二四話 〈龍の巣〉
トシと握手を交わした。
後はこのダンジョンをのんびり探索するだけだ。
「そういえば君の名前覚えていなかったよ。教えて貰ってもいい?」
「僕の名前はリュウっていうんだ」
一応、殴られた時に言ったが、覚えていないらしい。少しショックだが、子供のやることに一々怒っているときりがない。
「そういえば、リュウはここに来るまでにリザードマンに会ってないみたいだね」
「いや、会ったぞ。あ。十回ぐらいは確実に会っていますね」
やばい、口調がいつものに戻ってしまった。猫を被っていることをばれたら、人にもよるが嫌われる可能性が高い。
「運が良かったね、無傷ってことは上手く逃げ切れたんだね。あの魔物は人族の子供が倒せるような奴じゃないよ。それと、楽な口調で話していいからね」
「ありがとう。口調は今まで通りで大丈夫ですよ。リザードマンは見つけた奴は全部倒したよ」
トシが優しい奴で良かった。ここで軽蔑をされたら、折角、頭を痛めた意味が無くなる。
「え、十体を倒したの? 本当のことを言って欲しいな」
「本当だよ。これを見れば分かって貰えるかな」
俺は鱗を十枚を取り出し、トランプの様に広げた。
「本当に倒したんだ。あの固い魔物を。僕はまだ一日、三体倒すのがやっとなのに」
「僕は特殊なスキルを持っているからね」
「いいな。何のスキルか気になるけど、聞くのはマナー違反だもんね」
いつか、トシが成長したら、ライバルみたいな関係になれるだろうか? 人生には張り合いのある相手がいたほうが楽しいはずだ。
「僕たち、一緒にダンジョンを探索できるようになりたいね」
「うん。本当はジョン様みたいに勇者様と共闘して見たかったけど、リュウとも共闘してみたいな」
話したい事も話したし、ダンジョンの探索を続けよう。
「僕はこの辺で探索の続きをしようと思うよ。じゃあね」
「ついて行ってもいい?」
どうしようか、トシを連れて行くと魔法を見せる可能性もある。俺としてはなるべく手の内を明かしたくないがどうしたものか。
「いいよ」
俺の精霊の数を知っていなければ適当に中二病的な言葉使って詠唱すれば、魔導だと勝手に思ってくれるだろう。
「私もついて行ってもいいかな」
ミラもついて来たいらしい。一人が二人に変わろうと関係は無い。
「いいですよ。でも、僕を気味の悪いなんて言わないで下さいね」
「分かったよ。リュウ君」
クズではない人に言われると心が傷つく。
五百年前は心を癒してくれる仲間がいたが今はまだいない。
二人を引き連れて適当にダンジョンを散策していると魔物が現れた。
「水の精霊よ……頼む《水槍》」
〇の精霊よ。までは知っていたがその後の詠唱を知らない。なので、言っているふりをして、魔法を発動させた。
中二病セリフは考えたが、恥ずかしくて言えたものではない。
ドロップの鱗を拾った。
「一撃で、あの固い鱗を貫通するなんて」
「まさか、魔導まで使いこなすとはね」
勝手に魔導だと思っているな。完全に思うつぼだ。
驚いてくれているが、これでも俺は手加減をしている。
五百年前のリザードマンと比べると相当、脆いと感じる。
この後、十五体を倒した。
「よし、今日はこの辺にしようかな」
二層への階段を見つけれなかった。やはり、ユミナがいたほうが探索は早く進む。
あとは、帰るだけだがどうしようか、今まではクウに頼んで転移していたが、今回は二人がいる。
「帰るときってどうすればいいでしょうか」
ダンジョン初心者が言いそうなことを言った。一つもダンジョンを攻略したことが無いからな。
「もしかして、地図を持って来ていないのかな」
「はい。地図ってあるんですね」
ダンジョンの地図ってあったんだな。
知らないことも知れて良かった。意外な収穫だ。
帰っている途中にミラが話掛けて来た。
「リュウはこのダンジョン〈龍の巣〉についてどのぐらい知っているの」
「魔物が全部ドラゴン系ということだけです」
ダンジョンがこの里のどこかにあること、ダンジョンで現れる魔物についてしか知らない。このダンジョンの名前すらさっきまで知らなかった。
「このダンジョンはね。四層まではすべてリザードマンなんだ。でも、一層目の奴らとは強さが全然違う」
「純粋に強くなっただけですか」
「それもあるけど、二層目からは槍を使ってくる。三層目は……って教えなくてもいいかな。君ほどの実力者なら簡単に対応できると思うし、その方が君にとっては楽しいだろうね」
人から教えられるよりは実際に体験をしろという気遣いらしい。
「僕は一層目までを使って修行をしているけどね。ちなみに僕のレベルは十なんだけど、リュウのレベルはどの位かな」
レベルか、そういえば一年前に盗賊を倒した以来、確認してしていなかった。ステータスカードを出しレベルを確認した。
≪レベル≫十九
「僕のレベルは十九だよ。毎日、頑張って魔物やモンスターを倒していたら、ここまでレベルが上がってたよ」
ほとんど人間の盗賊を倒してレベルを上げたが、冷酷な奴と思われたくないので、言わないでおく。
「そのレベルまで行けば、リュウみたいに水で魔物を倒すことが出来るかな」
多分、無理だな。俺は赤ん坊の時から魔力の増加や勇者だった時の感覚と技術があって成せる力なだけだ。
しかし、神から与えられたチート持ちの奴は別枠だ。
「頑張って修行をして努力をすれば強くなれるさ」
子供には無限の可能性があると俺は信じている。なので、ここですべてを否定をする必要は無い。
上をもっと目指してほしい。
「龍の巣を攻略して【龍化】出来るようになれば、リュウに追いつけると思うよ」
「もう、誰かが攻略したのか?」
ユミナから聞いた話だと、まだ誰も攻略を出来ていないはずだ。取得できるスキルが分かっているということは攻略した奴がいるのだろう。
「それについては私が説明するね。まず、取得できるはあくまでも噂の範囲なんだ。更に言ったら、〈龍の巣〉が何層で構成されているかもまだ分かっていない。以上で君の納得する答えになったかな」
ミラが答えた。
このダンジョンが誰にも攻略されていないことを知れて良かった。
スキルもまだ憶測の内なので実際に確かめてやりたい。




