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百話 元勇者の転生

 俺は初めて生まれた世界と剣と魔法の異世界の二つの間を行き来できる。


 死んだ事も創造神の力によって都合のいい改変がされ、すべて丸く収まった。


 元の世界で異世界で得た力を使う事も出来たが、それはあの自由に縛られた男の二の前になってしまうと考えると力を制限する事にした。

 それと誰にも異世界の事は話していない。どうせ言った所で誰も信じないだろうし、教える必要もない。


 二つの世界は()()等しい時の流れを進んでいる。俺の知らない所で次元の歪が生まれこの世界と異世界の時の流れがおかしくなっていたらしい。

 原因が魔王(マクロ)の転生っという時点で笑ってしまったのは仕方がない。


 そんな状況下で日々の消化していた……はずだった。


「この白い空間はなんだ?」

「やっと来てくれたね! しばらく一人だったから寂しかったよ」


 明るい声の少女が胸に飛び込んできた。この空間とこの性格は創造龍クリエイトドラゴンだな。


「はあ、どうしたんだ?」

「えっとねえ。これを見て欲しいんだよね」

「テレビ?」


 目の前に出現したのはブラウン管テレビだった。

 テレビには白黒の砂嵐しか流れておらず、それを見た創造龍クリエイトドラゴンは俺から離れテレビの目の前に立った。


「あれ? 動かないな。動け!動け」


 何回度か創造龍がテレビを叩くとノイズの後に画面が映った。


「は!? なんだ? これは」


 あまりの光景に驚いてしまった。そこに映っているものは俺だった。

 俺と言っても今の俺じゃない。異世界で生を受けた時の俺の体だ。


「これはね。自由に縛られていたリュウの魂と消滅龍デリートドラゴンだよ。完全に独立した世界でこんなに幸せそうに暮らしているね」

「確かに楽しそうにしているな」

「賢い君なら分かると思うけど、私たち創造神は死という概念がないから常に暇なんだよね。それに飽きっぽい性格だから、勇者とかを別世界から連れてきては戻し新しく連れてきてはを繰り返すしかないんだ」


 そりゃあ、人間が八十年生きていても何かしら飽きが来る。限りある人生の中でも、そんな感情があるのなら神や不死身の存在は無限に等しい時間をただひたすら消費するしかない。

