二六話 鬼ごっこ 前編
今、少女二人と少年三人に囲まれている。
「本当にここで力を見せてもいいのか」
「いいよ、ここは大人も来ないから」
魔法を適当な詠唱と共に使った。
「火の精霊よ《火槍》」
槍の形をした炎が地面に刺り、消えた。
すぐに消える様に威力を調節した。
ちなみにこの魔法は《水槍》の水を火にしただけの物だ。
「すごいね。地面が少し溶けちゃっているよ」
「トシが言っていた事は本当だったんだ。そこまで、力があるのに僕たちを殺さなかったの?」
「他の人を傷つけるのがあまり好きではないからね」
魔法を子供たちに見せたのはトシが勝手に俺の力を言ったせいだ。
目の前で石を爆発させたせいもあって、あっさり信じられ、この状況だ。
他人の前に手の内を明かさない方が良いと考えていたが、秘密にさえしてくれれば、子供に見せるぐらいはいいと思う。
それにある程度自分のことを開示をしておけば相手にとってはそれなりの安心感になるだろう。
「僕の名前覚えているかな」
「え……あの、ごめん」
名乗ったのに覚えられない事って意外と精神にくる。
「まあ、気にすることは無いよ。僕の名前はリュウっっていうんだ。これからよろしくね」
この後、五人の名前を教えてくれた。
「僕の名前はケイ。こちらこそよろしくね」
「次は僕の番だね。キクっていうんだ」
少年二人だ。
青髪がケイ。黄髪がキクと名乗った。
「私の名前はジカでこの子はドクっていうんだ」
青髪の少女がもう一人の少女の肩を叩きながら、名前を教えてくれた。
子供たちの容姿をしっかり見てみた。一人以外は髪の色が一般的な竜人の鱗と同じ様な色だ。
しかし、ドクという子の髪だけは紫色だ。属性が違うのだろう。
気にはなるが今は聞く時ではないだろう。
「よし、これでみんな名前を知れたね。それでこれから何をして遊ぶ?」
トシがみんなに投げかけた。
俺はこの村にどんな遊びがあるか分からないので、何も提案しない。
元の世界の遊びは説明が面倒なので無しだ。
「鬼ごっこでもしようか。リュウはやり方を知ってるかな?」
「大丈夫。知ってるよ」
元の世界でやっていた遊びがこの世界にもあるんだな。これならルールを知っている。
「良かった。じゃあ。鬼を二人決めようか」
じゃんけんをした結果。俺とドクが鬼になった。
「じゃあ、鬼は十秒数えてね。範囲はそうだね……この田んぼのあるエリアすべてかな」
周りを見渡してもほとんどが田んぼなので広い範囲だ。
「じゃあ、行くよ。スタート」
四人がバラバラに逃げた。
元の世界基準ならとても子供には見えないほどの足の速さだ。
「よろしくね。追いかけるのは大変そうだね」
「そうだね。私はいつも息が切れちゃうんだよね。この遊び」
ドクとの会話はちゃんと成立しているので、俺に対して初対面の時みたいに敵対をしていないと考えていいだろう。
「一からカウントしようか」
「そうだね。一、二――九、十。よし、一緒に行こうか」
一人で追いかけてもいいが、二人で話ながら追いかけて親睦を深めよう。最低でも一週間はこの里にいる予定なので、仲良くなって損は無いだろう。
「普段は五人で遊んでいるの?」
何も話さないと気まずいので適当に質問をした。
「そうだね。この里に同じ歳の友達が五人もいるなんて、珍しいらしいけど。あ、子供っていえば四歳になる私の妹もいるんだ」
四歳といえば、シュウやシーと同じ年だ。いつか、出会うことになるかもな。
「そうなんだね。竜人族は寿命が長いからね。同い年が少ないのもしょうがないと思うよ」
「私たちは運がいいんだろうね。人によっては近い年齢が居ない時もあったらしいからね」
こんな雑談をしながら、他の子を探しても、誰も見つからなかった。
「見つからないね」
「いつもの事だよ。範囲から出ることは無いけど、みんな消えるようにいなくなるんだ」
遮蔽物が少ない場所なのに見つからないらしい。そろそろ、探すのにも飽きたので、少しズルをする。
スキル—―【魔力感知】
俺たちとは違う魔力を二つ感知した。後はそこにドクを自然に誘導すれば、発見できたことになる。
「ドク。あっちの方へ行かない?」
「いいね。行ってみようか。そもそも何処にいるかなんて見当もつかないけどね」
ドクは俺と話ながら、だんだん軽い口調になっている。少しは仲良くなれただろう。
「あ、そういえばさ、リュウって何処から来たの? ここに来れるということは訳アリだったりするんだよね」
あっさり、質問をして来た。相手が訳アリだって知っているなら聞かないで欲しかった。でも、されたものはしょうがない。ユミナのつっくった設定に合わせよう。
「何処かは分からないけど、森の中で拾われたんだ」
「え、ごめん。無神経なことを聞いて」
「いや、全然いいよ。今の生活も楽しいし。こうやってみんなに出会えた訳だしね」
森の中にある。屋敷の中で親に拾われた。
嘘では無い。なんか、違う気がするがここは気にしないでおいた方がいい。
「ここもはずれみたいだね」
田んぼの近くにドクが近づいた。反応はドクの目の前にあるのに誰も見つからないらしい。
まさか。こんな所に隠れているなんてな。
俺は田んぼの中に少し入った。農作物と道の間の用水路だ。
「なんで、田んぼの中に入るの?」
反応のあった所をよく見た。
そのまま、眺めること約三分後、男女が現れた。
「はあ、はあ。なんでここにいることが分かったんだ」
青髪の二人だ。名前はキクとジカだったはずだ。
「いつもはこの作戦で逃げれているのに」
三分間。いやそれ以上潜水出来れば鬼を見つけた瞬間に濁った田んぼの水の中に潜れば見つかることは無いだろう。
残りは二人だ。
久ぶりに遊びで本気になった。




