十四話 〈嫉妬〉探索開始
俺とユミナは秘密を明かしあったが、ここはダンジョンの中だ。そのまま、のんびりできるはずも無く。
「ぐぎゃ!」
ゴブリンが現れた。ただの雑魚だが、下手をすれば殺される可能性もある相手だ。
「私の力も見せましょう」
どうやら、ユミナが戦ってくれるみたいだ。今の龍人族の力を見させて貰おう。その間に【魔呼吸】を使って、魔力の回復をしておく。今の魔力では屋敷まで帰れない。
ユミナがゴブリンの近くに歩いて行く。
「てい」
かわいい掛け声とともにゴブリンが吹き飛ばされた。
飛ばされた、ゴブリンはテレビなら、全身にモザイクが掛けられるほどの状態になっていた。人の状態でこんなに出来るとは、既にジョン並みだ。
「流石、竜の上位種である龍は違うな、少し、殴るだけでもゴブリンが見るも無残な状態になるなんてな」
「え、私はまだ上位種の龍ではありませんよ。長い歴史を見ても、お父さんぐらいですよ。上位種の龍になれたのは」
「なら、あのゴブリンの悲惨さは何なんだ」
あの、力を軽々と出したんだ。あれで龍じゃないとしたら、なんなんだ。
「この、ゴブリンは五百年前に比べても、かなり弱いですし、私はこれでも、返り血が掛からないように、本気で殴りました」
この、ゴブリンは弱いらしい、正直な所違いがよく分からない。なぜなら、今の時代も五百年前のゴブリンも弱いかったからだ。
「ユミナの力は見させて貰ったから、次の階層に行こう」
いろんな事があって、忘れていたが俺たちはダンジョンの探索に来たのだ。
「そうですね。ついて来てください」
ユミナが歩き出した。ゴブリンの死体のところに錆びた剣があったので【アイテムボックス】の中に入れてからついて行った。
五分ほどで次の階層への階段が見えた。ここに来るまでに転移が出来るまでの魔力は回復した。これで、屋敷に帰れそうだ。
「よし、今日の探索はここまでにしよう。力を証明するために魔力と体力を消耗しすぎた」
「はい。分かりました」
本来なら十層目に行きたかったが、今日の告白は大切だ。
『クウ。頼む』
『はい。分かりました。あ、後、暇なときでいいんで、さっきこの女性にしていた話を詳しく教えてくれませんか? 寝ていたんで気になる会話をしているなとしか分からなくて』
まだ、クウには俺のことを伝えていなかった。夜にでも伝えておこう。
『分かった。今日の夜に話そうか』
『ありがとうございます。では、転移します。《長距離転移》」
一瞬にして景色が変わるこの移動にも慣れてきた。便利なので移動をクウに頼り切ってしまいそうだ。
「私はこの移動には慣れそうにないです」
これからもユミナには転移を体験してもらうのですぐに慣れるだろう。
「今日は、一層しか進めなかったけど、次からは二層ほど進もうと思う。ユミナはどう思うか?」
「はい、大丈夫です。でも、リュウ様が一人で行かれるのは反対です。あとは……」
ユミナは俺にいくつかの条件を付けてきた。
一人でダンジョンに行かないこと。ユミナ以外のメイドを危ないので連れて行かないこと。転生したことを他人に言わないこと。
別に守れないわけではないが、ここまで、言われるとは思わなかった。
「じゃあ、俺は、しばらくこの部屋で本を読んでいるから」
「分かりました。私は通常業務に行ってきます」
俺達はダンジョンに行った以外はいつもの生活をした。
その日の夜。俺は、クウに話掛けた。
『クウ。。起きているか』
『はい。起きています。あの、話をしてくれるんですよね』
俺はクウにも俺が勇者だったことを伝えた。
『納得ですね。魔力の流れが、五百年前の勇者にそっくりだったので、予想は付いていました』
予想はされていたのか。
『僕としては、憧れの勇者様と契約出来て良かったです』
クウにも秘密を明かしたので精神的にかなり楽になった。秘密は一人で抱え込もうとすると、意外とぼろが出てしまうことがある。
『今日はありがとな。これからも移動を頼む』
『はい。こちらこそよろしくお願いします』
夜はダンジョンに行かずに寝た。
――――――
三日が経った。今日はユミナとダンジョンに行く日だ。
この二日間、ダンジョンに行けないのは苦痛だった。
「ユミナ行こうか」
「はい。行きましょう」
前と同じようにクウに《長距離転移》を発動してもらい。ダンジョンへ移動をした。
「じゃあ、今日は六層まで、頼む。前は、一層しか進めなかったから、早く行きたい」
「はい。分かりました。危険な様ならすぐ帰りますよ。スキル発動【最適ルート】」
本来なら、五層までだが早く崖を見てみたい。
三層目に入り、俺たちがが歩き続ける事ほんの三分で次の階層への階段が見つかった。
