計画が奴のせいで台無しだ。
毒が強くなった気がする。吐き気がして来た。
「なんで、こんな所で毒を放出したんだ?」
とりあえず、話を逸らさないとドクの放つ毒が強くなる気がする。
機嫌によって強さが変わるということはまだ、何かをコントロール出来ていない可能性が高い。
楽しい生活を送るためだ。手を出してやる。
「この力は毒竜の毒を出す力だよ。この通りリュウと違って不便だよ」
「これが不便なのね」
無差別に毒をばら撒く。確かに不便だ。
現に俺がこっそり《結界》で周りを囲んだ所の木が枯れかかってている。
頭が痛くなってきた。
クソ! 手を煩わせてくれる。
《毒解除》という魔法を使えば、この程度の毒は全く意味をなさないが使わない。
「僕の力(魔法)も操作が難しいんだ。一回でも、暴発すれば、この毒とは比べ物にならない位、被害を出すよ」
「被害を実際に出したことはあるの?」
「……」
面倒臭い。一体、あいつは何を求めているんだ。
俺の弱点でも晒せばいいのか? それなら、痛む暇もなく、気絶させてやろうか?
「ない様だね。私はこの毒でみんなを」
「……この力で人を何人も殺した。殺したくない人も含めて殺した」
「そ……そうなの?」
俺の力(魔法)の危険性を教えてやる。
「人は焼いても、水で潰しても爆発しても死ぬよね。俺の力も扱いが難しくってさ。例えば、みんなに見せた《火槍》なんてね。少しでも間違えると大爆発を起こすんだよ」
「え、何を言いたいの?」
「結局は使い方なんだよ。どんな力であっても」
頭痛と吐き気のせいでイライラしてきた。
「もしかして。私がすべて悪いって言いたいの? ははは、リュウはすごいよ」
「屁理屈はやめろ」
「屁理屈? そうだね。私の言っていることは屁理屈だよ。君は正しいかもしれないけど、私は認めない」
面倒臭い。こんな無利益な話し合いをしても、意味が無いな。
「これで、最後の質問にするよ。ドクは人を傷つけたい?」
もし、ただのクズならここで楽にしてやろう。
幸い、この森にはモンスターが出るらしいし、モンスターに殺されたことにして、ダンジョンに死体を捨てれる。
「傷つけたくなんて、無いよ」
「分かった。なら、手を掴め」
手を差し出した。ドクが戸惑っている間にクウに場所を指定しておいた。
「もう、どうにでもなら」
「行くぞ! 《短距離転移》」
ここで、話していたら森がやばい事になりそうだったので、場所を変えた。
『すいません。間違えました。ダンジョンの下の方に到着しました
俺が下手に詠唱したせいで、転移場所をミスったらしい。まあ、いい。
「ここは……ダンジョン!?」
「ああ、ここは[龍の巣]だ」
階数は失敗したのでよく分からない。
うざい毒を感じながら、ドクが落ち着くまで待っていると、魔物が現れた。
「変なのが来たな」
三層目まではリザードマンだったが、この階層はトカゲを大きくした、竜がいた。
竜は俺たちを見つけて突進をして来たが、途中で倒れた。
「ドクの毒。すごいな」
ちょっと近づいただけで、竜が死んだ。
「わ、私が竜を倒したの?」
「そうだな。俺は手を出していない」
ドクが喜んでいる。毒がもっと強くなりやがった。
やばい。意識が……。
「あ、毒を止めないと」
ぼんやりした視界が、少しずつクリアになった。
「ごめんね」
「いいよ。死んでないし、ドクも戻って良かったよ」
いろんな事をしたが、ドクが戻って良かった。
こうなった理由を訊く権利を入手できたな。




