二話 ばれない魔法
俺の意識が戻ったみたいだ。しかし、目を開けようとするが目が焼けるように痛くなる。
例えるなら太陽を直視した時と同じような感じだ。
「ばぶびぃ」
眩しい。と言おうとしたが赤ちゃん語になってしまった。
確信した今の俺は赤ん坊だ。
慣れない感覚から転生したと体で理解した。
初めて意識がある状態で赤ん坊になったが全然動けない。
当然かと思うが今まで自分でやっていたことをすべてやって貰わないといけない。
少々恥ずかしい。
「ロイ。リュウ君が声を出したわよ」
「そんなに慌てなくてもいいだろう。それにしてもこの子がクレアと僕の初めての子供か」
俺は声のした方を見た。そこには、黒髪の美人と銀髪の女よりも高身長のイケメンが並んで立っていた。
やったぜ。会話から見るに俺の両親みたいだ。母親がクレア。父親がロイという名前らしい。
それにしても、また名前がリュウかよ。と思ったが違う名前だと呼ばれた時に反応に時間が掛ってしまう可能性があるし、リュウのままの方がいいか。
—―?。元の世界で俺の名前ってリュウだけだったか?
考えると頭が痛くなったので思考を諦めた。
「僕は来てくれた人の対応をしてくるから」
「お願いしますね」
銀髪のイケメン。ロイが部屋から出ていく。
クレアが俺の背中を持ち上げた。
「ばぶ!?」
……い、息ができない。
こっちは首が座っていないのにそんな持ち方したら首が曲がって気道が塞がる。
このままだと死ぬ。
くそ! 転生してすぐ死ぬのは流石に嫌だ。
しかも、死因が新しい親の持ち方だったら後悔しきれない。
本当は誰もいない時にしたかったが《身体強化》の魔法を発動させる。
首を集中的に強化する事により首を上げる作戦だ。
やばい、そろそろ、意識が持たない。心臓あたりに魔法を使うために必要な≪魔力≫が溜まっているタンクの様な物がある。
魔力タンクに意識を集中させ、体に循環させる。体がほんのり温かくなる。この熱を首に集中させる。
そして、少ない筋肉を強くしろと己に命じさせた。
魔力が変質し俺の首の筋肉を補助し首を一瞬上げた。
しかし、赤ん坊の魔力が少ないせいで、すぐ≪魔力≫が尽きる。
なんだか、意識が曖昧になってきた。
今。思い出した。魔力を使い切ると気絶するんだった。
――――――
意識が戻った。
柔らかいベッドの感触がする。
何とか生きてはいるようだ。
でも、流石に生まれたばかりの赤ん坊が魔法を使うと怪しまれたり、変な扱いを受けるだろう。
目をゆっくり開ける。
目の前には母親のクレアだけがいた。
あれ、誰も呼ばないのか? 普通なら魔法を研究している人間が来ていろいろやりそうな気がするが。
もしかして、今の時代は赤ん坊が《身体強化》するのは当たり前なのか?
