三十話 森と海
ダンジョンから帰った。太陽がやや、西の方に沈んでいる。
元の世界だと午後一時ぐらいだろう。
「お昼ご飯はもう作ってあります」
「ありがとう。今日は何かな」
ユミナが部屋から出ていき、皿を持って来た。
見た目はホットドッグの肉の代わりに魚が入っている。
「おお、昨日リクエストした奴だ」
「リュウ様のアイデアを私なりの解釈をして作りました」
本当はサンドウイッチを食べたかったが、白いパンが無いので無理だったのだろう。
「いただきます」
一口食べてみた。パンが少し固かった。しかし、その分噛む回数が増え、魚の味が口に広がった。
そこまで期待はしていなかったが、かなり美味しかった。作る人が上手ければ、なんでも美味くなる。と言われても今なら信じられる。
「ごちそうさまでした。おいしかったよ」
「ありがとうございます」
今度は米を使った料理を頼もうと思う。
やっぱり、故郷の食べ物が食べてみたい。ユミナのアレンジ能力があれば少し違っても美味しくなるだろう。
昼飯も食べ終わったので、子供たちと遊んでこよう。何処にいるかは知らないが適当に散歩をしていたら見つかるだろう。
「ユミナ。俺は子供たちと遊んで来るから、自由にしておいてくれ、明日もダンジョンに行くから体力は残しておけよ」
「はい。分かりました」
家から出ていき、適当に歩いた。
この里の人は人族の子供が歩いていても、全くと言ってもいいほどに警戒をしていない。もし、大人だったらどうなっているのだろうか?
別に考えても分かることではないな。忘れよう。
住居区分を歩いていても子供たちを見つけられないので昨日行った田んぼに向かった。
行った先にはドク一人だけが立っていた。
「あー。みんなは今頃、戦っているのかな?」
独り言が聞こえて来た。一人ぼっちにさせるのは可愛そうなので話掛けよう。
「おーい」
手を振りながら、ドクの元へ走って向かった。
「探したよ。みんなは何処にいるのかな?」
「ダンジョンに行ったよ」
ダンジョンと言ったら[龍の巣]だろう。しかし、何故ドクは行かないのだろうか。
少し気になるが今聞くのは無神経だ。
「じゃあ、二人しかいない訳だ」
「うん。この人数じゃあ、遊びにくいね」
ボッチよりはいいと思うが、二人だと鬼ごっこみたいな対戦系の遊びが少ない。
でも、対戦系じゃなければ遊ぶことは出来る。
「森を探索してみよう。ドク案内を頼んでもいい?」
「うん。いいよ。このままでも暇だからね」
探検なら、それなりに楽しいし、会話が進めば自然とドクがダンジョンに行かない理由が聞けるだろう。
田んぼを歩き、森に着いた。
「トシを追いかけるために一回入ったけど、全然道が整備されていないね」
「いや、そんなことは無いよ。所々伐採されているんだ」
よく観察してみると、木と木の間に不自然な空白がある。言われればすぐに気づけるが、言われないとなかなか分からない。
「今まで全然分からなかったよ」
「分からないように作ってあるらしいよ。なんでかは分からないけどね」
別に興味がある訳でも無いので、今は積極的に調べる必要はないな。
「この森にはモンスターは滅多に現れないから警戒はしなくていいかな」
「でも、絶対じゃないなら、油断をしてはしない方がいい」
【魔力感知】を発動させて、いつでも対応することが出来るようにしておく。
森の中に入った。
「森の中って自然と一緒になっている気がしていいね」
「そうだね。こういう森はいいよね」
正直、屋敷の裏にある森との違いが分からない。でも、同じぐらいの年の子と歩くと何か違ったものを感じる。
「そういえばさ、リュウって、とても強いけど、弱点とかってあるの」
「この体になってから、七年しか経っていないし、意外にあるかもね」
弱点……か、無いことも無いが教える気はない。
「たまにはこんなにのんびりするのもいいな」
「たまにって、どんな生活をしているの?」
別にそこまで、忙しい生活を今は送っている訳ではない。勇者の時に比べればの話だが。
雑談をしながら、森を適当に歩いた。
「あそこが滝だね。あの中にはダンジョンがあるよ」
「改めて見ると外からだと見えないね」
昨日は追いかけるために入ったのでそこまで見ていなかったが、外からだと、ただの滝に見える。
森はまだ続いているので、進んで行った。
都合良くモンスターに出会う事もなく。歩き続け、森を抜けた。
「ここ、綺麗だね」
「久しぶりに海を見たよ」
目の前には崖があり、波が音を立てて打ち付けている。追い詰められた事件の犯人が飛び降りる様な風景だ。
危険な景色を美しいと言えるのは子供だからだろう。
「ここで魚を取っているのかな」
朝、ユミナから聞いた話を確認した。
「そうらしいね。この波の中、泳げる竜人ってすごいよね。私には到底無理だよ」
今の俺も魔法を一切使わず、手足を縛られた状態だと流石に死んでしまう気がする。
「そろそろ、日が沈むから、帰ろう」
「よし帰ろうか」
この里の地形状況について学んだ。
海も見れて満足できたので、家に帰ろうと後ろを向いた。




