表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/135

side 元勇者の弟 五

 僕の体には、僕以外の存在がいる。

 天使のような性格と悪魔のような性格の二体。


 兄さんと出会った時に二体に僕の体を預けた。

 結果は惨敗。手も足も出ずに負けていた。


 兄さんに打ち付けられた時の痛みが治らずにベッドで寝ていた。

 僕と双子のシーの部屋は同じで、シーはいつも机に座っている。


「リュウが家出をするストーリーなんて、聞いた事がない。二次創作でもそんな設定が無かった。なんでだ」


 兄さんが居なくなってから、毎日のようにシーは一人で呟いている。

 爪を噛み、空いている手で綺麗に光を移す銀色の髪を引っ張り、目は狂ったように色んな方向を向く。正直、怖い。


「主人公は完全にシュウルートに入ったのに、このままじゃあ私は大変なことになる」


 シーには何が見えているかは分からないけど、関わりたくもない。

 それに、僕は兄さんを倒さないといけないんだ。


 体を包むベッドに顔を押し当てて考える。

 兄さんの弱点は? 僕が駄目だった原因は?


 一体、何がいけなかったのだろう。

 考えているとノックが鳴った。


「失礼します。リュウ様の服が余っていたので持ってきました。欲しい服があれば取って下さい」


 兄さんの専属メイドのユミナさんが入ってきた。

 金髪のメイドさんで専属になるほど、戦闘能力と知識量はある。


 そうだ! この人なら兄さんの弱点を知っているかもしれない。


「あの、ユミナさん」

「はい。なんでしょうか?」

「大した事じゃないけど、兄さんの弱点ってなにかありますか?」

「リュウ様の弱点ですか……」


 ユミナさんは考え込むようにして頭を下げた。


「あるとすれば、行動がはっきりしない所ですかね。しかし、どんな事をしてもその()()のようなお力で対応してらっしゃいますけど」

「もっと他にないですかね。例えば、トラウマとか」

()は正常な人間ではありません。それ上に多少の罠はわざと引っかかるでしょうね」


 兄さんが正常な精神をしていない事は昔から知っている。

 楽観的というか、人生を舐め切っていると言っても過言じゃない。


「失礼を承知で申し上げますと、今のシュウ様ではリュウ様はおろか、手加減をした一部使用人にすら勝てないです。()()()にやってみるのもいいかもしれません」


 最後に貶されたようなアドバイスをされたような微妙な事を言われた。

 確かにユミナさんが言うことは一里ある。兄さんと僕とでは根本的な能力が違う。


「ちょっと。待って下さい」


 部屋を去ろうとするユミナさんを引き留めた。


「なんでしょうか?」


 体は未だにズキズキと痛みを訴え掛けている。しかし、やってみたいことがある。今、言わないと僕は進めなくなる気がする。

 兄さんが言った成長しない弟にはなりたくない。


「僕と戦ってくれませんか!?」


 使用人相手に戦いを申し込むのはあまり望ましい事ではないことは知っている。


「手加減無しでお願いします」

「分かりました」


 数時間後。僕は手も足も出せずに倒された。

 立ち上がる気力すら残っていない。


 兄さんとはまた違った別の違いを感じた。基本的な能力が違うことは分かっている。

 ユミナさんと戦っていると伝説にあるような龍を想像してしまう。威圧から来るものなのか、別の要因が絡んでいるのかは分からない。


「精霊王の力を使ってはいかがですか?」

「ヴェリトラの力?」


 確かに戦っている際にヴェリトラを頼っていなかった。

 そうだ! 僕は一()しかいないけど、一()じゃない。


「行くよ。ヴェリトラ僕と一つになれ」

『マスター。どうすれば?』


 一つになろうとしても、イメージが湧かない。

 いや、一回だけ見たことがある。兄さんが自分の体を火で包んでいた時、火と一体化していた。


「僕を火で包め」

『それじゃあ、体が』

「大丈夫。確信は無いけど、何とかなるよ」


 どんな手を使ってでも兄さんに勝つ。

 例え、この試みで大やけどを負っても僕はそれでも構わない。


 胸、いや心の中から熱い何かが溢れだした。

 外見には変化がないけど、内部に変化があった。


 痛みが全然しないのだ。さっきまで、骨が折れる寸前まで殴られたのに何も無かったかのようにダメージが消えた。