流石にそれはないだろう。そもそも赤ん坊は普通なら自我がまだないはずだ。
俺みたいにこの世界で何回も魔法を使った転生者なら可能かもしれないが。
他にもいろんな考えを巡らせた。
一応、仮説として一瞬でさらに少量の魔力を使ったのでしたので気付かなかった。という結論に至った。
面倒臭いことを何もされないのを願うばかりだ。
「リュウ君が死んじゃったと思ったけど大丈夫みたいね。良かった」
赤ん坊が一瞬だけ首を上げてすぐに死んだようにぐったりしたんだ。
魔力が空になっている事を知らないと心配するだろう。
それにしても、俺が魔法を使ったことは本当に気が付いていないんだな。
本当に良かった。
「私もロイの所に行かないと」
クレアが部屋から出て行った。
赤ん坊を部屋で一人にするのかと思うがそれがこの家の教育方針なのか? でも、俺赤ん坊だよ。一人じゃ何も出来ないよ。普通なら、泣いたりしちゃうよ。
普通なら。しかし、俺は普通ではない。
転生者でしかも、元とはいえ、この世界で魔王を倒した勇者だ。こんな事もあろうかと、赤ん坊が一人でも強くなるための方法を賢者と研究した。
放任主義は大歓迎だ。
さて、まずはこの少ない魔力をどうにかしようか。
その前に魔力と魔法について軽く頭の中で整理をする。
魔力は空気中にある魔素という物質を自分に合うようにした物が魔力だ。
ちなみに魔力は心臓あたりにあるタンクに貯められている。
この貯められた魔力が魔力の総量だ。
魔法は勇者の時に読んだこの世界の辞書的な本には『魔力を変質させて現象を起こすこと』と書いてあった。
正直な所、当時の俺には意味が分からず勝手に解釈したっけな。
『魔力をイメージによっていろいろ変わる便利な元素』元の世界の知識を混ぜて理解した。
とにかく、魔法を使うには魔力が必要になる。
魔力は成長と共に少しずつ増える。また、魔力を出して、回復をする時に筋肉の様に成長する。
そして……。
幼い時にやるほど成長幅が異常に高い。
今、俺は赤ん坊だ。さらに、一回魔力を使い切った。
自然に回復するのを待つのもいいが、ここは【魔呼吸】というスキルを習得する。
【魔呼吸】のスキルは空気の中にある魔素を意図的に吸うスキル。
取得の仕方は簡単だ。
魔素があるとイメージして息を吸う。これだけだ。後は体が魔力に変換してくれる。
元の魔力の総量が少ないせいですぐに満タンになった。
しかし、まだ【魔呼吸】をやめない。
許容範囲を超えた魔力に魔力タンクが悲鳴を上げる。息を吸うたびに、心臓あたりが痛くなる。
赤ん坊は痛みに耐性がないみたいだ。
とても痛い。
この痛みは泣くという行動に変わる。
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
部屋中に鳴き声が響く。大体、五秒ぐらいしたら、部屋のドアが開いた。
「リュウ君! どうしたの!」
母親のクレアが俺に駆け寄ってくる。【魔呼吸】をしていることをばれたくないので、魔素を意識せずに普通に息を吸う。
さっきまでの痛みが嘘のように消えていく。泣く原因がなくなり泣くのをやめ……られない。
今、気づいたがすごい不快な気持ちがする。主にお尻のあたりから。もしかして、出してしまったのか?
「あら臭いと思ったら、出しちゃってますねー」
俺の服が脱がされ始める。
恥ずかしい。
転生する時に嫌だなと感じるのがこの時だと思う。
それにしても手際が悪い。
まだ、服を脱がせられていない。
大変だろうな。俺も学校の行事で一回赤ん坊の人形の服を脱がせたが人形で多少雑に扱ってもいいと思ってたとはいえ、難しかった。
親の苦労をこんなに身近に感じる日が来るなんてな、俺が赤ん坊だけども。
親孝行は大切してお返しをしないとな。
そういえば、親と言ったら元の世界の家族は元気にやっているのだろうか?
俺の事をさっさと忘れて未来を進んでくれ。
俺のお尻から物が無くなった。さっきまでの不快感がなくすっきりする。
服を着せる作業も手間取っていたが初めて着替えさせるには多分早いほうじゃないか。
「リュウ君。ご飯の時間ですよ」
クレアが胸を出す。やったぜ。転生しての楽しみの授乳の時間もやってきた。美人の親を持てて本当に良かった。
俺が胸を噛もうとした瞬間俺は意識を失った。
――――――
意識が覚醒した。目を開けると服を着ている美人の母親と満腹感があった。
もしかして、授乳は追加コンテンツみたいなやつなのか。
でも、飲み方とか知らないし変な吸い方したら、怖いもんな。
勝手にやってくれるのは意外といい。
誰がどうやって俺を気絶させているかは考えないようにしよう。
――――――
転生して一日で二回も気絶をしてしまってかなり寝たが、満腹感のせいで眠たくなってきた。寝る子は育つと言う言葉もあるしな、早く寝よう。
今度の人生は面倒臭いことを避けて自由に生きてやる。