「今回は近くにあったな」
「はい。そうですね。たまにですけど、近い場合もあります。しかし、その分初めて来て、私の様なスキルが無いと、全く別の方向を探していた。なんて、良くあるらしいですけどね」
「ユミナがいなかったら、時間が掛っていたよありがとう」
俺一人だと、下手をしていたら見当違いなところをずっと回っていたかもしれない。ユミナがいて良かったとつくづく思う。
「それにしても、この層の魔物に出会っていないがいいのか」
「はい。リュウ様が戦う気が無ければ戦わないという手もあります」
正直、このダンジョンの魔物自体には今は興味はない。別に魔物狩りやレベリングはユミナがいなくても、出来るので優先順位的にはさっさと次の層へ行くことだ。
「魔物は今回はいいや、早く十層目にある崖に行こう」
「分かりました。では進みましょう」
――――――
俺たちはこの調子で素早く六層目まで降りて行った。ちなみにどの階層も【最適ルート】があると五分ほどで次の階層への階段があったので魔物に出会っていない。
「今日はここまでにしようか」
「はい。それにしても、リュウ様の精霊って本当に便利ですよね。普通の冒険者なら戻りのことも考えてスムーズに行ったとしても、それ以上は進まないですけどね」
どうやら、クウの力は他人から見ても便利らしい。確かに空間操作を出来る能力は五百年前でも相当珍しい。更に、クウみたいに魔力効率が良くないなどのデメリットがあるからな。
「ああ、そうだな、あと俺の精霊はクウって名前があるんだ」
「そうなのですね。クウちゃんはすごいですよね」
ちゃん付けをされているがクウ的にはどうなのだろうか。
『全然、大丈夫です。むしろ、若く見える女性からだとその方が良いです」
本人がよければ、それでいいと俺は思う。
『あ、そういえば、移動でしたね。行きます。《長距離転移》』
クウが思い出したかの様に転移を使った。
外はまだ明るかった。夕方まで探索しても良かったが、行けたとしても、ユミナが言うには七層目が長いらしいので、中途半端なところで探索をやめるよりは今止めておいた方がいいと言われた。
「この移動は少し、酔いそうになります」
悪化している気がするが、大丈夫だろうか。
「移動が辛かったら、はっきり言ってくれ」
「はい。分かりました」
ダンジョンの中で倒れられたら大変だし、面倒だ。
「今日はもう、戻ります。リュウ様はお勉強を頑張ってください」
「いや、今日はこの部屋にいて貰ってもいいかな、ちょっと本の内容で分からないところがあるんだ」
別に分からない所なんて一つも無いのだが、ユミナが気分が悪い状態では、職場に戻したくない。
「まあ、ベットにでも座って待っておいてくれ、俺はちょっと水を取りに行って来る」
部屋にある。高級ベッドを指さしてから、俺は扉から出て行った。
俺は、水の入ったガラスコップを他のメイドが持っていた分を貰って、部屋に戻ってきた。
部屋では、ユミナが俺のベットに寝転んでいた。別に、構わないのだが、まあ、いいだろう。
「ユミナ。水を持って来たぞ」
「あ、すいません」
ユミナが慌てて、ベットから起き上がった。一体何をしたかったのかは分からないが、いいだろう。
「え、私の分もあるのですか、ありがとうございます」
俺は、コップをユミナに渡した。ユミナの反応を見る限り、俺が自分の分だけを取りに行ったように思ったのだろうか。
「まあ、飲め」
一応。飲むことを促し、俺はコップの水を飲み干した。まだ、飲み足りないので、《クリエイトウォータ》を使い、コップに水を発生させ、もう一杯分飲んだ。
十分飲んだので、ユミナの方を見てみるとコップの中がもうからだった。
「水コップ一杯だけで足りたか?」
「え、…はい大丈夫です」
少し、考えて、いることから、勝手に遠慮している。と思っていいだろう。
「まあ、飲んどけ」
《クリエイトウォータ》をユミナのコップの中に使った。コップのそこから、湧き出るように水が出る。ちょっとした。演出だが、見た目は綺麗なはずだ。
「ありがとうございます。いただきます」
ユミナが覚悟を決めたかの様な顔になり、コップの水を飲み干した。
「まず……くない。おいしいです。魔導で作られた水より、いや、普通の水と同じぐらいおいしいです」
どうやら、満足してくれたみたいだ。
「良かった。まだ飲むか?」
「すいません。いいですか」
「気にするな、このぐらいの魔法なら、魔力の自然回復の方が早いしな」
この後、ユミナはコップ八杯分を飲んでいた。高校生の時の俺でも、八杯は飲まなかったが人種が違うからなのだろうか。気にする必要もないな。
また、三日後に頑張って貰うのだから、気を使うのは大切だ。




