三一話 弱点とトラウマ
家に帰るべく、森の中を歩いていると偶然、ある生物の姿を視認した。
緑色の葉っぱの上に存在し、全身を毛という名の凶器で守っている。元の世界にもいた俺の天敵の生物。そいつの名前は
—―毛虫。
俺は足を止めてしまった。
「どうしたのリュウ? あ、あそこに毛虫が居るね」
「そうだね」
ドクが毛虫に近づいて行く。彼女の勇気は元勇者である俺を超えている。
伝説のモンスターであろうが、最強の魔王であっても、俺は怯まずに戦いを挑む。しかし、あいつだけは別だ。
「あんな、生物、放置しておこう」
ここで引いて欲しい。正直、今すぐにでも本気で魔法を撃ちたい。上級魔法を集中砲火すればあの生物もただでは済まないなずだ。
「もしかして、リュウ毛虫が嫌いなの?」
弱点を晒すのは良くない。もし、明日から子供たちが毛虫を持って来たら、殺してしまうかもしれない。いや、絶対に殺す。
それほどあの生物は嫌いなのだ。
でも、なんで、俺ってそれほど毛虫が嫌いなのか? 昔を思い出そうとした。確か毛虫が嫌いになったのは小学四年生の時だった。
――――――
その日はいつもと変わらず、友達とボール遊びを校庭でしていた。
誰かが投げたボールがプールの横に植えてある木の所に転がって、俺が取りに行った。
取った時に頬あたりに違和感を感じた。
初めは何とも思わなかったが、教室に帰る頃に異常に痒くなった。
保健室に行くのも面倒臭さかったので、顔を掻きながら、授業を受けた。
掻くたびに痛くなっていく頬。この時の授業は算数だった。丁度、台形の公式がなぜこの式になるかの理由を考える時間で楽しくあまり気にしなかった。
ノートに友達の意見を書こうと手を見たとき。
手に少量の血が付いていた。掻いていた頬を指先で触ると、点字を触った時みたいな感触がした。それも、大量に。当時は発狂しそうなほど気持ちが悪かった。
次の時間が大っ嫌いな社会の歴史の時間だったので、保健室に行った。
保健室の先生は「これは毛虫にやられたね」と言い。応急処置をしてくれた。
あれ、こんなトラウマをなんで今まで忘れてたんだ。
――――――
「大丈夫? そんな、思い詰めた表情をして」
ドクが目の前にやって来た。記憶を掘り出してたので、ここまで、接近されても気付かなかった。
薄い記憶を思い出すのに集中してしまった。
「大丈夫だよ。それより、毛虫は今、何処にいるのかな?」
「あそこにいるよ」
指さされた方向を見て、毛虫の居場所を確認した。俺が奴を嫌う理由がトラウマなら、ここで少しでも減らしておこう。
圧倒的な力の差を見せて自信をつける。
ドクが居るので広範囲系の魔法は無暗に使えない。
使う魔法を決めたが、ドクにどうやって伝えようか悩む。でも、まあいいか。使ってみた反応から適当にはぐらかそう。
今回使う魔法のイメージは太陽の光を凝縮した光の矢《聖光矢》にオリジナル闇魔法《死付与》を追加する。
どちらも単体ではある程度条件があるが中級魔法だ。
しかし、二つが上手く合わさると上級魔法でも、真ん中ぐらいの魔法になる。
「《死を与える聖なる矢》!」
詠唱をすることにより、集中する時間を減らし、魔法を発動させた。
一瞬空が光ったと同時に地面に黒く光る柱が毛虫を包み込んだ。毛虫の大きさは葉っぱ一枚ほど、それに対し、柱の大きさは木と同じ位だ。
この光に触れると術者以外はほとんど確実で死ぬ。もし、【即死耐性】があっても即死だ。速さと威力を合体させた結果の上級オリジナル魔法だ。
これなら、確実に毛虫を倒せただろう。
光の柱が天に帰るように消えた。木は粉々に散ったが、地面には変化はあまりない。この魔法の便利な所の一つだだ。
「え、木が一本丸ごと消えちゃった」
ドクが動揺している。まあ、当然だろう。
ちょっとした《火槍》で驚いていたのだから、こんな狂った魔法を使われたら、混乱するだろう。
「これで、毛虫は確実に死んだ――」
嫌な予感がして足元を見てみた。なんと。靴の近くに毛虫が居た。
幸い靴に付いていなかったので、躱せた。
この世には魔王は基本この世に一体しかいない。だが、毛虫は大量に居る。これが現実なのだ。いくら、強くても、俺には毛虫を絶滅させることは無理だ。
一回一回、あんな上級魔法を使っていては、すぐ魔力が尽きてしまって効率が悪い。
「あははは。すごいねリュウはこんなことまで出来るなんて。同じ年なのに」
下を向き乾いた声だ。何故だろうか、驚かれるのは予想していたが、ここまで考えていなかった。
可能性としては毛虫にやられた可能性がある。確認をするためにドクに近づいた。
「なんで、私にはいつでも使える力が無いのよ! 他のみんなは自由に自分の力を使っているのに」
難しそうなことになりそうだ。
—―劣等感。
その言葉が何故か、俺の頭を過った。
面倒臭いことにならないことを祈って、ドクに近づいた。




