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八九話 仮戦争

「あ、師匠。来ていたんですね」


 真っ先に気付いたのは残念ながらコンではなく、エネの方が早かった。

 既にガイゼルの隣でのんびりしている。


「他の四人は?」

「今、赤髪の少女に誘われて戦争をしているそうです」

「そうか。なら良かった。……なんだこのタブレット?」

 

 元の世界にあったタブレット端末が地面に置かれていた。

 銃やら戦車やら、ここには異世界の雰囲気を壊す物が大量に置かれているな。


「これもあの少女が置いて行きました」

「見てみるか」


 電源らしきボタンはすぐに見つかった。


 タブレットに映った画面には将棋の盤面みたいだった。

 ただ、方向が滅茶苦茶だということを除いて。


『よし、魔法部隊。横に回れ』


 タブレットから音が聞こえたかと思えば、『魔』と書かれた駒が右を向いた。

 

 将棋って初心者だけでやる時はとっても楽しい気持ちがある。

 しかし、相手が上級者になってくると話が変わってくる。飛車角落ちでやっても全然勝てない。かなり奥の深いものなんだ。


 それにしても、駒の動きが独特的だな。


『もう。最終兵器使っちゃおう!』


 声の後に盤面に白い線が引かれた。

 声からして、デンがビーム砲でも放ったんだろう。


 どんどん駒が粉砕されていく。将棋をやっている人から見たら、鼻で笑うような戦いなのだろうな。


「コン。俺と一勝負するか?」

「わ、私なんかでよろしければ。師匠の為にが、頑張ります」


 何故か挙動不審になっているけど、まあいい。

 タブレットの右端に『次の試合をしますか?』をタップする。


「あの。ルールは分かりますか?」

「将棋なら多少知っているけど。どうせ、違うんだろ」

「はい。とりあえず、やってみましょう」


 光に包まれて瞬きをした。

 

 開けた視界には黒い兵隊が並んでいる。杖やら銃やら戦車までもある。

 もしかして、これが駒で王は自分のパターンなのか?


 それにしても相手の駒が見えない。

 普通の戦争だとスパイ等の工作員が居ないと相手の行動を予測は不可能だろう。


「後衛部隊は集まり、前衛部隊は周りを囲え」


 実は兵を率いる事は初めてなのだ。戦略のせの字も分からない。

 とりあえず、頑丈そうな前衛で後衛を守る。


 守りより攻撃は三倍の兵力を必要とすると聞いた事がある。とりあえず、守りを固めた。

 さて、どんな戦略で攻めてくるのだろうか?


