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side 元勇者の弟 六

 魔剣を使ってまで、勝ちに執着した。

 兄さんやユミナさんに負けるのは内心納得できる。年齢による経験差はどうしても埋まらないからだ。


 しかし、マクロは僕とほぼ同い年。負けたくない。


「特殊な剣っぽいね。そんな時にはこうしないとね」


 マクロは自らの剣に触れた。瞬間。剣が大小様々の球になった。

 球の数は合計九個。空中に漂っている所を見ると自由に操作できるみたいな能力なのだろう。


「君は優しいね」


 球が飛んで来た。予想も簡単で大した速さも無い攻撃を躱そうとした。

 しかし、体は動くことは無かった。足に力を込めているのにまるで鎖に繋がれたかのように動けない。


 球は僕の顔面に当たる。自分を火に置き換えているので、ダメージは無い。

 しかし、攻撃が何度も続いた。回復をするたびに魔力を消耗していく。


「そろそろ、気づいてもいいんじゃないかな?」


 マクロが足を指さした。

 下を見てみると、地面が足を拘束していた。まさか、剣を球に変えた時にバレない様に仕掛けていたのか。


「これでも喰らえ」


 拘束を解除する時間にいい的になるのを避ける為に、火をマクロに向けて放つ。

 今のうちに魔剣を使って、自由にならないと。


「残念だけど、僕の『飲む』能力では君の火はなんの意味も無いんだよ」


 一瞬にして火が消された。

 予想していたよりも時間が稼げなかったけど、何とか自由になった。


「じゃあ、これが最後の攻撃になるね。《乱重力(バググラビティ)》」


 謎の言葉をマクロが言った時に嫌な感覚がした。

 これは、何度も体験した事。完全敗北だ。


 右腕は上に引っ張られ、左腕は下に。一瞬にして全魔力が尽きた。


 目を開けるとマクロが使用人たちと対峙していた。

 兄さんが突然連れてきたのだから、不審者扱いされているのだろう。


「シュウ君やっと起きたね。今、思い出したんだけど、僕が強くなれたのは、師匠が危険な場所に送ってくれたからかな」

「詳しく教えて!」


 使用人たちに攻撃をさせない為に僕がマクロに近づく。


「どんな場所に行けば、君みたいに強くなれるんだ」

「名前は分からないけど、体を焼く砂漠地帯や風に触れるだけで痛みを感じる氷山地帯。他にも過酷な環境に変わる場所だったね。いやあ、あの時は生きた心地がしなかったよ」


 環境が変わる場所。一度、本で見たことがある。

 北の最果ては大地が生きているかのように変化している。何人かのAランクの冒険者が入ったが生還した者は未だにいない場所。


 一度も行ったことが無いけど、種族すら変えた僕に勝てる人間が死にかける環境は想像もつかないような場所なのだろう。


「じゃあ、僕は帰る事にするけど明日はどうする?」

「え? どうゆう……」

「師匠に許可を貰えたらまた来るよ。あっ! 出来れば次はお茶を出してくれるとは行かなくとも、攻撃しない様に説明をお願いね」


 マクロは闇に溶けるように消えていった。


 今まで、僕は何度も敗北をした。けど、相手は自分より上の年齢だと思えば特に悔しいと思う機会が無かった。でも、今回僕が負けたのは年齢が同じかそれ以下の少年だった。

 最近、負けてばかりな気がしてきた。


『あーあ。お前は種族を変えても負け続けるのか』

『これじゃあ。面白くありませんね。あなたには傲慢になって頂かないと』

『そうだな。じゃあ、ヒントをやるしかないか。武器と対話してみろ』

『その魔剣は完全状態ではありません』


 悪魔と天使のアドバイスを聞き、手に持っている魔剣を見つめる。

 虹色に輝いているけど、これはまだ不完全状態。


「シュウ様。あの獣人は?」

「ああ。あの子はね……」


 使用人にマクロが兄さんの弟子だと伝えた。


「そうですか。道理で強かったわけですね」


 使用人たちは屋敷に中に戻って行った。


「魔剣オーデウス。お前は……」

「やっと話しかけてくれた」


 魔剣が一瞬で少女の姿に変化した。

 既に城のパーティーで出会っているので、驚きはしない。


「私にはすべての属性が無いと完全状態になれない。お願い。時空の属性を私に頂戴。そうすれば、シュウがあの男に勝てるほどの魔剣になるの」

「時空?」


 時空の属性なんて聞いたことが無い。


 少女の頼みを断ろうとした時に突然ヴェリトラが出てきた。


「時空属性について、一つだけ心当たりがあります」

「教えてくれ」

「空間の精霊王と時間の精霊王。二体に会いに行きますか?」


 相当、真剣な顔で僕を見つめてきた。よく分からないけど、重大な事なのだろうか。


「行きたいけど。デメリットとかあるのかな?」

「私が二体のいる空間には他の精霊は行けないです。なので、魔導は一切使えません」

「大丈夫だよ。戦闘をするわけでもないから」


 そもそも、魔導の詠唱を覚えていないので魔導が使えないのは問題じゃない。


「分かりました。魔力を少々借ります」


 ヴェリトラが僕たちの目の前に火の輪を出現させた。


(くぐ)ってください」


 魔剣を剣状態に戻してから、火の中に飛び込んだ。

 火を抜けた先には真っ白い空間が広がっていた。

 

