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九一話 前の勇者

 転移をした先がこんな変な場所になるとは、クウと連絡が出来ないせいで転移が使えない。


 魔力が吸い取られるのを止めることが出来ずに真っ黒い空間を彷徨うこの現状をどうにかするしかなくなった。

 まずは分かる事でも整理するか。


 周りは真っ黒いが、所々に見覚えのある家が複数建っているのが見える。

 あの異世界とは違った家の感じ。記憶力の悪さのせいで、どこで見たか思い出せない。


「おーい。誰かいるなら返事をしてくれー」


 とりあえず、呼びかけたものの一切反応がない。

 こんな時には探索用の能力を持つゴーレムを作ればいいのだが、今は魔力を温存したいが為に自分の足を使う。


 適当に選んだ家の中に入ろうとしても、扉に鍵が掛かっているせいで入れない。

 悪いが緊急事態な為、力業で開けていく。


 特に何も無かったので、次の家次の家と侵入する。


「何もないのかよ」


 合計二五軒の扉を壊しても、何も発見できなかった。

 そろそろ、奥の手でも出そうか迷っている段階に入る。


 この真っ黒い空間そのものを消滅させて、元の場所に戻れる道を創造する。

 あくまで最終手段なので使うことはないだろう。


「スキルも使えないのか」


 【アイテムボックス】等のスキルも封じられている。

 魔法無し、スキル無し。久しぶりにこんな状況になるとは思ってもみなかった。


 状況の確認が済んだ所で、家は残り一つになった。


 他の家とは少し違い、二つの家を繋げたような見た目。これにも見覚えがある。

 ……思い出せない。映像に霧が掛かっているみたいだ。最近、記憶能力が低下している。体の年齢は十歳。老化にしては早すぎる。


 頭を悩ませつつも扉に手を付ける。

 なんだ? この違和感は?


 直感に従いバックステップをする。


「なんで分かった?」


 同い年位の少年が攻撃を仕掛けていた。

 これほどの距離しか離れていないのに、俺に感知されないほどの隠密行動力は敵となれば危険そのものだろう。


「あれ。もしかして、リュウじゃないか? ほら、僕だよ。トシ。覚えてる?」

「あ……。トシ。ドクと同じの竜人の」

「そうだよ」


 名前を聞いてからすぐに情報が出てこなかった。

 記憶の低下。この空間の作用なのかと考えたが、トシが俺の事を覚えている時点でその可能性はないだろう。


「リュウはこの空間について何か知っている?」

「いや、分からない。気づいたらここにいた」

「僕()()と同じか」

「たち?」

「この中に他の竜人が避難しているんだよ」


 竜人と同じような家。ああ、竜人の里の家がどれも同じような感じだったな。

 しかし、未だに霧が晴れ切っていない。


「分かった。トシはここをみんなで守ってくれ。俺は原因を突き止めてくる」

「僕も行くよ」

「いや、竜人は強いがトシみたいに隠れて行動出来る奴は少ない。それに、俺は竜人の里で長老とやら相手にいろいろやってしまったからな」


 適当に理由を付けて、逃げるように離れた。

 連携を取れない人間と行動していても邪魔なだけなのだ。確かに消えたように動ける能力は素晴らしいが、圧倒的に力が足りない。


 今回の敵はかなり厄介だろう。

 まず、この広い空間を作って、俺を移動させた時点で只者ではない。更に、魔力の吸収する機能やら、下手をすれば神が元凶かもしれない。


 周りを注意深く観察しながら歩いていると声が聞こえた。


「やっと役者が出揃った!」


 男というよりは少年に近い声が聞こえた。


 瞬間。スポットライトのような光を浴びせられた。

 眩しい中、周りを見渡すと俺を含めて八人の人間がいた。


 三人は勇者の頃の仲間のレイ、ガイゼル、ジョンだが、残りの四人は全く知らない人間だった。一人を除けば、見た目が仲間たちに若干似ている気がする。


 誰にも似ていない男は高校の制服のような物を着ている。

 高校生らしき少年が口を開いた。


「僕たちは君たちの一つ前の勇者パーティー。僕は魔王を倒す為に別世界から召喚された」


 一つ前の勇者。一回聞いた事がある。

 俺が召喚される五十年前に召喚が行われたらしい。確か、その勇者たちは魔王城前で魔王軍幹部に全滅させられたはず。


 そして、その時に魔王を倒す為に勇者と共に向かったのは俺の仲間の親だった。

 雰囲気が似ているのは親子だからか。


「この事態はお前の仕業って訳か」


 どういう目的か知らないが、竜人を巻き込まれると困る。


「もう聞いちゃうか。まあいい。僕たちは魔族に復讐を誓った。だからさ、復活したいんだよ」

「死んだ人間が……」


 ありえないと言おうとしたが、生き返っている実例を知っている。

 