「じゃあ、行きます」


 身体能力は一切向上していないせいで、何度も殴られた。

 殴られても、体は一切痛まなかった。徐々にユミナさんが攻撃の強さを上げる。


「あ、すいません」


 ユミナさんの攻撃が僕の腹を貫いた。内臓を潰されても全然痛くない。

 腹に大きな穴が作られたのに血は一滴も出なかった。代わりに火が出てきて穴を修復し、元通りの体になった。


「凄い。能力ですね」

「ありかとご……」


 言葉を発する前に視界が歪んだ。この光景は何度か見たことがある。


『魔力切れです』


 折角、力を手にしたのに魔力量に左右されてしまうとは、もっと魔力が欲しい。


『代われ。俺ならもっと上手くやれる』

『いや、私の方が安定的に動かせる』


 薄れゆく意識の中、悪魔と天使が出しゃばってきた。

 前に二体に体を預けたけど、まるで役に立たなかった。もう、二体は必要がない。


『お前らの力を寄越せよ』


 頭の中で意見を伝える。別に悪魔と天使に嫌われようが、僕には何の損得もない。


『いいねえ。気に入った。悪魔の力をやるよ』

『この傲慢さ。あの方を思い出します。死ぬまで私の力を貸しましょう』


 急に背中が疼きだした。服を脱いで上半身を裸になり、体に変化が無いか確認する。

 さっきまで、痛みを一切感じていなかったのに急に背中を中心に痛み出した。


 叫びたいほどの痛みだけど、それ以上に期待が勝った。

 だって、この痛みは溢れだそうとする力が起こしている。耐え抜けば、僕は更なる高みへと行ける。


『さあ、新しい種族の誕生だ』

『人族を辞め、魔天族とでも言った所ですかね。死後が楽しくなりそうです』


 痛みが治まると力の優越感が僕を支配した。

 今なら、兄さんに傷を与えることが出来そうだ。


 手を広げ、思いっきり翼を伸ばす。

 比喩表現ではなく、本当に翼が生えていた。


「シュウ様。そのお姿は……」

「僕は人族を辞めて、魔天族になった」

「そうですか。あともう一押しですね」


 この一時間の内に途轍もなく成長した。魔力量もパワーも技術面だって全て成長した。


「凄いですね。私も少々本気を出します」


 兄さん以外には負ける気は毛頭ない。悪魔と天使の力は万能だ。

 ユミナさんの口があり得ない程開いた。


 次の瞬間。目を潰す程の光が体を包んだ。

 体の皮膚が剥がれるように光に溶けていく。瞬時にヴェリトラと一体化したため、何とかダメージは少なかった。


「光の属性を纏ったブレスです」


 声のした方向を見ても、誰もいなかった。


「すいません。さっきの一撃で疲れたので、また今度戦いませんか?」

「分かりました」


 今日はここで終わった。


 毎日のようにユミナさんと模擬戦をした。

 何度やっても、勝てず悔しい思いをすることになった。しかし、戦うことにより体の操作に慣れた。


 そんな成長の日々をしていると、兄さんが一人の少年を連れてきた。

 少年は人族ではなくマクロという名で犬の獣人らしい。しかも、兄さんの弟子。


 兄さんが帰るまでは本気を出さずに済んだけど、消えた瞬間に彼の攻撃は激しくなった。


「君の力は凄いけど、武器が弱いね。師匠から武器強化の魔法を教えて貰わなかったの?」


 マクロに腹を蹴られ、木に激突した。

 !?。木が異常なまでに固い。まるで、金属みたいな硬さだ。


「デン姉さんが作ってくれた武器を装備出来れば、君の負けは確実だよ」

「一体どうやって、君はその強さを手に入れたのかい?」


 苦し紛れにマクロに聞いてみた。

 兄さんを倒すヒントがあるかもしれない。


「僕は師匠の弟子の中では最弱ですよ。それも断トツで。君もあの環境に行けば、強くなれるかもね」


 僕を圧倒している少年が弟子の中で一番弱い?

 いや、きっと何かの冗談なんだろう。兄さんの事だがら、この子は謙遜をするように教育されているんだ。否定をする事で自分を正当付ける。


「それじゃあ、次やってみようか」


 種族としても力をすべて解放。そして、ヴェリトラと一体化。

 模擬剣を地面に刺してからスキルを使う。


「【魔剣召喚】」


 魔剣オーデウスを召喚して、構える。これ以上負けるのは僕の()()()()が許さない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