 勇者を召喚するのも暇つぶしの一つでいずれ飽きていくお遊びなんだろう。


「リュウだって、やる事が無くなって世界を消滅させたんだからね。別に責める訳じゃないけど、あれには流石の私も驚いたかな」

「あれが俺の一つの可能性っていうのは未だに信じがたいがな」

「別に信じなくてもいいよ。リュウはリュウなんだし、あれはもう別人って割り切っても問題ないよ」

「そんな事より、なんで俺をここに連れて来たんだ? ただこれを見せるだけとは思えないが」


 こちらはいつも通り、普通に楽しい生活を送っていた時に突然ここにいたのだ。それなりに理由があるはずだろう。


「あ! そうそう。今日呼んだのはね。寿命を教えておこうと思ってね」

「寿命?」

「うん。今回の場合は天寿に近いけどね」

「なんで今伝えるんだ?」

「えっとねえ……」


 寿命を伝えられても俺はどうすることも出来ない。人は死んでいくものだということは分かっている。それに関しては抗う気も一切ない。


「この映像を見せたから分かってくれると思ったんだけどなあ」

「まさか」

「一緒に居たい。この無限の時間を一緒に存在して欲しいんだ」


 つまり、俺に永遠を生きろと言っているようなものだ。


「私が飽きたら輪廻の環に戻すから無限じゃないかもしれないけどね」

「別に俺はいいけどな。今の俺が居るのも生き返らせてくれたお陰でもあるし」

「ありがとう。じゃあ、言うよ。リュウの寿命は……」


――――――


 元の世界に戻ってからすぐにマクロに会った。


「どうした? そんなに慌てて。定期テストは来月じゃなかったか?」

「今はそんなことはどうでもいい。俺の寿命はあと()()()だ。何をすればいい?」

「寿命? なんか創造神に言われたか?」


 マクロならすぐに理解してくれるかと思っていたが、多少説明がいるかもしれない。

 俺の考えを読み取ったのかマクロが遮るように手を出した。


「説明しなくても分かる。親友だからな。とりあえず、子孫を残しに行った方がいい。この世界じゃあ色々問題があるが、異世界の方ならいくらでも相手はいるはずだ」

「し、子孫!?」

「もう、ヘタレている場合じゃない。私がリュウに好意がある女性を教えてやるから早く行くぞ」


 子孫を残しに行くという事は確かに必要かもしれない。生命としての意義の大きな一つをしない所だった。マクロが俺の親友で良かった。

 誰かに言われないと俺はヘタレて何もしなかったかもしれない。


 マクロの手を掴み、転移を使った。


 何もない草原に出た。


「まずは剣聖の屋敷だ」


 指示に従い転移を使う。


 異世界で俺を産んでくれた両親とは戦いが終わった後に(シュウ)と一緒に事情を説明し、深く謝った。勘当されても仕方のない事を俺たちはしたのにみんな許してくれた。


 懐かしい屋敷の前に着いた。


 扉をノックすると金髪のメイドが出て来た。


「これはリュウ様。お帰りなさいませ」

「出迎えご苦労。ユミナ」


 専属メイドの龍人ユミナ。彼女と共に俺の部屋に向かった。


「今日はどのような用事があってきたのでしょうか?」

「後で話す」


 マクロからはとにかく雰囲気を大切にしろと言われている。それにもう俺は覚悟を決めている。


 部屋で二人きりになった。この近くには誰も居ないことは確認済みだ。


「俺はユミナの事が……」


 次の言葉がなかなか出ない。こういう時にヘタレという性格は非常に厄介に働く。


「すいません。私は小さい子限定なので」

「へ?」

「リュウ様の事は人間としては好きですが、男としてはもう」


 きっと今の俺は赤面している。そりゃあ人の性癖にとやかく言えない。


「分かった。素直に言ってくれてありがとな」


 転移で逃げる様に場を離れた。


――――――


 マクロに提案された女性に片っ端から声を掛けた。しかし、誰も駄目だった。


「はあ、まさかこんな事になるとはな」

「こうなるなら、ちゃんと恋愛しとくべきだった」

「既に娘はいるのにな」

「それ絶対俺とやりたくないだけだって」


 いくらチートを持っていて、誰よりも強かろうとも女性と出来ないのなら何の意味もない事を思い知らされた。モテても深くまで行けない。


「容姿はいいはずなんだけどなあ」

「おい。そういえば、マクロって元々男だよな」

「ああ。そうだが」

「男と女の考え方って違うじゃねえか!」


 マクロは元魔王の元男で女性と慣性が違う。こいつの意見は大して役に立たない。


「こうなったら邪神とやるか」

「邪神?」

「嫉妬の邪神のレヴィなら行けるかもしれない」


 この際、人間か人間じゃないかなんて関係ない。神であっても女性である事は変わりはないはずだ。


「行ってくる」


 転移で目的の場所に一瞬で着いた。


「レヴィ! 居るか?」


 誰もいないダンジョンの小部屋で邪神を呼ぶ。するとすぐに地面から白髪の女性が浮かび上がって来た。