「そう。魔力があれば、例え死んでいても生き返れるんだよ。そして、君の魔力は僕たちを生き返らせるには十分すぎるほどある」

「だから、この空間か」


 この空間は魔力を吸い続ける。いつか、相手が望む量の魔力が集まるだろう。

 しかし、俺の目の前に姿を現した理由は分からない。別に放置していても魔力は集まるはず。


「放置していてもいいんじゃないか? って顔しているね。教えてあげるよ。勇者は世界に二人も要らないんだよ。勿論、賢者も剣聖も龍人もね」

「《渾沌の嵐(カオステンペスト)》」

「チィ! 急に攻撃を仕掛けるか普通! 陣形を組むぞ」


 火、水、土、風。他にも様々な魔法が混ざり、渦を巻きながら接近してきた。

 仲間たちに指示を飛ばしたが間に合いそうにない。


 この魔力を吸われているで状況に魔法をあまり使いたくない。


「じゃあ、あとは頼んだぞ。レイ」

「《ブラックホール》」


 レイは一度見た魔法をほぼ、魔力消費無しで発動可能になる。

 いくつか制約はあるが、今回はその条件を満たしていた。


 魔法が黒い闇の中に消えていった。

 一瞬発生した隙で陣形を組んだ。


「リュウ! これは、やばいぞ。あれは本物だ。本気でやらないと……」

「おせえなあ。ガイゼル! 本当に俺の子か?」

「クソ親父め! すまねえ。ちょっと離れる」


 ガイゼルが敵に蹴られ、高速で吹っ飛んで行った。


「レイちゃーん。私と遊びましょ」

「ババア。どの面下げて目の前にいやがる」


 レイの乱暴な喋り方は久ぶりに見た。

 ということは、あの女性はレイの親になる訳か。攻撃をしてからフードを深く被り顔が見えにくいが、笑顔を浮かべている事は分かる。


「リュウ。儂はあいつを相手にするのじゃ。絶対に魂もろとも残さない」

「まあ、緩くやれよ」


 魔法を使う上で怒りに任せると暴発をしかねない。

 こっそり、デンに作って貰った拳銃を手の中に入れた。


 何も言わずに頷いた後に別の場所に移動を始めた。


「これで、二対二だね」

「二人? お前一人しかいないが」


 さっきまでいた人間が消えている。

 空気の流れから大体の場所は分かるが、これは魔法で作ったフェイクだろう。わざとらしさを感じる。


 戦うのには面倒なタイプの敵だな。


「この流れだと、俺が相手をするんだろ。やってやるよ。あっ。今は関係ないが、いい鍛冶師を見つけたぞ。いつ、連れて来ればいい?」


 ジョンにデンの教育の為に鍛冶師を頼んでいた。

 デンの才能が異常すぎて、必要なくなったせいで忘れてしまっていた。


 そんな事より、今の現状をどうにかしなければならない。


「見えない奴は任せる。あと、鍛冶師はいらない」

「了解。じゃあな」


 ジョンが透明になり、消えていった。


「これで、二人だけだ」

「そうだな。それで、どうする? 殴り合うか?」


 命のやり取りをする気なら消滅を速攻で使用する。

 出来ることなら、一秒でも早くこの空間から出たい。竜人を安全に戻したいという理由もあるが、何より、恐怖を感じる。


 目の前にいる人間からは感じない、また別の存在による怖さ。


「いや、君と戦っても()()()僕が負けるだろう」

「じゃあ、どうする?」

「僕たちの計画でも聞く? チートについて話し合う? まあ、僕たちは自分の仲間が勝つことを祈るしかないんだ」

「俺は、今すぐにでもお前を殺せるが」


 人間を殺す事は多少心が痛むだけで、出来ないことはない。


「その辺は気にしなくてもいいよ、【創造家(クリエイトハウス)】の能力で仲間たちが死なない限り、僕への攻撃は無効化されるから」

「それが、お前のチートか」

「そうだよ。弱点とすれば、仲間が死ねば僕に深刻なダメージが入る事かな」


 試しに攻撃をしてみるか。


 さっき、レイに銃を渡したがもう一丁服の中に忍ばせている。

 トリガーを引くと乾いた破裂音が響いた。


 一発だけで、人間を肉片に変えられる破壊力が男に当たった。


「これで分かったでしょ。今は僕を殺せない」


 鉄の塊が男に触れた瞬間、自ら破裂するように消えた。

 相手の言っている事は本当だと確信する。


「泥沼な戦いになる前に話そうか。僕たちの計画を」



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