 しばらくのんびりしていると杖を持った影がやって来た。

 斥候(せっこう)役なのだろうか? しかし、一体だけとはまた不可解な。


 とりあえず、攻撃を仕掛ける。

 前衛部隊は動かさずに魔法部隊を使って排除する。数の暴力に勝てると思うなよ。


「いやいや、流石にそれはないだろ」


 一体の敵を倒せた。しかし、罠だったみたいだ。


 真後ろから軍勢が攻めて来ていた。

 将棋をイメージしていたせいで後ろの警戒を一切してなかった。とんだ誤算だ。


 この状況になると仲間がとことん邪魔になる。

 退路を塞ぐのが敵なら一か八かで切り抜けられた。しかし、仲間を殺すのは反乱の元になってしまうこともあり不可能である。


 一応、ここから巻き返す方法がいくつかある。


 一番楽なのが、俺が出て暴れれば一瞬で終わる。

 しかし、コンが折角立てた戦略を踏みにじる事になる。


 知性を感じさせる行動で倒すこそ師匠としてのお手本になるだろう。


「後衛部隊。敵と我々の間の地面に攻撃をしろ」


 命令により攻撃が始まった。

 大軍が近づいて来る中とにかく攻撃させる。


「さてと。攻撃止め!」


 地面には大きな窪みが出来ていた。

 攻撃を仕掛けた角度により、こちら側から見れば段差のような物になっている。


 勿論。相手の次の手は読める。


 崖の上に敵の魔法部隊が並ぶ。

 遠距離勝負の場合は上にいる方が圧倒的に有利になる。


 土が盛り上がっている事もあり、いい立地だと言える。

 俺が相手の立場でも同じことをするだろう。


 少し話を変える。

 将棋をする時に大切なのが、相手の嫌がる行動をする事。その時に相手の心を読める訳では無いので自分だとどうするかを考える。要するに自分がされたくない事をする。


 まあ、そのせいで先輩の一人は性格がおかしくなっていた。


「戦車と魔法部隊は山を狙え」


 敵と味方の黒い兵士が行動をほぼ同時に開始した。

 魔法や砲弾が飛び交う。着弾すると大量の土煙が発生する。


 さて、最高の嫌がらせをしてやろう。

 微笑みながら次の手を兵士に伝えた。


 ――――――


 さて、試合は終わった。

 多分次に勝てと言われれば不可能だろう。かなり特殊な戦法だった気がするし、彼女らの学習能力ははっきり言ってチートなのだ。二度目に勝てる気がしない。


「さて、帰ろうか?」

「最後の戦略教えて下さい」

「解析することも大切なんだ。お前ならすぐに分かる」


 尻尾をぶんぶん振り回して記憶を探っている。

 今、考えている内容を読もうと魔法を使ったら、俺の脳みそは確実に溶けるだろう。一回試して死にかけたのはいい思い出だ。


「次はエネとガイゼルの戦いか」


 弟子たちにはそれぞれ得意な能力が決まっている。

 例えば、コンは一対一の戦いに優れている代わりにデンみたいに道具を作成できない。


 エネは暗殺。いや、観察能力に才能がある。軽く説明すれば人の性格を一目で当てれる。

 だから、面倒くさがりな俺の事はあまり好きじゃないらしい。まあ、ガイゼルの性格が好みなのかは疑問が残る。一応、子孫が残っているからには結婚しているはずだよなあ。


 仲間が浮気をするようには見えない。

 この世には叶わぬ恋もあるのだ。


 試合の様子を見ると次元の違いを感じた。簡単に表現すれば、遊びの域を通り越した謎の行動だ。

 ガイゼルの五〇秒先を見る能力を逆手にとって、盤面に文字を書いている。


『剣』や『愛』の文字を作るという。一見無駄に見えて、結局無駄な行為が続いた。

 最終的には終わらないということで戻ってきた。


 ガイゼルが俺に近づいてきた。


「完全に遊ばれていたよな。何度も変な配置になっていただろ」

「ああ、完全に遊ばれていたな。才能の差だろう」

「俺が才能で負けるなんてお前以来だったな」


 俺の場合は才能じゃなくて、イカサマ(チート)があったからこそ勝てただけだったりする。しかし、エネも含めた弟子たちは異常な才能を持っている。


 ふと、ガイゼルの隣に接近していたエネの顔を見ると笑顔を浮かべていた。


 満面の笑みを浮かべているエネを見て、恐怖を感じてしまう。

 何も知らない第三者が見れば微笑ましい光景なのだろうが、考えていることがある程度分かってしまうと怖くなる。


『愛している者を他人に理解できない範囲で知りたい。私は理解をする。あなたのすべてを』


 ざっとこんな感じの事を考えている。俺には意味が分からない。

 とにかく、独占欲が強い。世の中には多様な趣味嗜好の人間がいるが、こんなに身近に極端なタイプがいるとは思わなかった。


 否定をする事は無いが、ひどい場合は何か手を打たないとな。まあ、まだ後回しでも問題は無いだろう。


「じゃあ、これから家に帰るぞ」


 一言呼びかけるだけで、一斉にみんな集まった。

 そのまま、転移の魔法を掛ける。


 後はマクロを連れてくれば、今日は終わりだ。

 もし、弟子を作ったり反抗期になったりしなかったら、それなりの生活をそれなりに歩んでいただろう。


 今の俺は幸せなのだろう。上手くいかない事や面倒な人間関係や教育。

 何より、()()()()()されている。

 

 第二の人生を歩むと決めた時には面倒な事を嫌い自由を求めていた。

 人間って、行きつく所は死んでも変わらないんだな。


 限られた自由の中だからこそ、自由を求められる。この過程が大切なのだろう。



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