side 元勇者の仲間 剣聖
「どうした! その程度か?」
「うっせえなクソ親父」
ガイゼルと男が剣を打ち合っていた。
「俺は親として認められて嬉しいぞ」
「気持ち悪いな。グライス・ローゼン。これでいいか」
グライス・ローゼン。それが、ガイゼルと対峙している男の名前だ。
二人はお互いの目を見る。
「ちゃんと魔眼使えているよな」
「当たり前だ。俺の魔眼はお前とは違う」
「確か、未来を視る能力だっけな」
ローゼンの血には二つの能力が備わっている。
魔眼の能力と魔剣を召喚する能力。
「それにしても、その魔剣はどうしたんだ? お前は……」
「そんな喋っていると首が宙を舞うことになるぞ」
「宙を舞う。か。あのクソ魔族にやられた屈辱を忘れるものか!」
急に怒りを露わにしたグライスは攻撃を仕掛ける。
しかし、一度ガイゼルに目を見られると五十秒の間は攻撃が読まれる。
「分かるか? 俺がいとも簡単に殺される姿が。まるで、その辺に雑魚と同じ扱いをされた」
「怒りに任せて行動するなんてお前らしくないな」
「覚えているか。俺の魔剣の能力を……」
ガイゼルは驚きで目を見開いた。
さっきまで分かっていた未来が真っ黒に塗り替わったからだ。
「俺が切るのはお前じゃない。その未来だ」
「その能力、未だによく分からねえ」
「数秒を無視できる能力だ。何度言えば分かる」
肉眼で見ていた剣が一瞬で腹部まで移動していた。
ガイゼルは咄嗟の判断で後ろに跳んでいたお陰で当たらずに済んだが、未来を視る能力の意味が無くなった事に焦りを感じていた。
「このどうしようも無い感覚はエネの相手をしていた時と同じだな」
「嘘だろ。お前の能力に対応できるのは俺だけなはず」
「クソ親父の方がエネよりも何倍もマシだ」
ガイゼルの剣の持ち方が変わった。
両手で持っていた剣を片手に持ち替え、更に逆手に持った。
両手剣でこのような持ち方をするのは異様な光景だった。
グライスは少し動揺しつつも、己の魔剣を構える。
「なんだ? その変な構えは」
「もう、面倒なんだ」
「そんなに死にたいのか」
グライスの魔剣の能力により、時間が変動した。
目視不可能の刃がガイゼルの迫った。
「俺は未来を視る為に目を使っている訳じゃない。勝つために使っている」
「なん……だと。俺の体に剣が」
ガイゼルを後ろから切りかかっていたグライスから血が噴き出した。
ガイゼルが取った行動は単純だった。
敵が来る場所に剣を置いただけ。
見えないはずの敵の行動を読み攻撃を仕掛けていた。
「なぜ、俺の行く場所が分かった?」
「勘だ」
「勘。はあ、そうか良かった。お前が目を頼り過ぎない様になって」
グライスは静かに倒れた。
まだ息があるため、ガイゼルは警戒を怠らなかった。
「ガイゼル。お前は魔眼を使ってばかりで特に死にかけたことが無い。そのせいで魔剣を召喚できなかった。最後にいいか」
「なんだ?」
「俺たちの勇者は悪いやつじゃない。もし、お前の信じる勇者が死んでも、あいつに復讐をしないでくれ」
ガイゼルにとってリュウは共に戦った仲間であり、友でもある。他人に殺されたとなれば、復讐をする覚悟はあって当然なのだ。
その事を理解しておきながらもグライスはガイゼルに頼んだ。
「そんな事はどうでもいい。あいつは死んでも死なねえ人間だぞ」
「はは、そうか。じゃあ俺は最後の役目を果たすさ。命令だ! 目の前の敵を止めろ」
最後にグライスの目の色が変わり、目を閉じた。
完全に息を止めると同時にガラスが割れるような音がした。
ガイゼルはリュウの援護に行くために歩きだした。
しかし、そう簡単にもの事は運ばなかった。
グライスが急に動き出し、ガイゼルを襲ったからだ。
すでに死んでいるはずなのに動き続けていることに驚愕しながらも、ガイゼルは身を守った。
「おい。さっきよりも力が強くなっているぞ」
ガイゼルは知らないことだが、グライスにも魔眼がある。その名も支配の魔眼。
相手を死んだとしても命令を守らせる人形にする能力。
その魔眼の能力を自分に使ったのだ。
ガイゼルがこの事を知らないのも無理はない。
なぜなら、この魔眼はグライスが生きている時には一回も使われなかった能力だったからだ。
グライスも剣聖の称号を持ち、誇りがあった。そのため、戦闘以外で相手を侮辱する行為は絶対にしないと心に決めていた。
そのため、グライス本人以外は支配の魔眼については一切知らなかった。例え、実の息子であっても。
そんな事を知らないガイゼルは防戦一方になった。
さきほどまでの戦闘がまるで茶番とも思わせるような力の違いに驚いている。
「おい! ふざけるな。勝負はついていただろ」
「……」
無言で剣を振るうグライスに呼びかけるものの一切反応されない。
痺れを切らしたガイゼルは首を撥ねた。
残った胴体が膝をついた。
完全に死んだと思われたが、次の瞬間。
「まだ動くのかよ」
首を失っても胴体は動き出したのだ。
大量の出血をしながらも命令を実行する為に動き続ける。
支配の魔眼の能力は強力だが、人間の尊厳を傷つける戦い方をする。
こんな事になるから生きている内は使わなかったのである。
なら、なぜこの場面で使ったか? それは誰にも分からない。
仲間に対する忠義や信頼か。息子に負けたくない意地なのか。はたまた、突発的に動いたものなのか。ガイゼルには見当もつかなかった。
度重なる剣の重なり合いでガイゼルは気付いてしまった。
剣を下げるとグライスの胴体も剣を下ろした。
死ぬ間際に言った命令には殺せではなく止めろとあった。
そう、ガイゼルが一歩も動かなければ攻撃はされない。
動けない中で、ガイゼルは思った。
もし自分が相手と同じ立場だったら仲間の為にこんな事が出来るのか?
真っ白の魔剣を強く握り絞めながら、下を向いた。
大きく息を吸い、心からの声を上げた。
「クソが!」
誰も聞こえていない声が黒い空間に響いた。




