十話 銭湯で情報収集
俺は教会から馬車がある宿まで歩いて行った。特に誰も絡んで来なかったので、スムーズに行動できた。
宿屋の近くに出発の準備の整っている、白い馬車があった。あれはローゼン家の馬車だ。
中ではクレアがイスに座って、買ったであろう服を一人のメイドと共に畳みながら話していた。馬車の近くに行くと会話が一部聞こえてきた。
「ほんと、男ってダンジョンが大好きなのよね。あなたも知り合いで冒険者っている?」
「そうですね。私の村の男たちも一回は冒険者に憧れていましたが精霊数が少ないせいでみんな諦めましたね。腰抜けが多いです」
どうやら、男という生物はだれでも、同じようなことを考えるらしい。でも、精霊数は大きな壁になるらしい。俺みたいに魔法が使えればそこまで精霊数は関係ないが今の時代では致命傷だ。
この会話を聞いていても楽しいが俺は銭湯に行きたいので、馬車にノックをする。
「お母様。リュウです。開けてください」
馬車のドアがすぐに開く。開けたのはメイドの人だった。俺が、不審者の可能性を持って、メイドが開けたのだろう。警備がザルじゃなくて良かった。
「リュウ様。お帰りなさいませ。どうぞ、中へ」
「ありがとう。お母様に用があるから呼んで貰っていいかな」
早く銭湯に行きたいので、直接クレアに話をしよう。そのほうが話が早い。
「リュウ君。どうしたの」
「お母様。銭湯に行きませんか?」
単刀直入だが仕方がない。俺は一刻でも早く、大きい風呂に入りたいのだ。
「いいわね。あれ、ロイは?」
「お父様なら銭湯で待っています。早く行きましょう」
だんだん強引になっているが仕方がない。いっそのこと、クウに頼んで一気に転移してやろうかとも思ったが、やめておいた。
「じゃあ、馬車で行きましょう。そのほうが帰る時も楽でしょう」
「御者の人お願いします。[嫉妬]の近くの銭湯です。
馬車が動き出した。どうやら、御者も会話から、そろそろ出発すること予想してくれたらしい。
銭湯に着くまでに精霊数について聞かれた。
「本当はロイに聞こうと思ったけど、気になちゃって」
「いいですよ。お母様。僕の契約出来た精霊数は一体だけでした」
正直、どうでもいい話だが、ステータスを聞かれるよりはいいだろう。
「それは、可哀そうに。それでリュウ君は冒険者になるの?」
「もちろんなります。精霊は数ではないですし、僕には剣があります」
冒険者は強くなれて、新しい発見もある。ついでにお金も稼げる。男にとって冒険者とは人気なのだ。
「あら、リュウ君すごい。このメイドさんの村の男とは違うわね。流石ロイの血を継いでいるだけはあるわ。あなたもそう思うわよね」
「そうですね。リュウ様は落ち込まれずに冒険者になられようと頑張っていらっしゃているのに、私の村の男ときたらとんだ腰抜けです」
「ね。そうよね。ほんと、腰抜けが多いのよ。それで――」
クレアとメイドの二人で盛り上がってしまった。女性は一度会話に火が付くと止まらなくなる。その間俺は雰囲気的に空気になる。
女性二人が会話をしているうちに目的地に着いたみたいだ。
「お客様。目的地に到着しました。馬車はあちらの宿屋で止めてきます」
「あら、もう着いたのね。さあ、降りましょうか」
俺たち三人は馬車から降りた。目の前には銭湯と日本の湯と書かれた看板がある。ロイの話によると転生者の初代国王が建設を指示した建物らしい。なので、かなり元の世界に近い銭湯の建物なのだ。
店先に暖簾が張ってある。老舗な感じがして、和の心に来る建物だ。
俺が元の世界風の銭湯に関心していると、店から、ロイが出てきた。
「みんな来たか」
「馬車で来ました。帰りはあちらの宿に止めている馬車です」
御者が指さしていた宿屋を伝える。別に伝えなくてもいいが先に風呂を上がったら馬車に戻れるようにしておきたい。
「じゃあ、入ろうか」
ロイを先頭に銭湯に入って行った。建物に入ると受付が真ん中にあり左側に男。右側に女と書いてあるタイプの銭湯だった。すぐに受付に行った。
「五名様ですね。合計で二五ゴールドになります」
「これで、頼む」
ロイが、銀貨を二枚と銅貨を五枚出した。お金は五百年前と同じで硬貨で出来ている。
銅貨、銀貨、金貨の普段の生活で使う硬貨と大きな取引で使う白金貨がある。どの硬貨も元の世界の五百円玉を少し大きくしたぐらいだ。
銅貨は一枚一ゴールド銀貨はその十倍の価値の十ゴールドになる。金貨は銀貨の更に十倍で百ゴールドになる。最後に白金貨は金貨の百倍の一万ゴールドだ。
ちなみに一ゴールドは元の世界の百円ぐらいの価値がある。なので、五人の入浴代は円にすると二五〇〇円になる。一人当たり五〇〇円だ。