「どちら様ですか?」


 急に頭に響く声が聞こえた。

 落ち着いた大人びた男のような声。


「あなたは?」

「私は時間の精霊王です。んで、自分は誰や……あなたは誰ですか?」

「すいません。僕はシュウ・ローゼンです」

「何の用ですか」


 途中で乱暴な言葉遣いになった時間の精霊王さんが、ここに来た理由を訊いてきた。

 正直、ここに来た理由は、自分自身でもよく理解していない。時空の属性が欲しいと言っても、よく分からない。


「まあ、大抵の目的はあれやろ。時間の能力が欲しいとか。空間以外の精霊王が人間を送ってくる時は大体そうや。そろそろ、暴走が始まるさかい時空の属性を少し分けるから、さっさと使え」


 どうやって伝えようか悩んでいると再び乱暴な言葉で気になる事を言ってきた。

 こんなにあっさり属性を貰えるとは。


「しもうた。暴走が来てまう。自分。逃げるなら今やで」


 白い場所から、あるモンスターが現れた。

 茶色の羽根に馬のような体。まるで、伝説に出てくるペガサスがいた。


「魔剣オーデウス。どうする?」


 今の状態で怪我を負うとすぐには治らない。

 人間状態になった魔剣が僕をまっすぐ見つめてくる。もしかして、お前が決めろと伝えているのか?


「やってみよう。試し撃ちだ」


 魔剣は頷くと目を瞑った。

 髪の色が徐々に一体化し、灰色に変化する。説明はできないけど、これが()()の完成形なんだろう。


「シュウ。私を使って」


 オーデウスが僕の手に収まった状態で剣に戻った。

 前の派手な虹色とは違い落ち着きのある灰色に変わっていた。なぜか、名前と能力のすべてが分かる。


「全能魔剣オーデウス。『序章(プロローグ)』をからやるよ」


 魔天族の身体能力を使い、ペガサスに先制攻撃を仕掛けた。

 ペガサスは躱す事もせずに剣に当たった。


「『一章 時間』」


 全能魔剣は攻撃を当てるたびに能力が発動する。

 徐々に相手を苦しめる。


 ペガサスが後ろ脚で僕の体を蹴り上げる。

 魔天族の反射能力により、攻撃を避けカウンターで足を切りつけた。


「『第二章 天秤』」


 骨が折れる音がするとペガサスの足が伸びたまま、地面にくっついた。

 あり得ない体勢になり、動けない敵を何度も切りつける。


「『第三章 加速』」


 重力が更に加わり、一章の能力が加速していく。

 第三章は前の章を補助する役割がある。


 このままいけば、無傷で勝てる。しかし、敵はただの雑魚じゃない。

 重力に逆らうように治っていく。いや、この()()光景は何度か見たことがある。


「あの鷲と同じタイプの敵か」


 僕の左腕と右目を潰した相手と同類の相手。

 多分、普通のやり方じゃ勝てない。


「『第四章 永遠』」


 一番使いたくない能力を発動させた。


 第四章は延々と前の章を続ける能力。すなわち、重力がどんどん大きくなる。

 この章の弱点は最終章に進めない事。


 最終章になると、相手の時間が止まる。止まる時間は一章から最終章までの経過時間で決まる。

 第三章で一章の進む速さは倍になる。


 上手く説明はできないけど、そんな能力。

 とりあえず、ペガサスは何度直っても重力で潰されるだろう。


「じゃあ、帰ろうか……。ってどうやって帰ればいいの!?」


 行きはヴェリトラの謎の力で何とかなったけど、帰りはどうすればいいのだろうか?

 ここで、一生過ごすのは絶対に嫌だ。せめて、兄さんに勝つまでは死ねない。


『仕方ねえなあ。悪魔の力を貸してやる』

『魂の結束を高めましょう』


 体から力が溢れ出してきた。

 馬鹿みたいに能力が上がったのはいいけど、これでどうすればいいんだ?


 いや、昔から記憶にあったかのように今から何をすればいいか分かる。

 翼を広げて、力を貯める。


 空間そのものを切りつける。

 瞬間。切った場所が発光し、僕を包んだ。


 目を開けると真っ白い空間ではなく、木ややや赤み掛かった空がある元の世界に戻っていた。

 さて、魔天族の力をどうやって世界に()()()()()か考えていこう。



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