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九話 ダンジョン

 今、俺とロイは王都にあるダンジョンの入り口の前に立っている。入り口は小さいドームの中に下に降りる階段がある形だ。基本的にダンジョンはこの入り口をしている。


「このダンジョン[嫉妬ジェラシー]はこの国にあるあまり人が来ないダンジョンだ」


 ダンジョンの名前は【鑑定】三 以上で分かるらしい。人間が名前を付けている訳ではない。未だにダンジョンは謎が多いらしい。


「一階層の魔物が弱いと言っても油断するなよ。一瞬の油断で命を落とすからな」

「はい。分かっています」


 舐めないで欲しい。俺は五百年前は寝ている時ですら、奇襲が無いか警戒していた男だ。奇襲なんて、今の時代の殺し屋だろうと無理だと思う。


 俺たちはダンジョンの中に入っていった。


 ダンジョンの中は松明が無いのに明るい。これは、ダンジョンにある壁はダンジョン石という光っている石で出来ているので明るい。


 また、本で知ったことだが、名前はダンジョンを【鑑定】したら出てくる。決して人間が付けたわけではないので、こんなにストレートすぎる名前なのだ。


「今日は魔物を何体か狩ったら帰ろうか。食料もあまり持ってきていないからな」


 今回は別に魔物狩りのために来た訳ではない。実を言うともう目的は達成しているので家に帰ってもいい。でも、魔物が予想よりも強かったら怖いので、一応戦っておこうと思う。


 目の前に青色の真ん中に核がある丸っぽいスライムが現れた。見た目は五百年前のスライムと変わっていない。抱き枕にしたら夏でもひんやりしていて気持ち良さそうだ。


「久し振りにレベルを元に戻すとするか」


 ロイが腕からリングを外した。あれは、レイが開発した魔道具の〈レベルワン〉だ。もしかして、俺と模擬戦をしていた時も付けていたのか?

 今、思えば世界で五人しかいない化け物がレベル一の俺に負けるはずが無い。


「行くぞ」


 ロイが消えた。そして、次の瞬間スライムが核ごと真っ二つになっていた。


 俺でも視認することが出来ないスピードだ。流石、剣聖と呼ばれるだけはある。

 しかし、俺が勇者の時の剣聖ガイゼルはスライムをあのスピードで微塵切りにする。

 やはり、時代と共に退化しているのだろうか?


「まあ、こんな所でいいか。リュウ! 魔導が無くてもこんな感じに戦える。何故か知らないが俺よりお前の方が剣の腕があるから諦めるなよ」

「はい。お父様みたいに強くなりたいです」


 精霊が一体しかいない俺を応援すること目的に〈レベルワン〉を外したのか。俺は本当にいい親がいる家族に生まれられたなと思う。

 

「スライムは、ドロップがあまり高く無いけど持っておけ」


 ロイが球体の物を投げてきた。俺は瞬時にあの形はスライムの核だと理解し、キャッチした。さっき真っ二つになったのにこの核は傷すら付いていない。ダンジョンは本当に謎が多いな。


 俺がスライムの核をマントに付いていたポケットに詰め込んでいる間に次のスライムが現れた。

 

「この普通の剣を貸す。次はリュウが倒してみろ」


 俺の番が来た。魔法を使ってロイを驚かせてもいいが、魔物の強さがどんなものか剣で試してみよう。もし、強かったら、レベル上げは後になりそうだ。


 俺はスライムに向かって走って行った。 このスライムの高さは俺の身長と同じぐらいだ。ロイみたいに真っ二つにすることは《身体能力強化》を使っていないので無理そうだ。


 とりあえず、核を狙って、剣で突くように叩いてみた。スライムみたいにジェル状の相手に核以外の斬撃は意味がないと思うので核を狙った。


 剣がスライムの核をつついた瞬間。地面に吸い込まれるように消え、綺麗な、核だけが落ちていた。


「え、もしかして、この程度なのか」


 少し剣で核を突いただけで倒せた。俺は地面に落ちている核を回収した。


「まあ、一階層目のスライムは弱いからな、下に降りるほどスライムでも、毒を帯びていたり、核が何個もあったり、いろんな種類がいるからな。慢心は禁物だぞ」


 良かった。このスライムは最弱な方だったらしい。五百年前のスライムはあの程度の威力では剣を溶かしてください。と言っている様な威力だ。


「少し、探索してから馬車に戻ろうか」

「二階層に向かう階段の所まで行きたいです」


 人があまり居ないダンジョンでも一階層目では他の冒険者に出会う可能性がある。それを少しでも潰すために階段の近くに行きたい。

 

