二一話 平和な里
「久しぶり、ユミナ」
竜人の里をユミナと歩いていると、緑髪の女性が話しかけて来た。
「ミラお姉様。お久しぶりです」
「いつも固い挨拶をするね。で、今から老人達に挨拶しに行くの?」
ユミナの姉みたいだ。
俺が元の世界で子供だった時は人見知りだったのを思い出しながら、子供らしさを出す。
ユミナの服を摘まんで後ろに隠れた。
「その子供は誰、も、もしかしてユミナのこ――」
「違います! ただ森で拾った子供です」
ユミナが慌てているが、なんでだろうか。いつも通り、冷静に否定すればいいのに。まあ、気にする事でもないな。
ミラが俺に目線を合わせるように屈んだ。
「そう。ねえ、君。名前はなんて言うの?」
「リュウって言います。少しの間お世話になります」
優しく訊かれて、無視するのは悪い。演技をしたまま、答えた。
ミラが立ち上がった。
「よし、聞きたいことも聞けたし、私はダンジョンの低階層に行ってくるから、ユミナは老人共に挨拶行って来なよ。あいつら、ユミナが帰ってきたと知ったら、喜ぶと思うよ」
老人共って相当嫌われているんだな。会っても無いので俺はどんな奴かはまだ評価しない。
実際に会ってみると意外と良い人だったりするかもしれない。
「リュウ。行きますよ」
ユミナがさっきより少し早く歩いている。
もしかして、ミラって奴が嫌いなのだろうか? ユミナが何も言わないので俺は聞かない。そもそも、そんな事、興味すらない。
――――――
早歩きをしているせいか、すぐに目的の場所に着いた。
この建物は他の家とほとんど同じ作りだが、大きさが違う。周りの平屋の約三倍の広さがある。
「大きいですね。ユミナお姉ちゃん」
「はい。そうですね。ここには老人が住んでいるんですよ」
長老とは言わずに老人と言うのは何故だろうか。
そう考えているうちにユミナが家のドアを開けた。ノックをせずに開けたので、当然、ドアの近くには誰もいなかった。
「ユミナです。誰かいますか」
家の中を走ってくる音が聞こえた。
「ユミナ様ー! お帰りなさいませ!」
白い髭を生やした老人が耳を塞ぎたくなるような大きな声を出した。
「爺や、もうそんなに大きな声を出さないで下さい。恥ずかしいです」
爺やと言えば俺の中では執事を思い浮かべる。気になるな。
「ユミナお姉ちゃん。この人、執事って人?」
「はい。そうです。昔は私の専属でしたが、里を出てからは、長老達の世話をしているんですよ」
予想が合っていたみたいだ。
「ユミナ様、その子供はどうなさったのですか? 竜人族には見えないのですが」
ユミナが執事に俺を森で拾ったという。設定を説明した。嘘は好きでは無いが、他人が作った設定に乗るのは意外に楽しい。
「そうなのですね。初めはユミナ様のお子様かと思いましたが違いましたか」
「私の可愛い弟みたいなものです」
あれ、ユミナって血の繋がった弟がいるはずだが、俺を弟扱いしてもいいのだろうか。
「あのバカで泣き虫なワイルとは違って、賢いですし、強いんですよ」
「ほお、ジョン様以外は強いと言わなかったユミナ様がそうおっしゃるほどなのですね」
執事が俺を見てきたが、まさか「試さしてもらう」 とかは言わないだろうな。もし、言ってきたら、容赦無く無詠唱で《ショック》でも使って気絶させよう。
「試さして貰いたい所ですが、ここで、何か起こすと長老たちが煩くなりそうですからやめておきます」
「それよりも爺や。長老たちに挨拶をしに行きたいのですが」
試すと言った時は戦闘態勢をとったが、杞憂だった。
「分かりました。しかし、今日は会議の議題について話すので、子供は入れません」
「いいですよ。リュウ。私が長老たちと話している間に竜人の里を探検でもしていて下さい。多分長くなるので夕方あたりに家で会いましょう」
「やったー。この里懐かしい感じがするから、観光をしたかったんです」
少し棒読みになったが、一切嘘をついていないので大丈夫だ。
ユミナは家に入って行ったのを見送って、俺は外を適当に歩き始めた。
――――――
里を歩いていると、何人かの竜人とすれ違ったが、髪の色が、赤、青、茶、緑の四色しかない。
実はこれについては理由を教えて貰っている。属性によって髪の色や鱗の色が違うのだ。
赤色は火。青色は水。茶色は土。緑色は風。この様に特化している属性が違う。
ユミナやジョンは特殊な属性と本人達から聞いた。
俺が推測だと、光に特化している可能性が高い。ちなみに俺の姿を消す魔法はジョンが消えたのを元に中学の理科の知識を引っ張り出して作った。
景色とは別のことを考えながら歩いていると周りがすべて田んぼになっていた。周りを見渡しても何も無く変化が無い。
しかし、こんなにのんびり出来る日が来るなんて、勇者だった時は考えもしなかった。
「平和だな、今の時代は」
つい、独り言を言ってしまうほど平和だ。今は種族差別なんて、下らないことをやっているが、五百年前と比べるとマシだと思う。
五百年前は罪のない人が理不尽に殺されていくそんな時代だった。
特にやることも無く、歩いていると俺と背が同じぐらいの少年少女が五人で遊んでいた。子供が遊んでいる所を見ると心が和む。
今の歳なら遊びに混ざれると思い。話掛けた。
「こんにちは」
挨拶はコミュニケーションの基本だ。これで、機嫌を悪くしたり、無視をしてくるようなら、関わりたくない。
子供たちが遊びを中断し、返事をしてくれた。
「こんにちは。君。見ない顔だね。もしかして、竜人じゃないの?」
男の子が話掛けてくれた。しかし、相当、警戒しているようだ。嘘をするのは好きではないので正直に答えた。
「僕は人族の子供なんだ」
答えた瞬間。
瞬時に子供たちが俺を囲み、男の子が俺の顔を一発殴った。