まあまあ高い気がするが異世界では風呂自体が貴族が入るものなので平民でも入れる銭湯はこの値段になるのだろう。
「俺とリュウは男の方だから。上がったらここか馬車に行ってくれ」
ロイが指示を出している。この場合自論だが、指示を出している人について行けばいいので、話は聞かなくていい。
「各自。楽しんで来いよ」
解散をしたので、俺はロイについて行って、男湯に行った。この年ならまだぎりぎり女湯に行けると思うが転生してから、特にそういう欲があまり湧かない。
今から、広い風呂に入れると思うと自然とわくわくする。昨日と今日でいろいろと体験したので疲れてしまった。
男湯の更衣室で服を脱いだ。マントの中にスライムの核が四つほど入れたままだった。別に盗まれても構わないが。せっかくの初ダンジョンで入手した物なので、持っておこう。
持っておくといっても手に持っておく訳ではない。【アイテムボックス】の中に入れておく。
俺はこのスキルにはかなりお世話になったので、素早く使える。イメージは真っ白い空間に物を移動させる感じだ。
すべてを【アイテムボックス】の中に入れた。これで、盗まれれそうなものはないな。
そして、風呂への扉を開く。湯気が扉から出る。湯気が晴れたその先には四角い大きな湯船やシャワーみたいな魔道具が十台ほどがあった。昔の銭湯感が出ていて、とてもいい。
湯船にすぐにでも浸かりたいが、まず体を洗おう。誰かが汚れている状態で入ると他人の迷惑になる。そんな奴にはなりたくない。
俺は体を洗うためにシャワーの前に座った。ボタンを押したら、お湯が出てくるタイプのシャワーだ。温度を調整するところがないということは温水を直接出す魔道具らしい。
ボタンを押してみる。温かいお湯が出てきた。少し熱い気がするがいいだろう。
目の前を見るとなんと、石鹸があった。流石、転生者が作っている銭湯なだけはある。俺は石鹸を使って体を洗った。
体も洗ったので湯船に浸かった。疲れた体に温かい湯の温度が染み渡る。人生で楽しい時間はそうそうないだろう。
「ふあー」
肺から温かい息が出る。体が更に快楽に包まれる。
「どうだ。銭湯はいいだろう」
「広いお風呂はいいですね」
ロイが俺の隣に来た。そういえば、ロイは[嫉妬]によく行っていたと言ったな。情報をここで貰っておくか。
「お父様。今日行ったダンジョンは何層まであるのですか?」
「あそこはまだ、誰も攻略が出来ていないんだ」
まだ、攻略者が出ないほど難しいダンジョンなのか。
「魔物が強い訳ではないんだ。十層目で終わっているんだ。でも、ダンジョンコアが見つかっていないんだ。十層目に下が見えないほど大きな崖があって、その先にダンジョンコアがあるんじゃないかって噂があるけどな」
一気に話して貰った。簡単に言えば、集団転生があったら、ラノベの主人公が落とされるような崖があるダンジョンということだ。
「なら、召喚される勇者様なら行けるかも知れませんね」
「そうだな、特に五百年前の勇者様なら平気で降りてしまいそうだがな」
今の時代だと俺はかなり変人に見られているみたいだ。でも、そんな崖があったら、俺なら絶対に降りてやる。
「五百年前と言ったら、俺たちの祖先が勇者様と魔王を討伐しに行っていたらしいな。今でこそ各種族の仲は悪いが、あの時は魔族以外は手を組んで戦っていたんだ」
今日は他の種族を見かけなかった。他種族を気にしないこの国なら、すぐに見つかると思ったが、見つからなかった。
警戒して、この国に来ないのだろうか? 今、考えても分からないな。
この後の会話は初代剣聖ガイゼルの話に持ちっきりだった。俺も元仲間の自慢話が出来ているので、とても楽しかった。
実はロイと話ながら、他の入浴者の話を少し聞いていた。なんと、魔王の話をしていたのだ。しかも、昔のではなく今の魔王についてだ。
「五年もしないうちに魔王が誕生するらしいぜ」
「そうなのか。でもこの国には、Sランクの剣聖ロイがいるから安心だな。あの人に掛かれば魔族なんて、ただの子供に等しいぜ」
どうやら、魔王が誕生するらしい。今の俺は勇者ではないのであまり関係ない。俺に害を与えてきたらたっぷりお礼をしてやる位しか考えていない。
ダンジョンと魔王どちらの情報もついでに入手できた。思い付きで行こうと言った銭湯がこんなに有意義な時間になるとは思ってもしなかった。
俺はのぼせそうになってしまったので、ロイと共に風呂を上がった。本当はサウナとかにも行きたかったが水分が足りないので辞めた。
久しぶりの銭湯を満喫できたので、また来ようと心の中で誓った。




