十八話 竜人族
森の中で女が、男を叱り、男は地面の上に正座をして、反省するように下を向いている。
今状況を全く知らない人から見るとそう見えるだろう。
時は少し戻り、ユミナがワイルを森に連れ出した時になる。
――――――
「ワイル。あなた、リュウ様に火傷を負わせようとしたわね。リュウ様はお強いから、無傷だったけど、もし、怪我を負わしていたら、あなた、死んでいたわよ」
「悪かったって、お姉ちゃん。俺もいきなりで慌てていたんだよ」
俺は傍観するしかない。別に口を出してもいいが話を振られると返すのは面倒臭い。
「それよりもさ。俺があの子供に負けると思ってるのそれは無いね」
「知らないって、恐ろしいわね。あなたの攻撃なんて、リュウ様にとってはただのお遊びよ」
ユミナにとって俺はどんな存在かはよく分からないので、何とも言えないが、流石に俺でも龍のブレスは本気で守りに入るか躱さないと今の体だと瀕死になってしまう。
ワイルの強さは知らないが、元仲間の龍人、ジョンの十分の一は威力があったら、少なくとも、じゃれ合いでは済まない。
「俺は納得いかないな。試してやるよ」
ワイルが息を大きく吸って、火の玉を俺に向かって出して来た。大きさは野球ボールを少し大きくした感じだ。正直小さい。
息を大きく吸った時点で、火を消すために水魔法を使おうかと思ったが、あまりの弱さにやめた。
「《火玉》」
こちらも同じほどの火球を出して、ワイルのブレスを相殺をした。
「え、手加減したとは言え、ブレスを一瞬にして消すなん――ぐは」
ユミナがワイルの後頭部殴り、地面にキスをさせた。顔面からは痛そうだな。
「あんた。本当にブレスを吐いてどうするの。リュウ様、すいません。弟もただ好奇心があっただけです。どうか殺すのだけは」
「いや、俺は攻撃して来た奴を無差別に殺す気はないぞ。じゃれ合いでは殺そうとは思わない」
「良かったです。ダンジョンにいた盗賊みたいにすぐに殺してしまうのかと」
どうやら、ユミナは俺が攻撃をして来た人を全員殺すと思っているらしい。別に盗賊みたいなクズはさっさと殺すが、好奇心だけの相手なら、痛い目を見て貰えば殺しはしない。
「ワイル。座りなさい。あなたとは少し話さないといけないことがあります」
「え、お姉ちゃんの話って、長いから嫌なんだけど……」
「早く。座りなさい」
「はい。すぐに座ります」
そして、冒頭に戻る。
――――――
「あなたは本当に愚かです。毎回、人の注意も聞かずに動いて、本来ならリュウ様に殺されていても文句を言えない立場ですよ」
「はい。すいませんでした」
「また、すぐに謝る。少しは反論が出来ることをやったらどうなの、私が里を離れる前に何回も言ったでしょ」
かなり、理不尽な説教な気もするが、元の世界の親友も内容が違うが姉にこんな感じに怒られていた気がする。
ワイルの容姿がよく分からなかったが、よく見ると、赤髪でジョンみたいに整った顔つきをしている。
このままだと、ただワイルが説教をされるだけで、何のためにワイルが来たのか分からなくなってしまう。
「まあ、ユミナ。説教はこの辺にして、ワイルがなんでここに来たかを聞かないと」
「あ、すいません。忘れていました」
「そうだった。お姉ちゃんに伝えないといけないことがあったんだ」
ユミナが忘れていたのは、まだ、分かる。来た本人が忘れているのは問題だと思う。
「里に一度帰ってこい。って頭の固い長老が言ってたんだ。用件は言っていないから、何をするかは分からないけど、今回は戻って来た方がいいよ」
「いつも、無視をしているのに今回は。って、どういうことなの?」
ユミナが質問をしているが俺には里とか長老なんて、さっぱり分からない。
