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十七話 不審者

 俺はダンジョン[嫉妬ジェラシー]を安全に降りる方法が思いつかずに一年の月日が経ち、七歳になった。


 元の世界だと小学校に通っている年齢だがこの時代の学校は十二歳からだ。

 ちなみに、勉強は貴族なら家庭教師を雇えるが、一般人は図書館に行くらしい。


 俺の場合は専属メイドのユミナに教えて貰っている。


「あの時は他国と貿易する政策か、自国で生産を頑張る政策かで悩んでいましたね」

「それで、結局は貿易をすることにしたということだな」

「その時の国民が起こしたデモは凄かったですね」


 ユミナは約二五〇年間いろんな国を旅したらしく、当時起こった政治や暴動について、当事者の目線で教えてくれる。


「今日の勉強はここまでですね。リュウ様は歴史以外は私以上に出来るので、歴史の人物の名前(・・・・・)さえ覚えると今から受験をしても、合格すると思いますよ」


 歴史・・以外の科目は五百年前と同じが簡単になっているものがほとんどだ。例えば数学なら、四則計算しかやらなくてもいい。高校の難しい計算はやらない。


 しかし、歴史になると途端に難しくなる。何処の国の誰が、何の政策をしたかを暗記しないといけない。完全に苦痛だ。

 更に人の名前は一日寝たら、いや、三歩以上、歩くと忘れてしまう。


 この勉強会が三日に一度ある。勉強する間の二日は修行という名の運動や模擬戦をやった。こんな生活を一年間続けた。


 ――――――


 ある日の夜、俺がいつものように寝ていたら、【魔力感知】で部屋の近くにいる存在を感知した。


 メイドが散歩でもしているのかと初めは思ったが、感じたことの無い魔力だったので、飛び起き、戦闘体勢になった。

 

 『クウ。もし、相手が強かった時に逃げられるように準備を頼む』

 『分かりました。でも、リュウに勝てる奴なんて、そうそう居ませんよ』

 『どんなに強くても、自惚れをしたら、あっさり死んでしまうからな』


 勇者の時に戦った魔族の大抵が自惚れて、油断をしていた。そのお陰で奇襲が楽に出来た。俺もクズな魔族の様にはなりたくない。


 クウに作戦を伝えている間に扉が開こうとしている。俺はすぐに《身体能力強化》を発動させ、テーブルの下に隠れた。


 扉が開き、フードを被った奴が入って来た。まだ、性別や敵味方かすら分からない状態だ。

 友好的な人の可能性があるので、今は攻撃をしない方向でいこう。


 不審人物は、俺のベットの毛布を持ち上げた。もしかして、俺の命が狙いなのだろうか?


「くそ。ここも違ったか」


 男のような声がした。

 

 ここまでの情報で推測すると、まず、声からして不審人物は男で、誰かを探している。

 そして、「ここも」ということは他の部屋も見たということだ。気持ち悪い。メイドの寝室にもし入っているのなら、目的によっては殺そう。


 男が部屋を出ていくので、後ろからこっそりとついて行った。メイドの部屋に入ろうとしたら、目的がなんであろうと攻撃する。


 俺の隣の部屋に男が入って行った。あそこは部屋は物置なので、どうでもいい。


 ――――――


 この後も男は隣の部屋を調べては次の部屋と入って行った。しかし、何故かロイとクレアの部屋は飛ばしていた。


 そして、とうとう男はメイドの寝ている部屋に入ろうとしている。それも、ユミナの部屋だ。この屋敷は広さだけはあるため、メイドに個室が与えられている。


「そろそろ、疲れて来たな」


 男が独り言をしながら、部屋のドアを掴んだ。瞬間、俺は、男の首を絞める形で抱きついた。奇襲は卑怯かもしれないが、命が掛かっている時には仕方がない。


「ぐっ。息が、クソ! ここで、バレてしまうとは」


 余裕のある口ぶりだ。


 俺の勘が危険を伝えてきた。俺は勘に従って男を離し、後ろに跳んだ。離れた瞬間。

 男から、熱が発生しているのか、熱い風が男を中心に発生し、男のフードが外れた。


「誰かは知らないがいい反応だ。剣聖の部屋はスキル【危険察知】で入っていないはずだ。なら警備兵って所か?」

 

 男がフードが外れた状態で俺の方に振り向いてきた。暗くて見ずらかったが、男の頬には赤い鱗が生えていた。


「俺の正体を知ったからには死ぬ覚悟はあるだろうな」


 頬の鱗を撫でながら俺の頭上の方をを睨んでいた。この男は竜人族の奴だ。熱量からみて、龍ではないだろう。


「隠れたか、いいぜ。すぐに見つけてやるよ」


 何故か、俺に気づいていない様だ。完全に敵なら、不意打ちをしてもいいが竜人族がわざわざ来るということはユミナに用事があるのだろう。

 話を聞くだけの価値はあるだろう。 


「こっちだ」


 俺の位置が分かるよう声と両手を振って居場所を伝えた。


「え、なんで子供がこんな所にいるんだ」


 男からの熱気が一瞬にして止まった。どうやら、子供相手だと、攻撃をしようとは思わないらしい。

 

「ユミナに用事があるんだろ。竜人さん」

「俺の姉が竜人族だと何故分かった!」


 有無を言わせないような声で俺に質問をしてきた。


 質問の内容から考えると、この男はユミナの弟だな。これは都合が(・・・)いい。


「説明が面倒臭い。ということで、後はユミナに任せる。後は頼んだ」

「はい。分かりました。ワイトここでリュウ様に何をやっているの? ちょっと、外で話しましょう」


 ユミナは男が謎の発熱をした後にすぐに部屋から出ており、ずっと怖い笑顔をしながら男の後ろに立っていた。


「ね、姉ちゃんいつの間に俺の後ろにいたんだ。いや、そんなことよりのこのガキとの関係はなんだ」

「まあ、まずは外に出ましょうか」


 ユミナがワイトの後ろ首を回り込んで掴んだ。そのまま、後ろの窓から、森の方へと出て行った。


 ちなみに窓は俺が開けておいた。窓ガラスを割って外に出ていくのも雰囲気が出て面白かったが、音で他の人を起こしてしまうのは迷惑だ。


 俺もユミナ達について行くように森に向かって歩いた。



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