十六話 崖
盗賊を殲滅してから、三日後に俺たちは前と同じようにダンジョンにやって来た。
「今回こそ十層目に行こう」
「はい。もう盗賊はもうこりごりです」
血が飛び散って服が汚れて、洗うのが面倒臭かった、もう、クズとはいえ、人とはあまり戦いたくない。
「今回はもし、襲われそうになっても、無視しようか」
「賛成です。もう、あんな奴らとは関わりたくないです。スキル【最適ルート】」
九層の途中からのスタートなので、十層目への階段は五分ほどで見つけられた。
「次の層で最後ですね」
「いや、まだ崖の下に何かがあるかもしれない」
絶対に何かがあると確信しているが、ここで、言ってもいいが、勘だけを証拠に説明するのは面倒臭いのであるかもといっておく。
「行きましょう」
ユミナが先行して階段を下りてくれているので、俺もついて行く。ここで、イケメンの正義感の奴なら無駄に前に出たがるだろうな。
階段を下りた先にすぐに崖がある訳では無く。いつも通りのダンジョンの道が続いていた。
しばらく、歩き続けたが道に分岐がある訳でもなく。魔物が現れることもなく。まっすぐの道を歩いた。荷物を持って来ていたら、この移動は辛いと思う。
少し、歩いた先には円形に広がった。真ん中に橋が架けてある大きな穴があった。
下を覗くと、一寸先は闇の光景が広がっていた。
おかしいな、ダンジョン岩は発光する性質があるのに、崖の下が暗い。
明らかに、別のもので作られている。
「下が暗くて見えないが、ダンジョン岩なのか?」
「ちょっと待ってください。スキル発動【鑑定】」
暗い所を【鑑定】しているみたいだ。
「すいません。分かりませんでした。すべて、??? と出てきます」
そう簡単には、教えてはくれないか。でも、壁自体が明るくないなら、光を崖に落とせばいい。
「《光》」
光の玉が目の前に現れた。その光を掴んで、崖に落した。意外と近い所に地面があるかもしれない。
「見えなくなりましたね」
光の玉が飲み込まれる様に消えていった。正直、期待はしていなかったので、気にすることは無い。
「橋の先には何があるんだ」
「私は何も分からないので、行ってみましょう」
ユミナの方から、提案をして来るのは珍しい。今は仲間だ。
これからも、意見や提案はどんどん言って欲しい。
俺たちは不安定なつり橋を渡って行った。別に怖い気持ちは無いので、恋愛とかである、吊り橋効果は期待できそうにないな。
つり橋を渡り終わり、前と進んだ。
結論から、言うと行き止まりだった。しかし、目の前に壁があるわけではない。崖があるのだ。遠くに渡ったつり橋が遠くに見える。
「このダンジョン。どんだけ、人を崖の中に入れたいんだ!」
つい、独り言を言ってしまうぐらい思ったことだ。集団転移されて、残念スキルだった奴が、落とされるテンプレの崖に見える。
勝手な妄想になるが、奈落の底の異常に魔物を残念スキルだった奴が、工夫をして倒して、レベルを上げ強くなって、地上に戻る。そして……あれがこうなって。ざまあ展開を。
「リュウ様。どうかなさいましたか」
!?。どうやら、妄想に夢中になってしまっていたらしい。
「もう。今日は帰ろうか。崖を降りる方法を見つけないとな」
「はい。分かりました」
今は崖を降りる方法が思いつかない。
このまま、何もせずに帰ると悔しいので、憂さ晴らしに適当に拾った石に魔力を入れ、爆発をイメージした。
その魔力を込めた石を、崖に投げつけた。手加減せずに魔法で作った爆弾だ。落下した所は、地面が抉れているだろう。
もう、帰る。いつか、降りる案が閃く日が来るだろう。
クウに頼み。俺たちは転移をした。
――――――
「しばらくは、ダンジョンに行かない」
[嫉妬]を十層まで攻略したので、しばらくは用事は無いだろう。
「次行く時は、崖を降りる方法を入手した時だな」
「じゃあ、これからはリュウ様には歴史の勉強をしっかりやって貰いますよ」
ダンジョンに行っていたせいで勉強を全然やっていない。
「分かった。今日は休んでいいか」
「分かりました。三日後から頑張りましょうね」
ユミナが部屋から出ていくと同時にベッドにダイビングする。
「歴史は面倒臭いな。将来、何の役に立つのやら」
元の世界にいた時も思っていた疑問だ。別に昔の政治を知るのはいいが、誰がやったとかは正直、どうでもいい。
そんな事を覚えるよりは、理科の用語や数学の公式を覚えたほうが、何倍も楽しいし役に立つ。
「まあ、学園生活を満喫するためには仕方がないか」
ため息交じりに呟いた。
この時代には学校が少ししかない。国単位で作った学校や、複数の国が作った学校があるが、冒険者に関する学科があれば、どこでもいい。
しかし、どこの学科でもある程度の学力は必要らしいので、今は勉強をしないといけない。
大きな学校に入れば、まだ見ぬ、強く面白い奴が居ることを信じている。
ダンジョンの崖を降りるのと入学。どっちが先になるんだろうか?
勇者の時の力があれば、崖を飛び降りる事位。簡単だったのにな。
自ら捨てたものを今更、願っても仕方がない。
歴上の人物の似顔絵を見ながら睡魔と戦った。