「お、ひっさしぶり! 元気にしてた?」

「良かった。レヴィが最後の望みだ」

「えっ。何々? 邪神の私が望みになる事って?」

「やらないか?」


 もう、何人にも振られてヘタレとかという次元は超えた。ここまで来ると吹っ切れてなんでもできる気がする。


 レヴィは戸惑いの表情を浮かべた。


「うーん。別にリュウとならやってもいいけど、一つ条件があるね」

「条件?」

「うん。私は嫉妬の邪神だって知っているよね。だからね。他の女とやられたら困っちゃうよねえー」


 もし、やったとしたらもう一生誰ともやれなくなる。


「それでいいのなら喜んで条件をのむ」

「やったー! 他の邪神は傲慢と毎日イチャイチャしているから嫌だったんだよね! これで私も卒業かー」


 俺ははしゃいでいるレヴィを横目に必要な物を創造した。


「初めてだから、優しくしてね」


 俺も初めてだが、ここは強がって無言で肩を寄せた。


――――――


 あれ、絶対に初めてじゃない。確実に何度もやったことのある上手さだった。


「もしかして、そっちも初めてだったの?」

「ああ」

「意外だね。リュウ程の男になれば、大抵の女性はやらせてくれると思うのになあ」

「現実はそんなに甘くはなかったよ。本当にレヴィが居てくれて良かったよ」


 これで俺は一生他人とやれない。異世界に来てハーレムを作る気は一切なかったから別にいい。


「俺はお礼参りに近い事をしてくる。一週間の内に終わればまた頼んでもいいか?」

「いいよ! 創造神様から余命を告げられて大変だね」

「確かに大変だが、こんな我が身を振り返る機会なんてそうそうないからな」

「じゃあ、頑張ってね」


 転移で今まで行った場所の人達に別れの言葉を告げに行った。


――――――


「いやあ、今更考えると多いのか少ないのか。考えにくいな」

「一番の驚きはリュウの友人に大商人がいたことだな」

「俺も驚いた。ソーフスさんがあそこまでやっているとはね」


 移動時間がほとんど掛からなかったお陰で全員に会うまで三日も掛からなかった。


「最後はマクロになるよな」

「私には何も言わなくてもいい。あの世に逝っても私たちは友だからな」


 マクロを元の世界に帰し、俺は最後の最後まで異世界にいた。元の世界には遺体さえ渡せればそれでいい。


「一応買っておくか」


 元の世界に一回戻り、とある物を買った。


 異世界のダンジョンの中で女性(邪神)と会う為に転移した。


「やっと来てくれたね」

「一応。こんな物を買って来たんだ」


 俺が買って来たのは妊娠したかを調べる検査薬だ。これで子孫を残せていなかったら、死んでも死にきれない。

 説明書通りにやって貰った。


「これは出来ているってことかな」


 結果は望んだ通りの物だった。これで、俺は生物としての使命を全うしたと言えるだろう。


「良かった……そしてごめん。俺は育てられない。死んでしまうからな」

「分かってるよ。でも、名前は決めて欲しいな」


 名前。父親になったことを実感させられる。


「……こっちの世界では『ミハエル』。あっちの世界では男なら『文秋ふみあき』女なら『ぬい』にしよう」

「分かったよ! この子の名前はミハエル。邪神が育てるからどんな子になるかは分からないけど、楽しみにしといてね」


 レヴィなら十分やってくれるだろう。


「っう。そろそろ。時間みたいだ」

「じゃあね!」


 笑顔で見送られて俺は幸せがなんなのかを薄っすらと感じれた気がした。


 俺は自分の部屋の中で静かに息を引き取った。


――――――


「やっと会えたね」


 創造龍クリエイトドラゴンが俺の目の前に立っていた。


「死因は心肺停止による脳死だったよ。これで、二回もあった人生は終わりだよ」

「最後の最後に幸せを知れてよかったよ」


 俺はこれからどうなるか分からない。でも、死ぬ前に大切な物を作れた。人生に悔いが無かったと言えば嘘になる。せめて子育て位はやりたかった。


「大抵の人が、いや全ての人はやり残したことがあるんだから。気にしちゃいけないよ。人間の短すぎる時間じゃやり切れないんだ」

「そうだな。っで俺は何をすればいいんだ?」

「とりあえず、私の補佐役ということでやることはあるけどいい?」


 俺の答えは一つしかない。


「面倒臭くなければやる」

「その答えが来ると思っていたよ」


 これで、俺の二回の人生は完全に終わりを告げた。



これにてこの物語は完結です。これまでありがとうございました!


気に入っていただけましたら、ぜひ、評価のほどよろしくお願いします。


もし、よろしければ村岡の作品をハシゴして下されば幸いです。

では、また次回の作品でお会いしましょう。

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