第十話 不穏な動き
第56高速艦隊を含むいくつかの艦隊と第6航空艦隊による大規模演習が行われている同時刻、土星に急速に接近する艦艇があった。いや、それを艦艇と呼ぶのは難しい。まず、形状は地球艦隊のそれとは大きく違っており、どこか昆虫をおもわせる独特な形状をしている。それでも、砲らしきものが備え付けられ、人が乗っていることを示しているような艦橋や、窓と思われるものが複数存在する事から艦艇であると理解できるだろう。
では、この艦艇は一体何なのか。その答えを教えるように艦艇は土星の環に入ると比較的巨大な氷の塊に接近するとその身からアンカーを射出。氷と一体化するように動きを停止した。それはそのまま動くことはなかったが何度も通信と思われる電波を発信し続けた。地球にこの電波を発見し、解読する技術はないが、もし、暗号を解読できたのならこのようになっていただろう。
『土星にて地球艦隊集結しつつあり。各艦艇想定を大きく下回るスペックである。攻撃可能と判断する』
これと同じ文面及び各艦艇の外見上のスペックや演習からみられる詳細を報告していくその艦艇。そして、運命の日と呼ばれるようになるまで地球がこの艦艇の存在に気付くことはなく、敵にいいように情報収集されていく事になる。
「XX級高速偵察艦”トンボ223”より通信。……敵艦艇のスペックは想定をはるかに下回っています。すくなくとも偽装というわけではなさそうです」
「やはり地球は平和ボケして技術更新が遅れているようだな」
通信兵の言葉を聞いた男は獰猛な笑みを浮かべると命令を下す。
「敵の情報を得られた今、皇帝陛下の命を実行する! 我らを見捨てた非常なる地球の政府を降し、皇帝陛下の元再び太陽系を統一するのだ! ジルグ・レイフェ」
「「「「「ジルグ・レイフェ! ジルグ・レイフェ!」」」」」
天王星第3番浮遊大陸よりレリアス・リアッヘ級砲撃決戦艦1番艦を旗艦とする強襲艦隊が出撃。土星の演習宙域に向けて出陣した。
地球側にこの動きを察知できた者は、いない。