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十九話 門

 家を荷物を持って出て、整備された道をしばらく歩き、屋敷が見えなくなった。


「よし、ユミナ後は頼んだ」

「はい。分かりました。しばらくお待ちください」


 ユミナが森の方に行ったので、俺は荷物を【アイテムボックス】の中に入れた。

 仲間以外には、スキルを知られたくない。親であっても。


 別に信用していない訳ではない。


 もし、【アイテムボックス】を知られたら、泥棒が出た時に俺が真っ先に疑われる。勇者だった時はそうだった。冤罪は大っ嫌いだ。


『リュウ様。準備が出来ました』


 ガラスで作られているような大型トラックほどの竜がいた。


「よし、竜人の里まで行けるか?」

『大丈夫です』


 この竜はユミナだ。この時代の竜を初めて見たが、大きさは五百年前と変わっていない。


『背中に乗って下さい』


 ユミナが足を屈めて乗りやすいようにしてくれたお陰で楽に背中に飛び乗れた。


『ちゃんと摑まってくださいね』


 翼が上下に動き、一回強く羽ばたいで宙に浮いた。そして、上空に到達した。


 今、俺たちは雲の上にいる。明らかに過剰上昇だ。


 しかし、竜が飛んでいると地上で気付かれてしまったら、迷惑をかけることになる。約束を守れないようなクズにはなりたくない。


 ユミナがスピードを上げた。速度が出た分、風の抵抗が強くなった。このままでは手が少し、滑っただけで地面に向かって落ちてしまう。


「《風流し》」


 オリジナルの魔法なので、名前がそのままだが、この魔法はその名の通り、向かい風を自分に当たらないようにする魔法だ。


 ――――――


 流れる景色を眺めながら、のんびりしていると、ユミナが減速を始めた。


『そろそろ、竜人の里の門です。準備をして下さい』


 空の旅も終わりのようだ。

 意外と楽しかったので、帰りも転移せずに乗せて欲しいと思う。


「分かった。荷物を【アイテムボックス】の中から出すから、少し重たくなる。注意してくれ」


 俺は【アイテムボックス】から、持って来ていた荷物を背負った。その間に地上に着いたみたいだ。


 目の前には弥生時代風の木で作られた門があり、槍を持った男の門番が立っていた。


『【竜化】を解除しますので降りて下さい』


 解除をした時にどんな体勢になるのかが気になるが、門番の竜人に何か言われそうなので飛び降りた。


 ユミナの体が光リ、人の形になった。


 ふと、思い出した。龍人のジョンは【龍化】を解除した時に裸で現れていた。あいつは裸でも心は傷ついていなかった。

 しかし、ユミナは女性だ。男の門番に見られると恥ずかしいだろう。


 すぐにリュックを光っているユミナと門番の直線上に重ね、その上に俺が立つ、更に光の屈折を変える《透明化》を使う。

 きっと、門番から見たら、俺がリュックに立っている所が見えるだろう。


「おい。どうしたんだ」


 門番がこっちに歩いてきた。さっきまで光っている竜人がいたのにいきなり、子供が隠したんだ。どうしたのか気になるのは当然だ。


「ユミナ。大丈夫か。早く服を着ろよ」


 俺は後ろにいるユミナの姿を見たら、服をもう着ていた。


「良かった。もう服を着たのか、じゃあ、隠さなくてもいいのか良かった」

「リュウ様が何を気にしているかは、分かりませんがありがとうございます」


 俺はリュックから降りて、燃費の悪い《透明化》を解除した。


「どうしたんだ。何か問題があったら言ってくれよ」


 門番の男が話掛けてきたが、親身な感じだ。正直、こんな不審なことをした奴に対しての反応としては他の町とは違う。


「あ、私です。門を開けてくれませんか?」


 ユミナが門番に対して、まるで、オレオレ詐欺の様に喋りかけた。


「その綺麗な金髪。そして、透明な竜。はい。間違いなくユミナ様ですね。門はすぐにでも開けたい所なのですが、その子供はどうされたのですか」


 ワイルの奴。子供が来る事を何も説明していないのか? 

 説明をするのは面倒臭い。


「この子ですね。この子は森で捨てられていた所を私が拾って育てています。名前はリュウっていうんですよ」


 無茶な設定な気もするが乗っておいた方がいいだろう。


「ユミナお姉ちゃんに拾われていないと僕は何もできずに死んでいました」


 懐いているアピールをしておく。変なストーリーを作って、嘘を嘘で重ねて、話を広げ無ければ、後は楽だろう。

 それに、相手の設定に合わせるのは意外と楽しい。


「そうだったのですね。すぐに門を開けます」


 門番が俺の方に近づいてきた。


「リュウ坊。ユミナ様の慈悲によって拾われて良かったな、この竜人の村は他種族を普通は絶対に入れないが、子供で尚且つ竜人族が連れて来た場合は大丈夫だ」


「後な」と続けながら、耳打ちで静かに。


「ユミナ様は人族ならお姉ちゃんと呼べる歳ではないんだ」


 俺の背中を優しく叩きながら、教えてくれた。優しさで言ってくれているだろう。


 この善意は嘘に気づいていないことを証明してくれている。心が少しだけ痛むな。


 門番が門に向かって手を振り、ワンテンポ時間が空いた後、門が開いた。


「リュウさ……い、行きますよ」


 ユミナが様を言いかけていたが、大丈夫そうだ。俺も演技をしよう。


「はい、ユミナお姉ちゃん」


 いきなり、俺の視界が高くなった。頭に柔らかい感触がするので、ユミナに持たれているのだろう。俺は()()子供なのでわいせつ行為にはならないだろう。大丈夫、大丈夫。


 そして、そのまま抱えられた状態で竜人の里へ入った。



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