一話 神との対面
今、俺は何故か真っ白い空間にいる。手と足が見える。
どうやら、見える肉体はあるみたいだ。
「まさか、異世界から送還されてすぐ死ぬなんて全く運がなかったな」
俺は異世界から元の世界に送還されて数分の内にトラックに轢かれて即崖に落ちてしまった。
崖さえなければ異世界で培った体術で華麗に着地を決めてやろうと思ったが本当に運がない。
「それにしてもここは何処だよ。精神世界とかそんな感じか」
誰もいない所にいるとつい考えていることをすぐ口に出してしまう。もし、他の人に聞かれていたら、かなり恥ずかしい。
体感時間で一時間ほど経った。今までは何かが起こると思い座ったり、寝転んだりしてその場で待っていたがもう我慢ならない。
「くそ! もう待たんぞ」
どうなるかは分からないがこのまま待機していても何も変わらない。こうなったら、何か行動を起こすために走ろうとした。
すると真っ白い空間に変化が起きた。
真っ白い空間に一部に罅が入り、ゆっくり広がっていく。
「神でも悪魔でも何でもいいから早く出てこい」
正直、悪魔が出てきたら今の俺の肉体では勝ち目はない。敵対しない神が出て来ることを祈りながら罅が広がっていくのを観察する。
罅が大きくなり割れた。そこには、一人の美少女いや美幼女が現れた。
白っぽい灰色の髪を背中まで伸ばしており、眠たそうに眉を細めている。もう一度、言うが美幼女だ。
「やあ、勇者いや元勇者クン。君に話があるんだ」
表情を一切変えずに彼女はゆっくりな口調で言った。かわいいと思うがそもそも、こいつは誰だ。せめて敵か味方かは知りたい。
もし、敵だったら相当の覚悟が必要になる。
彼女が口を開いた。
「そうだね。君の疑問は正しい。私の名前はプラハス。創造神の一柱だよ。あと、神だから君の心を読むことが出来るよ。一応、君を害したりするつもりはない。」
戦うことが無くて良かった。創造神? もし、そんな雲の上の上の奴が敵だったら完全に勝ち目がない。
だが、異世界でも元の世界でもプラハスみたいなかわいい神の銅像もプラハスという神の名前も聞いたことすらないな。
「僕は普通の神と違って信仰を必要としない神だから。あと本題入っていい?」
信仰とか、普通の神とか詳しく知りたいが、プラハスの機嫌が悪くなる可能性があるので訊かないで置いた方がいい。
そんな事よりプラハスは話があると言っていた。面倒ごとだったら嫌だが聞かないと即成仏コースかもしれない。
「君には記憶を持ったまま転生して欲しい」
転生。確か新しく生まれ変わることだったか。
元の世界か異世界かどっちなのか? チートの有無や生まれる赤ん坊に憑依するのかも気になる。もし他の人が入る予定がある体を奪うのは少し抵抗がある。
「君には〈クレスタニア〉。君が勇者をやっていた時の世界に行って欲しい。体は本来死ぬ予定だった体に入ってもらう。チートは君が望むなら基本なんでもあげるよ」
プラハスは手を二本立て、話を続けた。
「ちなみに【鑑定】と【アイテムボックス】のスキルは転生した人には絶対に付与されるからね」
なんでこんなにやってくれるかは分からない。
でも、チートは要らない。
勇者の時がチートが多くどれも強力過ぎた。
俺にとって何者かに代償も無しに与えられた力は卑怯な気がする。
他の人は頑張って手に入れた【スキル】を自分は転移してきた勇者だからという理由で入手してあたかも自分の力だと見られるのはもう嫌だ。
「チートは要らないのね」
プラハスは急に真剣な顔になった。ただ目をちゃんと開けただけで他は無表情のまま変わっていないので俺には分かりにくい。
確実に空気が変わった。
「僕がいや、僕たちが君にこんなにやるのは、送還ミスのお詫びなんだ」
そうか、あの送還はミスがあったのか。確かにあんな死ぬ可能性が高い所には送らないよな。せめて、家族へ挨拶ぐらいはしてから死にたかった。
「本当にすまなかった。だから、〈クレスタニア〉に転生して楽しんで欲しい」
まあ、トラックを避けれなかった俺にも責任があるからな。
それに、死体があれば家族にはあまり心配をかけることはないだろう。
自殺者がよく来ることを書いてあった崖だったみたいだし何か月に一回は死体の回収っぽいことをやっているだろう。
かなり冷たい気がするがこのぐらいの精神はもう持っている。
「そろそろ、送っていいかな?」
転生か。死ぬ間際に願ったことが叶うなんて、これで《魔法》も【スキル】も≪レベル≫もあるあの世界に行ける。
「やるよ」
プラハスが手を俺に向けた。視界が歪み始めた。
意識がなくなると同時に俺は願った。
今度の人生では面倒臭いことと関わらなくても済みますように。
――――――
リュウが居なくなり、プラハスだけとなった真っ白い空間に罅が3つ入る。そこから3人現れた。
『創造神様。参上いたしました』
3人がプラハスに跪く。
一人は白く長い髭でスキンヘッドの老人で黒いローブを着ており、跪くために脱いだのか黒いとんがり帽子を置いていた。
また、一人は赤髪で普通の男に見えるが右腕に鱗がびっしり生えているその鱗は初めて見る人間は驚愕するだろう。龍の鱗だと。
残りの一人は白髪で真っ白いローブを着ている。腰のあたりを見ると右の腰に剣を刺し、左の腰に刀を差している。鞘を見るだけでも神々しいと思える。
「魔法神、龍神、武神。どうしたの」
やる気のない声で、プラハスは訊いた。
「私が答えましょう」
白髪の老人が立ち上がり一歩前に出る。
「リュウが死んだのは我々にも原因があります。創造神様のみがお詫びされるのは、我々も我慢できません」
「魔法神。リュウはチートは要らないと言っていた」
老人。いや魔法神は悪い笑みを浮かべる
「リュウは与えられた力のことをチートと思っています。なら、才能という形にしてばれない様にすればいいのではないでしょうか」
「その手があった。でも何をするの」
右腕が鱗の男と剣と刀を持っている男が立ち上がる。
「そのために我らが集まったのです」
右腕を鱗の男。いや龍神が一歩前に出る。
「我らにも償いをさせてください」
残りの武神も一歩前に出る。
「分かった。会議をしようか」
上位の神が三柱、さらに創造神もいる。神を信仰しているものからしたら異様な光景だろう。さらに集まった理由が一人の人間のためだと知ったらどうなるのだろうか?
――――――
「それにしてもリュウが勇者だった時の何年後の世界に行ったんだろう」
プラハスが悩むように顎に手を当てる。
「プラハス様がこの空間に来るまでここは時間の流れが早すぎましたよね。なので、〈クレスタニア〉はざっと五百年後ぐらいでしょう。ちなみに人類は退化をしております」
魔法神は己の考えをプラハスに伝える。
するとプラハスは片目を器用に閉じ、〈クレスタニア〉の様子をみる。
「うわ、人類退化しすぎ、リュウにあげる能力。やりすぎた」
プラハスは口に手を当て自分のしたことをほんの少し反省する。
「でも、リュウがこの時代の世界を楽しめればいいか」
反省の色が完全になくなった。
「リュウの人生を観察するからみんな帰っていいよ」
「「「失礼します」」」
白い空間に罅が入り。魔法神、龍神、武神が帰った。
――――――
「リュウは僕をかわいいと思ってくれたんだよね」
プラハスは照れるように微笑んだ。そんな事、リュウは知る余地も無かった。