「いつもはつまらない会議をするためだと知って、里の外にいる竜人族はあまり集まっていなかったけど、今回はお姉ちゃん以外の人はもう帰って来ているんだ」
「私以外の人が全員ですか」
ここまでの話を俺なりの理解だと、ユミナ以外も滅多に里に帰って来ないのに今回は帰っているという異常な事態だということなのだろう。
「じゃあ、私も行かないと行けませんね。でも、専属メイドの仕事はどうしましょうか」
「そんな仕事休んでしまえよ」
ユミナの仕事意識はとても高い。どうやら、ただ休むのは嫌らしい。
「私がいない間に他のメイドが代わりをやるのは個人的に嫌です。休暇にならない方法は無いでしょうか」
俺に質問をして来た。一応、案がある。
「俺が竜人の里に視察という形でユミナと一緒に行けばいいんじゃないか」
「いいですね。でも、あの頭の固い長老たちが人族を入れてくれるのでしょうか」
確かにもし、欲深い人間に見つかってしまったら珍しい竜人なんていたら誘拐されてしまう可能性もあるので、簡単に里の場所は教えてはくれないだろう。
「いや、大丈夫です。リュウ様はまだ、体は七歳児。子供ならば、同伴で入れたはずです」
「え、お姉ちゃん本当に連れて行くのか」
「ええ、勿論です」
子供だけなら、竜人と同伴なら入ってもいいらしい。子供には緩いみたいだ。
この際、利用できるものは利用しよう。例え、自分の体でも。
「後は、リュウ様の今の両親を説得すればすべて解決です」
「それは俺がやっておくよ」
適当に村を見てみたいと言えば、あの家なら、何とかなるだろう。
何より、竜人の里に興味がある。
「まあ、子供だけなら何とかなるだろうな」
どうやら、すんなり、竜人の里に行けるみたいだ。
ワイルが来て、一日後。俺はユミナと共にロイの部屋にいる。
竜人の里に行くために交渉をしないといけない。
「ということは、リュウはユミナの里帰りについて行きたいということだな」
「はい。そうです」
竜人の里とは言わずに竜人の里の近くにある村に行く設定で話をした。
「社会勉強をするのは大切だから、行くのはいいんだ。しかし、その村でちゃんと修行を出来るか」
物分かりのいい親で良かった。後は修行についてだな。
「はい。そこのユミナの故郷の村にはダンジョンがあります。なので、魔物が修行の相手になります。更に、ユミナが言うにはやけに体術が上手い老人がいるそうなので、教えて貰おうと思います」
一応。嘘ではない。竜人の里にはダンジョンがあリ、体術が得意な老人もいるらしい。
「分かった。条件を言うぞ、これを守らないと家から出すからな」
俺は三つの条件を言われた。
一、貴族であると言って、威張って、村の人に迷惑を掛けないこと。
二、ダンジョンで無理をして、家に救助を要請しても、助けに行かない。
三、二人で生きて帰ってくること。
この三つだ二つ目が少し冷たい気がするが、これも一つの家族としての愛の形だろう。
「それでいつから行くんだ」
質問をされた。時期については俺は何も知らない。
「そうですね。今日には歩いて出発したいですね。少し、急げば、二日以内には着きます」
「馬車はいいのか」
「大丈夫です。それと私の村は馬車などを嫌う少し変な村なんです」
設定が強引な気もするがいいだろう。
「なら、リュウ」
「はい。なんでしょうか?」
「ユミナは女性だ。そして、リュウは子供とはいえ、男だ。荷物はどうする。これ以上は言わなくても分かるよな」
俺が荷物を運べということだ。妻子持ちのイケメンに言われると、説得力がある。
「じゃあ、もう僕たちは行ってきます」
部屋のドアの近くに置いた荷物を持って外に出た。
出発が早いかもしれないが、一刻でも早く竜人の里に早く行きたい。