「よし、そうするか。このダンジョンには若い時よく来ていたからよく覚えている。少し早くなるが付いて来いよ」


 ロイが歩き出した。いつもなら俺も歩けばいいが、今のロイは〈レベルワン〉を嵌めていないということは、意図的に早くされると例え、歩きであっても今の俺には走って追いつけるか分からない。


 俺は《身体能力強化》を使って、ロイの後を付いて行った。


「はあ。はあ」

 

 今日はよく息が切れる。クウとの遊びでも息が切れていた。でも、元の世界の中学校時代の部活の方が体力的に厳しかった。


「あともうちょっとだ。諦めるなよ、リュウ」


 今までに通ってきた道を酸素がちゃんと回っているか分からない脳で思い出す。よく見たら、同じ所を回っている。ロイの表情から迷っていることはないだろう。もしかして、わざと回っているのか?

 

 もしかして、ロイは俺を強くするためにここで、鍛えようとしているのだろうか? 

 時々いるスライムを切りながら考えた。


 一周、約四百メートルの場所を六周した。そろそろ、体力が限界を迎えようとしている。倒したスライムは二十を超えたあたりから数えていない。もう、走りたくないので剣でロイを切ろうとする。


「どうした。リュウ」


 あっさり素手で剣を掴まれたと同時に止まってくれた。


「はあ。はあ。何週同じ所走るのですか」

「今、気づいたか。リュウ。お前は少し人を疑ったほうがいいぞ」


 どうやら、走る訓練じゃなくて、人を疑う訓練だった。少し、気分が悪くなったが自分の息子が裏切られたくないと思ってやっているせいで怒りにくい。


「階段はこっちだ」


 ロイがゆっくりなペースで歩き始めた。そして、ほんの数分で下への階段に到達した。


「よし、そろそろ帰ろうか。クレアも買い物が終わった頃だと思うし、走って帰ろう」


 消えた。そう表現するのが正しいだろう。俺、今ボッチ状態です。今度は放任主義みたいだ。ここまでされると、いっそくると清々しいと感じる。


 とりあえず、【魔力感知】を使い人がいないか確認する。誰もいないみたいだ。本当に放置されたようだ。


 普通なら徒歩で地上に戻るが、今の俺はかなり疲れている。こんな時転移が出来たらなと今までは思っていた。しかし、今の俺には精霊がいる。


 『クウ。このダンジョンの入り口までいいか』

 

 クウに頼んですぐにダンジョンを出てやる。いつまでも親の考えている通りに動きたくない。


 『はい。行けますよ。やっと、僕に話しかけてくれましたね』


 実は、契約した精霊とは心の中で会話できる。精霊と話したいと思って、言いたいことを考えると繋がる。

 

 『行きますよ。《短距離転移ショートワープ》』


 クウが魔法を詠唱した瞬間。俺はダンジョン内の出口近くにいた。流石にロイの目の前に現れるのは不自然だと思うので、ダンジョンの中だ。

 そこから、歩いて外に出た。


「リュウ。出るのが早すぎないか。俺が出て、十秒ぐらいしか経っていないぞ」


 すごい疑われている。確かにレベル差が圧倒的あるにも関わらず、十秒しか差が出来なかったら俺でも疑う。


「スキルのお陰です」

「ああ、なんだスキルの力を使ったのかなら納得だ」


 この国の冒険者は他人のスキルについてはあまり聞かない。親子であってもこれだ。自分がやられて嫌なことは戦闘以外でしない。それが、この国ではマナーらしい。


「じゃあ、戻る前に銭湯でも行くか」

「行きます。行きたいです。でも、お母様のことはどうするのですか」


 なんと、王都には銭湯がある。[嫉妬ジェラシー]に行く前に発見したのだ。汗を流したいので入りたい。


「クレアも誘ってみるか。でも、絶対。長風呂をするだろうな」

「早く行きましょう」

 

 汗のせいで服と肌がくっついて気持ちが悪い。もう我慢ならないので、《クリエイトウォータ》でマントの中を濡らし、《クリーン》そして、《乾燥ドライ》を使いスッキリする。

 

「俺は銭湯で待っているから、クレアを呼んで来て貰っていいか」


 息子の前では堂々と()を使うようになったな。


 ――――――


 俺は人がいない路地に行き、クウを呼んだ。


 『今度はどのような要件ですか』

 『馬車まで行けるか』


 ここなら誰にも気づかれずに転移出来る。


 『すいません。僕と契約する前の所はイメージがしづらいので行けないです。役立たずですいません』

 『気にすることはないぞ。なら、教会前で頼む』

 『分かりました。《短距離転移ショートワープ》』


 すぐに教会に到着出来た。よし、ここからなら馬車も近いだろう。



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