二二話 差別
無言で殴られた。
顔に拳が入り、そこそこ痛かった。
明らかに馴れ合いの威力じゃない。
「人族なんて死んでしまえ」
厳しいことを言ってくれる。
人族に何か恨みがあるのだろうか? とりあえず、原因を探ろう。
「僕リュウっていうんだ。初めて竜人の里に来たせいでまだ文化に慣れていないんだ。他種族は殴って歓迎する文化があるなんて、驚きだよ」
同年代の他種族を殴る事が竜人の文化とかだったら、怒っても意味がない。
「こいつ気が狂っているのか? さっさと殺そう」
文化では無かったようだ。別に理由があるのだろう。
もしかして、俺の言動に問題があったのだろうか?
「僕、悪いことをしたかな、もし、やっていたなら、謝るし、反省もします。教えて頂ければ嬉しい――ぐは」
俺の質問は無言の蹴りで返された。初めて、「サッカーしようぜお前ボールな」を体験した。そもそも、見たことすら無いが。
五人に囲まれ、踏まれ蹴られることちゃんと数えて、合計三二五発。
「ここまでやれば、軟弱な人族なんて、死んでるだろう」
「普通なら死んでいるでしょうね、僕はまだ死ねないので全然平気ですけどね」
余裕なので話しかけた。
観察をするまでも無く、子供たちは呼吸が乱れている事が分かる程、疲れている。
「まだ、生きていやがる。もう一度だ」
また、俺を蹴り始めた。疲れた状態の弱い蹴りをくらう方は暇なので、また、蹴られた回数を数える。
今回は五三四発。数は増えたが、威力がほとんどなかった。
「はあ。はあ。流石にここまでやれば」
「まだ、死ねてないですね。本気で殺したいなら、もっと強くやらないとダメですよ」
「この化け物が」
「ああ、飽きました。別のことをやりましょう」
何度も蹴られて、体が痛み始めたので魔法を使ってこっそり回復をした。
一方、子供達の方は一人を除いて全員座り込むレベルで疲れている。
竜人であっても本気で蹴ったりすると体力は消耗する。
俺は近くに落ちている手ので掴める丁度いいサイズの石を拾った。
そして、服に付いた砂埃を手で叩きながら、立ち上がった。
クズ以外でしかも子供を攻撃するのは心が痛む。
怖い思いを体験するだけで許そう。クズが相手じゃなければ、自分でもびっくりするほど、優しい。
「僕の特技をとりあえず、紹介しておきますね」
手に持っている石に魔力を注ぎ、ある魔法を使った。そして、空に向かって投げた。
「ほら、スキル【爆発】」
投げた石が上空で爆発をした。この魔法は六歳になる前日にレイと模擬戦をしたときにレイが剣に仕掛けていた魔法とほぼ同じだ。
ちなみに【爆発】なんてスキルは知らない。
「僕の力は触れた無機物を爆発させるスキルです。さて、あなた方は僕に八五九回も触りました。僕のスキルは当然、条件を満たしています」
これでも、まだ蹴ってくるならこの子たちは真の勇者だ。
「すいませんでした。許してください」
あっさり、謝った。
脅しは効果があったみたいだ。
別に俺だけが狙われたなら、寛大に見ると決めている。
そんな事より、なぜ、子供が俺を殺そうとしたのか? そこが一番の問題だ。
「いいよ。でも、なんで僕を殺そうとしたか、教えてくれるかな」
「分かったよ。僕達が、君を蹴った理由は――」
子供たちは他種族は竜人を見世物にする。最悪な種族ばかりだと教えられた事を言った。
「僕はそんな見世物なんてしないよ。ほら、僕の方が見世物にピッタリに見えるでしょ」
石を爆発させた子供の方が、見世物になる。そう考えさせて、同情を誘った。
「そうだね。あなたの方が特殊そうだよね」
「うんうん。そもそもこの里に居られる時点で特別な理由があるよ」
「二人の言う通りだね。僕も彼が人を攫ったりする様には見えないよ」
「君自身の性格も知らずに蹴ってごめんなさい」
五人の中の四人が共感をしてくれた。作戦は成功だろう。
ただ、一人を除いては。
「みんな。どうしたんだよ。こいつは人族なんだぞ、子供であっても注意しろって、さっきミラさんが言っていたじゃないか」
まだ、俺のことが認められない様だ。
それより、他種族を注意しろと言ったのは、ミラらしい。
俺と出会った後に子供たちに教える。あの野郎、完全に悪意があるな。
「ミラさんに会いに行ってくる」
少年が走って行ってしまった。あの子だけは俺を蹴ってもあまり疲れていなかった。
他の子と話したいが、納得していない奴をそのままにすると後が面倒だ。
ついでにダンジョンの場所を知りたい。実はそっちな方が本命だったりする。
俺は走って行った少年を《身体強化》を使って追いかけた。
――――――
走って追いかけていると、少年は森の中に入って行った。俺も森の中に入った。
森で少し走っていると、滝の音が聞こえて来た。少年は滝がある所に向かって走っているみたいだ。
「なんで、みんなはミラさんの注意を守れないんだ」
独り言が聞こえ、少年が止まった。少年の目の前には滝が流れていた。その滝の中に少年が入って行き、出てこなくなった。
俺も滝を濡れながらも突撃をした。子供たちに蹴られたよりも強い衝撃が体を襲った。滝を抜けた先には空洞があり、その中にダンジョンの入り口があった。
「よし、ダンジョンを見つけた」
これで、目標の一つを達成した。これで、いつでもダンジョンに行くことが出来る。
しかし、まだ少年と仲良くなれていない。
名前も知らないダンジョンに入った。




