第九話 演習7
マグサの読み通り、ポータルの先では第6航空艦隊の主力が存在した。鳳凰型4隻を中心に空母4、高速戦艦2、重巡5、軽巡10、駆逐20で構成されたこの主力群はポータルを超えて帰還した艦載機の着艦作業を行っていた。
「急げ! 敵がすぐにでもやってくるかもしれないぞ! その前に着艦と補給、第四次攻撃隊の発艦を始めるのだ!」
飛行甲板には整備長の怒号が響きわたり、燃料と弾薬の補充を急ぐ整備兵たちを叱咤していく。そんな様子を艦橋から覗いていたミラルドはつぶやいた。
「そろそろあちらの一手が来る頃だな」
「ポータルを通って敵が攻めてくるということですか? でしたらすでに高速戦艦二隻を中心に出口を固めております。やってきた瞬間にハチの巣にしてやりますよ」
「ふ、もし相手がその手で来ると考えているならばまだまだだな。確実にそこから敵は来ない」
さも当然と言わんばかりに断言するミラルドに艦隊配置をした副指令は眉を顰める。誰であれ、ポータルに飛び込んでくると思っていたからだ。
「見るからに罠と分かるポータルに飛び込むのは三流や素人のやることだ。一流ならそんなことはしないさ」
「……では司令は敵がどう来ると思っているのですか? 少なくともポータルに艦を入れないと我らの位置を特定するのは難しいのですよ?」
「そんなものはやりようしだいさ。……ほら、敵はそれを実践してくれているぞ」
ミラルドは楽し気に笑いながら外を指さす。彼女が指した先には赤く点滅する小さな球体がかろうじて漂っているのが確認できた。
「なっ!? あれは……!!!」
「自らの地位置を知らせるビーコン。駆逐艦をはじめとする小型艦艇には必ず装備されているものだ。副指令、戦闘態勢をとれ。それとポータルを攻撃して使用不可状態にするんだ。敵はわれらの位置を把握したぞ」
「っ!! 全艦戦闘態勢! 近接戦闘に備えて空母を中心とする輪形陣型をとれ! 急げ!!」
ミラルドの言葉に慌てて指示を出す副指令の声尾を背中から聞きつつ、敵の動きを予測する。
「(もともと練度が低下し続ける軍の練度向上と戦争以来鎖国を続け、一切の情報が流れてこない皇国に備えての演習。空母がいないために艦載機にいいようにやられる彼らには悪いがそのような状況でも戦う実力をつけてもらわないとな)」
ミラルドはこの演習がもたらす先にあるものを考え憂鬱になりつつも演習へと意識を戻していくのだった。